オーシャンズ12(2004年アメリカ)

Ocean's Twelve

01年にオールスター・キャスト映画としてヒットした『オーシャンズ11』の続編。

前作でラスベガスの大富豪ベネディクトを出し抜いて大金を奪い、
かつベネディクトの恋人で元妻だったテスを取り戻したオーシャンは新しい生活を手にしていたものの、
結局はベネディクトに犯行がバレて居場所を突き止められ、利子をつけ2週間以内に返済するように迫られ、
結局は再びアムステルダムで“ファベルジェの卵”と呼ばれる美術品を、3Dホログラフの物とすり替えて、
本物を頂いてしまおうと計画し、11人のチームで乗り込む。ピンチに陥ったチームは、12人目の協力者として
テスをアムステルダムに呼び、女優のジュリア・ロバーツを装って犯行を遂行しようと画策します。

前作はもう少しエンターテイメント性が高くて、ワクワクさせる仕掛けがあったのですが、
シリーズ化するということが目的化してしまったせいか、かなり中途半端な出来だなぁと感じた。

なんか、前作にも似たような部分はあったように記憶しているんだけど、
登場人物が多過ぎて、話しの整理が上手くついていない印象があります。群像劇の見せ方として失敗ですね。
色々と説明しておきたい気持ちは分かるのですが、それを無理矢理にスタイリッシュに見せようとして、
どこか映画としてハマらないという、スティーブン・ソダーバーグの悪いところが出てしまっているように思う。

そもそもが、映画が始まってから約15分は、それぞれのチームメンバーの近況を描くなんて、
あまりに冗長な出だしで、なかなか本題に入らない感じで、この冒頭でつまづいた観客も多かったと思います。

上映時間が2時間ある内容ですので、もっと早い段階で本題に入って、
映画にしっかりとエンジンをかけるべきで、チームメンバーが11名いるのはいいのですが、
無理に全員に細かくスポットライトを当てる必要はなかったと思うんですよね。内容的に凄く一方的な映画なので。

結局はジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、ジュリア・ロバーツ、マット・デイモンあたりの
仲良しが集結する映画というコンセプトなのですから、彼らにフォーカスすれば良かったのに・・・と思うんですよねぇ。

オマケにブルース・ウィリスが本人役でカメオ出演するなど、とっても贅沢な映画なんですが、
これもあまり良いインパクトを残せず、どうせならもっとハッキリとしたコメディ映画にした方が良かったなぁ。
僕はジュリア・ロバーツ演じるテスに、ジュリア・ロバーツ本人に化けさせるという発想は嫌いじゃないんですが、
これは完全にコメディの筋書きですよね。製作当時、彼女が双子を妊娠していたことで脚本を手直ししたそうで、
その設定もしっかりと語られているのですが、それならばそれで、もっと思い切ってコメディにして欲しかったなぁ。

オーシャンたちが映画の終盤にピンチを脱する方法にしても、どこか面白くはないし、
アンディ・ガルシア演じるベネディクトが中盤以降は完全に存在感を失ってしまうのも、なんだか勿体ない。
賛否はあると思いますが、本シリーズはオーシャンとベネディクトの対決が基本コンセプトだと思うので。

結局、この映画はキャサリン・ゼタ=ジョーンズの演じるラヒリという女性捜査官でしょう。
ラスト・カットのポーカーに興じて笑う彼女のショットを観て、スティーブン・ソダーバーグは本作で彼女を
撮りたかったのかと、妙に納得させられてしまった。確かにショートカットにして、これまでのイメージとは違っていたし。

そういう意味では、「12人目は実はラヒリ演じるキャサリン・ゼタ=ジョーンズなんです」と言われても、
あんまり不思議ではないですね。そういう意味では多様な解釈のできる内容ではあると思うのですが、
それでも映画としては今一つ楽しめなかったですね。このノリは欧米の方々なら、分かるのかもしれませんが・・・。

とは言え、込み入った複雑になり過ぎたストーリーの中でも、
カジュアルかつスマートに見せようとするスティーブン・ソダーバーグのストーリーテリングは相変わらず光る。
フラッシュ・バックばかりなのが気になるが、やっぱりスティーブン・ソダーバーグの映画は編集で決まると実感。
本作は語り口は悪くないと思うけれども、どうしても観客を置き去りにしている感が強いのは、この複雑さでしょう。

映画の冒頭に延々とオーシャンのチーム・メンバーのそれぞれの動向を描き、
時制も行ったり来たりして構成することで、観客が付いて行こうとする意欲を失うほど複雑にしてしまった。
これを結構まともに編集してしまったので、エンターテイメント性の欠片も感じられない作品になってしまったのかと。

