007/オクトパシー(1983年イギリス)

Octopussy

今度、インドでのロケ撮影を敢行したシリーズ第13弾。

何故か、本作が劇場公開されてから半年後に、ハリウッドで“007シリーズ”を独自に製作し、
初代ボンドことショーン・コネリーがカムバックした『ネバーセイ・ネバーアゲイン』が劇場公開されましたが、
評論家筋からの評価も、興行収入面でも圧倒的に本作の方に軍配が上がりました。

映画の出来としては、まぁこの頃の“007シリーズ”としては標準的な出来でしょう。
正直言って、ロジャー・ムーアに交代してからの“007シリーズ”は完全に迷走してしまっており、
シリーズ本来の面白さが失われただけでなく、映画の方向性を常に試行錯誤しながら撮っている感じで、
あっち行ったり、こっち行ったりして、プロダクションも迷いながら撮っていた感がどうしても拭えません。

それでも本作は、最低限の役割はキッチリ果たしており、
前作からメガホンを取っているジョン・グレンに監督が交代して正解だったことを証明していますね。

映画の冒頭からアクション・シーンに於ける見せ場を凝縮しており、
お約束のボンドがピンチを迎えても、お色気の力を借りて、小型飛行機を使って逃げるし、
ロジャー・ムーアが撮影当時55歳だろうが、スタント・アクションを駆使して、とにかく見せ場が連続します。

特にインドでのアクションはなかなか面白く、
意外にも“007シリーズ”で初めてインドを舞台にした作品だったせいか、
どことなく新鮮な空気があって、マンネリ化したロジャー・ムーアが演じるボンドである空気感を
見事に入れ替えしようとして成功しているように思いますね。映画の前半はそんなに悪くないと思います。

ところが、後半に入って、核爆弾を追ってボンドもベルリンに入って、
サーカス団と大円卓を迎えてハイライトを迎えるはずだったのですが、鉄道を使ってのアクションも含めて、
イマイチ盛り上がりに欠けてしまい、まるでコントのようにドタバタした落ち着きのない演出になってしまう。

これもまた、ロジャー・ムーアが演じるボンドの典型例ですが、
どこかコメディ・テイストを映画に残そうとしたがために、映画の空気が見事に分断されてしまいます。
この辺はジョン・グレンも何とか改善して欲しかったところで、これは前作から更にエスカレートしている。

人食いワニをモチーフにした小型ボートの造形には笑ったけど、
別に多くの観客が“007シリーズ”に期待しているものは、こういうギャグではないだろう。
まぁ・・・これはロジャー・ムーアに交代してから作られた一つのカラーであることは否定しないので、
全否定はできないのですが、本作に至ってはギャグありきになっているような気がして、感心しませんでしたね。

そして、映画のラストではもう一回、インドに戻ってのシーンになるのですが、これも蛇足でしたね。
上映時間が無駄に長くなるだけで、どうせならベルリンだけのシーンで終わらせた方が、ずっと良かった。

今回のボンドガールに『007/黄金銃を持つ男』でボンドガールを務めた、
モード・アダムスが2回目の起用で、本作ではタイトルになっている“オクトパシー”を演じています。
『007/黄金銃を持つ男』でも、ロジャー・ムーアに向かって「熟れてるわよ」なんて名言を残してますが(笑)、
本作では更に登場時間が長くなり、映画の最後まで出演していますが、個人的には前回のが良かったかな(笑)。

まぁさすがにモード・アダムスも、失礼ながら撮影当時40歳を超えていたわけであり、
ロジャー・ムーアも含めて、完全に高齢化が進んでいて、シリーズは転換期を待っている感じですね。
やはりクドいようですが、僕はロジャー・ムーアは『007/ムーンレイカー』あたりで降板すべきだったと思う。

70年代後半から80年代にかけての“007シリーズ”が完全に迷走してしまい、
4代目ティモシー・ダルトンも結構、良かったのに、シリーズ自体が長続きせずに2作だけで契約を切り、
6年間という長いブランクを空けて、5代目ピアース・ブロスナンに交代して映画の方向性を完全に変え、
“007シリーズ”が普通のアクション映画になってしまったことの原因は、この頃にありますね。

もう、さすがにロジャー・ムーアも開き直ってか、
格闘シーンに体のキレも、動きの素早さも一切なく、スタント・アクションに完全に頼っています。

そのせいか、当時の彼にできるアクションを精いっぱいこなしてはいるし、
ベルリンのサーカス団での大円卓に至っては、かつて無かったようなピエロに扮装して、
核爆弾の存在を伝えに行くなど、肝心なクライマックスのアクションに至っても、ギャグにしてしまう荒業ぶり(笑)。

こういうあたりが賛否両論になる原因で、僕もあまり感心しませんが、
逆にジョン・グレンは「これは仕方ないだろ」と言わんばかりに開き直ったように堂々と演出していて、
この緊張感の欠片も感じさせないクライマックスのあり方が、逆に新鮮に映ったのは僕だけでしょうか?(笑)

ちなみに“オクトパシー”という名は、彼女の父親がタコの研究家だったかららしいのですが、
あまりに安直な名前の由来にビックリで、人を襲う(?)タコらしき動物が登場してきます。
しかし、この映画はそれをほとんど活かすことなく、今回は動物からの襲撃を描くことを最小限にしています。
インドの密林に入っても、ボンドが虎に襲撃されそうになりますが、結局、これも肩透かしに終わります。

これまでサメを使ったり、動物ネタもシリーズの定番だっただけに、これは勿体なかった気がしますね。

契約の関係もありましたが、本作の時点でロジャー・ムーアは次作への出演も決定しており、
50代後半のボンドが実現することで決定しており、この路線は次作まで引きずってしまいます。
まぁロジャー・ムーアの交代は無理だったにしろ、監督はここで交代しても良かったかもしれませんね。
(勘違いしないで欲しい。ジョン・グレンの仕事ぶりは悪くなく、本作でも十分に評価に値します)

今回の主題歌はリタ・クーリッジ。
これまでのシリーズの主題歌の潮流をしっかりと汲んだ主題歌になっており、
リタ・クーリッジの知名度のせいもあるけど、あまり有名な曲にはならなかったけど、僕は好きだなぁ。

本作単体ではそんなに悪い仕事だとは思わないけれども、
シリーズ全体のことを考えれば、本作のような作品を連発したことが良くなかったんだろうなぁ。
そう思うと、なんだかフクザツな想いにさせられてしまう、なんともビミョーな作品でした(苦笑)。

(上映時間130分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ジョン・グレン
製作 アルバート・R・ブロッコリ
    マイケル・G・ウィルソン
原作 イアン・フレミング
脚本 ジョージ・マクドナルド・フレイザー
撮影 アラン・ヒューム
音楽 ジョン・バリー
出演 ロジャー・ムーア
    モード・アダムス
    ルイ・ジュールダン
    クリスティナ・ウェイボーン
    カビール・ベティ
    スティーブン・バーコフ
    ロバート・ブラウン
    デスモンド・リュウェリン
    ロイス・マクスウェル