オーシャンズ13(2007年アメリカ)

Ocean's Thirteen

いろいろな意見はあるだろうけど・・・
個人的には『オーシャンズ11』から続くシリーズ自体、そこまで面白いと思ってはいなかったせいか、
全体的に無駄な部分を削ぎ落して、それでいてソリッドな仕上がりにした、この第3作が一番の出来だったと思います。

今回はジュリア・ロバーツもキャサリン・ゼタ=ジョーンズも降板してしまったわけですが、
彼女たちは「さして重要な役にならないのであれば出演しない」というスタンスを貫いたみたいで、それは賢明な判断。
スティーブン・ソダーバーグも彼女たちのようなビッグネームを、添え物のような扱いにしなかった点も良かったと思う。

とは言え、オールスター・キャストの映画なのでどうしても...大味な映画になりがちで本作もそうなっている。
スティーブン・ソダーバーグも何故にこのシリーズに3作も付き合ったのか、彼自身が乗り気だったのか...
それともジョージ・クルーニーの“道楽”的なものに付き合ったのか、真相はよく分かりませんが...これは勿体ない。
当時のスティーブン・ソダーバーグなら、もっとスゴい映画を撮れたと思うのですが、どこか煮え切らない仕上がりだ。

つまらないとまで言わないし、前述したように『オーシャンズ11』よりも良くなったとは思うんだけど...
それでも、映画全体として弛緩し切ったように緊張感の欠片も感じられないコンゲームを描いているわけで、
映画が走り出しそうで走らないし、盛り上がりそうで盛り上がらない。まぁ、この緩さが本作の良さなのだろうけど・・・。

さすがに第1作でもロケ撮影で使われていたラスベガスのベラージオのゴージャスな映像は良いですよ。
どこかギラギラして、視覚的に煌びやかな映像は正しくラスベガスの空気感そのものでしょうし、良い意味でリッチ。

しかし、やっぱり観ていて気になるのです。スティーブン・ソダーバーグにゴージャスさは似合わないと。
いや、それは僕の勝手な偏見なのだろうけど、色々な映画を経験してきて感じさせるのは彼のフィールドではない感。
勿論、こういう映画にトライすることは否定しませんし、それなりにエンターテイメントを作れる能力があることを証明し、
ジョージ・クルーニーら“お仲間たち”と楽しそうに映画を成立させることは、相応に高い能力がないと出来ない仕事。

でも、なんか本作も結果的にそうなってしまったんだけど、どこか“これじゃない感”が拭えないのですよね。
敵対する実業家バンクを演じたアル・パチーノにしても、もっと憎たらしい大物として描いて欲しいのに、何故か小物。
これでは映画が良い意味で盛り上がる方向にはいかない。騙しがいってものが、あまりに希薄だからなのです。

やっぱり映画なんで...もっと難攻不落な相手であった方が、倒しがいがあるし映画が盛り上がります。
用意されていたシナリオの問題もなくはないのですが、スティーブン・ソダーバーグがもっと演出して欲しかった。
描こうと思えば、もっと強敵っぽく出来たのに敢えてやらなかった。その代わりに工作活動を中心に描くのだけど。
これは第1作の『オーシャンズ11』から共通して言えることだけど、悪役側の掘り下げが足りないのは気になります。
(これはオールスター・キャストの映画なので、全員をある程度描かなければならなくなることの宿命ですが・・・)

ついでに言えば、オーシャンたちが様々な工作活動をしてバンクをなんとか騙そうとするのですが、
あまりに細々した入念な工作活動を繰り返すので、観客もこれに付いていくのに必死になってしまったことで、
映画の醍醐味を味わいづらい。ハッキリ言って、分かりづらい。エンターテイメントなんで、もっと単純明快で良いのに。

こういうことをやり始めたら、シリーズのコンセプトが一体何なのか作り手が見失ってしまうかのようで、
実際、本作が劇場公開された頃は、本作を観もしないで僕は勝手に「こりゃ『オーシャンズ14』もすぐ出来そうだ」と
皮肉っぽいことを思っていました。実際はバーニー・マックが急逝してしまったことで、スティーブン・ソダーバーグの
続編への意欲は無くなり、本作以降はシリーズが続くことはなかったのですが、ヒット・シリーズでしたからねぇ・・・。

スタジオとしては、おそらく更なる続編を製作したかったのだろうし、構想はあったのだろうと思います。

キャストとしては、ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、マット・デイモンらいつも主要キャストに加えて、
本作ではアル・パチーノにエレン・バーキンが加わっている。エレン・バーキン演じるバンクの敏腕女性側近は
なんだか途中から妙な方向へと走ってしまう役柄で、マット・デイモンが自らに投与した媚薬の効能で彼に魅了され、
すっかりメロメロになってしまうというあり得ない展開。失礼ながらも、結構な年齢差があるように見えますけど、
本作のエレン・バーキン、なかなか頑張ってます(笑)。角度によっては、キャメロン・ディアスに似ているように見える。

そもそもが、アル・パチーノとエレン・バーキンは89年の『シー・オブ・ラブ』以来の顔合わせで、
映画の途中からバンクへの復讐なら加担すると入ってきた富豪ベネディクト役としてアンディ・ガルシアも共演。
アル・パチーノとアンディ・ガルシアは90年の『ゴッドファーザーPARTV』以来の共演で、なんだか懐かしい顔ぶれ。