いっそコメディ映画にして欲しかったと前述はしましたが、一方でスティーブン・ソダーバーグには
コメディ映画は難しいのかもしれないとも思ったのは事実、劇中、ヴァンサン・カッセル演じる凄腕泥棒が
先に“ファベルジェの卵”を盗み出すという回想シーンで、彼がアッサリと盗み出した事実をオーシャンが不思議がり、
さぞかしスゴいトリックがあるのだろうと聞き出すも、いざ回想シーンでは凄まじいレーザーの嵐の中をまるで踊るように
彼がかいくぐるという展開であって、それが喜劇的に描かれている。しかし、これは正直、賛否が分かれるでしょう。

あれは作り手が「オイオイ、レーザーに当たっとるやん!」とツッコミを入れないでねと、
前置きしているようなゴリ押しのシーン演出で、僕は正直言って、なんかズルいなぁと感じてしまった。
面白くないとは言わないけど、あのシーンはもっと普通に描いて欲しかった。その方がオーシャンらも、
「ウソだろ?」という呆気にとられたようなリアクションがとれたはず。だって、実は何もトリックはないのだから。
ハッキリ言って、トリックがないこと自体がギャグのようなもので、オーシャンのリアクションで“間”をとればよいと思う。

ちなみに映画のラストシーンで、ベネディクトの屋敷の掃除担当として
ヴァンサン・カッセル演じる凄腕泥棒がいるというのは、第3作へ向けての伏線になっている。
本作製作の時点で第3作が決定していたわけではないと思うのですが、常に“種まき”する精神は感心する。
これをシナリオを書く時点で考えつくのは誰でも出来るが、実際に描こうと決断することは難しいと思う。

少々、寂しいのは第1作のような犯罪映画の要素がほとんど感じられないところだ。
勿論、泥棒を描いた映画ですので、犯罪をテーマにしていると言えばそうなのですが、オーシャンの“仕事”がメインと
いうよりも、オーシャンのチームメンバーの人間模様がメインになってしまっている感じで、どこかピンボケしている。

やっぱり、この映画にはオーシャンらがピンチに陥って焦るシーンが致命的なほどに欠如していると思う。

それがないから、映画にはスリルも無く、どこか緩慢な内容という印象で終わってしまう。
これはスティーブン・ソダーバーグ自身がどう振り返っているのかは分からないが、大きな反省材料ではないかと思う。
それが出来ないならば、やはりコメディ映画に鞍替えしてしまうしかない。このままではどっちつかずの中途半端だ。

第1作では終始、何かを食べていることが特徴だったブラッド・ピットもどこか大人しい。
その代わりにジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツの夫婦がイチャつくシーンが増えた印象がある(笑)。

この辺はスティーブン・ソダーバーグが、この第2作で何を表現したかったのかというビジョンと一致しているのだろうか?
彼のホントの狙いが不透明なので、なんとも言えませんが、おそらく僕には本作の本質が読み取れなかったのだろう。
それが残念で、やはりスティーブン・ソダーバーグって、どこか掴みどころがないディレクターだなぁと思えてしまう。

個人的には脇役ではあるが、チームメンバーとして第1作に続いて、
エリオット・グールド、カール・ライナーというベテランが出演していることが嬉しい。特にカール・ライナーは既に80代。
先日98歳で大往生されましたが、メンバーの中でも頑固なアクセントになりながらも、テスがピンチになったとき、
彼女の窮地をサラッと救うように登場し、実に美味しいところを持って行ってしまう妙味のあるキャラクターだ。

僕はこういう脇役をしっかり立ててくれるところのある、スティーブン・ソダーバーグは好きです。

そうなだけに、もっと映画で何を表現したかったのか、もっとシンプルに表現して欲しかった。
本来はエンターテイメント性の高い題材・コンセプトで、これだけ入り組んだことを描こうとしても、
悪い意味で中途半端になってしまうのは分かっていたはずで、彼ほどのクレバーさがあるのに何故?と疑問に思える。

(上映時間124分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 スティーブン・ソダーバーグ
脚本 ジョージ・ノルフィ
撮影 クリス・コニアー
   ピーター・アンドリュース
編集 スティーブン・ミリオン
音楽 デビッド・ホームズ
出演 ジョージ・クルーニー
   ブラッド・ピット
   ジュリア・ロバーツ
   キャサリン・ゼタ=ジョーンズ
   マット・デイモン
   アンディ・ガルシア
   バーニー・マック
   ヴァンサン・カッセル
   ケーシー・アフレック
   エリオット・グールド
   スコット・カーン
   ドン・チードル
   アルバート・フィニー
   エディ・ジェミソン
   シャオボー・クィン
   チェリー・ジョーンズ
   カール・ライナー
   ブルースウィリス
   トファー・グレイス