この辺はスティーブン・ソダーバーグなりの映画ファンへのサービス精神の表れという気もしなくはないです。
何か因縁めいたものを過去の共演作品とも重ね合わせているようで、基本的にはアル・パチーノがやり返される。

ただ、オールスター・キャストの映画としてアル・パチーノやエレン・バーキンが加わったとは言え、
やっぱりジュリア・ロバーツとキャサリン・ゼタ=ジョーンズが抜けてしまったというのは、正直言って・・・痛い。
この当時のオールスター・キャストというなら、やっぱり全盛期にいたスターたちを勢揃いさせる企画でないと。。。
決してアル・パチーノも悪い仕事ぶりというわけではないのですが、キャストの豪華さという観点では少々物足りない。

バンクがこだわって自身の経営するホテルで得ようとしていた、“5ダイヤモンズ”という称号について
審査員となる男性がホテルに宿泊しに来るというエピソードがあって、まずその審査員を詐称してオーシャンの仲間を
審査員だと信じ込ませることから始まり、ホントの審査員は徹底してホテルの中でトンデモない扱いを受けてしまう。
部屋には菌だらけと見せかける工作活動を行い、皮膚に発疹ができる薬剤を散布され、食事して気分が悪くなる。
体調が最悪な状態にさせられるホテルだとウンザリしていたところで、追い打ちをかけるように退去せよと宣告する。

あまりに酷い扱いを受けることに閉口させられる部分も無くないないけれども、ここは最後にドンデン返しがある。
さすがに悪いことをしたと、オーシャンらの細工でしっかりと“御礼”をこの審査員にするあたりが心ニクい演出ですね。

今だったら“5ダイヤモンズ”みたいなことって、ミシュランガイド≠フようなものがあるとは言え、
主力は口コミサイトに譲っているので、一般人が格付けをする時代になっている。それゆえ、難しい時代になり、
社会問題化した事案も発生したりはしましたけど、いろんなことに気を遣わなければならない時代になりましたね。
消費者の選択材料が増えたことは良いことだけど、消費者側の影響力が大きくなり過ぎると、弊害がでてくると思う。
この辺のバランスを上手くとっていくことが、今後の社会的な課題だという気もします。暴走する消費者もいますから。

そういう意味では、最近ではカスタマー・ハラスメント対策が企業でも注目されるなど、
10年前までなら考えられなかった、若しくは誰もやっていなかったことが、当たり前に行われるようになっています。

それからカジノでの細工は良いにしろ、さすがに地震発生装置を仕掛けるという発想は訳が分からない。
オーシャンほどの組織力を持ってすれば、わざわざこんなやり方をしなくともバンクには対抗できるだろうと思える。
しかも、現実的なことを言ってしまえば、本当の地震ではないことがすぐにバレてしまうやり方なので、説得力ゼロ。

オーシャンだって、一応は知能犯という扱いなのだろうから、この訳の分からなさは致命的だったように感じられた。
しかもオーシャンがコントロールタワーとして機能する映画で、彼自身はほとんど直接的に手を加えないわけで、
動きはあまり無い役柄ですから、この訳の分からなさは彼の印象を“下げる”要素となってしまうような気がしますね。
どうせなら、オーシャンはもっと頭の良い存在であって欲しいし、観客からも信頼あるキャラクターとして描いて欲しい。

とは言え、作り手としても本作がシリーズの集大成という気持ちで撮ったのだろうし、
最終的にはなんとか上手くエンターテイメントとしてまとめた作品です。やっぱりラスベガスの魔力も大きいですが・・・。

相変わらずカットを割ってスピード感ある展開に見せるなど、スティーブン・ソダーバーグらしさは全開です。
今回はあまり多用しませんでしたが、マルチカメラなど彼の専売特許のような映像センスは、実に特徴的ですから。
技巧的にそういったものを使うには、このシリーズでは限界があるので、この辺りで終了は丁度良かったのでしょう。
本作がシリーズ最終章になってしまいましたが、「終わり良ければ、すべて良し」という感じで、良い終わり方でした。

個人的にはもう少し登場人物を絞って、オーシャンたちの工作活動を分かり易く、
ピンポイントで描いた方が良かったとは思うんだけど、ゴージャスかつダイナミックに描きたかったのでしょう。
個人的にはニセの“5ダイヤモンズ”の審査員に扮したカール・ライナーが元気に活躍していたのが嬉しい一作。

(上映時間124分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 スティーブン・ソダーバーグ
製作 ジェリー・ワイントローブ
脚本 ブライアン・コッペルマン
   デビッド・レビーン
撮影 ピーター・アンドリュース
編集 スティーブン・ミリオン
音楽 デビッド・ホームズ
出演 ジョージ・クルーニー
   ブラッド・ピット
   マット・デイモン
   アンディ・ガルシア
   ドン・チードル
   アル・パチーノ
   エレン・バーキン
   バーニー・マック
   ケーシー・アフレック
   スコット・カーン
   エディ・ジェミソン
   シャオボー・クィン
   エリオット・グールド
   カール・ライナー
   ヴァンサン・カッセル
   ジュリアン・サンズ
   デビッド・ペイマー