オーシャンズ11(2001年アメリカ)

Ocean's Eleven

60年の名作映画『オーシャンと十一人の仲間』のリメーク作品で、
当時、『アウト・オブ・サイト』、『トラフィック』と立て続けに高評価のヒット作を製作したことで、
ハリウッドでも売れっ子映像作家であったスティーブン・ソダーバーグがオールスター・キャスト勢揃いで描きます。

劇場公開当時も話題性ある企画であっただけに、映画の中身はともかく、
日本でも大ヒットとしたクライム・サスペンスで、まぁ・・・やっぱり、このキャスティングがスゴかった。

スティーブン・ソダーバーグもビジネスライクなところがある映画監督ですので、
そういう観点から本作を観れば、本作は優れた企画だったのでしょう。実際に3作の続編も製作されたわけで、
この企画の大ヒットのおかげで、スティーブン・ソダーバーグはハリウッドを代表するヒットメーカーになりました。

あくまで個人的な意見ですが...確かに手堅く出来た映画ではあるのですが、
想像を超えるような化学反応が起きた作品ではなく、どことなく表層的な映画には映るところがある。
スティーブン・ソダーバーグも大胆にエンジンを入れ替えて撮影に臨んだ印象がありますけど、
もっと躍動感溢れるような、アップテンポな映画であって欲しかったのですが、全体的に説明的になり過ぎたかな。

特に映画の前半は、そういった傾向が強いように感じたのですが、
主人公のダニエルが4年間の服役を終えて、仲間を集めて、一人一人に計画を説明して、
難攻不落のラスベガスのカジノへ潜入しようと、用意周到に準備していく過程に、時間をかけ過ぎたかもしれない。

確かにこの準備に時間を費やすことは反対しないし、丁寧に描いたこと自体は良かったのだけど、
映画全体のバランスを考えると、後半の“実行”のシーンのヴォリュームが薄くって、どこかアンバランスに見える。
そのせいか、妙に準備のシーンが長くって、なかなか本題に入らない映画という印象が残ったかなぁ。

この辺はどこまで、スティーブン・ソダーバーグの意向が反映されているのか分からないけど、
おそらく編集の段階でかなり削ったのだろうから、もう少し準備と“実行”のバランスは再考した方が良かったですね。

オリジナルでは、主人公をフランク・シナトラが演じていましたが、
本作で主演のジョージ・クルーニーはさすがにカッコ良過ぎるくらいで、男も惚れる男と言っていい。
終始常に何かを食べているブラッド・ピットも助演に徹しているのは意外でしたが、なかなかの存在感で
オールスター・キャストの映画にありがちですが、割を食ってしまったのがジュリア・ロバーツでしょう。
正直言って、役柄の問題もありますが、本作での彼女はあまり見せ場を与えられなかったのが可哀想でした。

正直、“お祭り映画”ですので、こういうことがあるのも仕方がないのですが、
結局、ダニエルがたいそうな強奪計画を立てた向こう側に、私情を挟みまくりの公私混同野郎だったというのが、
映画にとってマイナスに働くと感じたのか、ジュリア・ロバーツの存在が必要最小限に留められたように見えた。

個人的にはそこまで楽しい映画という感じではなかったし、20年くらい前に最初に観た時と、
その印象はほとんど変わらなかった。つまり複数回観ても、新たな発見は自分の中では無かったということです。
映画としては、エンターテイメントを志向すべきところだったのですが、このエッジの効いた演出と合っていない。

それでも、まぁ・・・ビジネス的な側面から見ると、結果として商業的成功を収めたことで、
この企画をスティーブン・ソダーバーグに任せたことは正解だったわけで、約8,500万ドルの製作費は
アッという間に回収できたわけで、この稼ぐ方が如何にもハリウッドという感じで、スケールのデカさに驚かされる。

『アウト・オブ・サイト』のようなノリで撮るのかと思いきや、全くこれまでの調子とは違う映画を
アッサリと撮れてしまうあたりは、スティーブン・ソダーバーグの器用さを象徴した作品と言っていいと思います。

ラスベガスの構図はよく分かりませんが、アンディ・ガルシア演じるベネディクトのような
カジノ経営者もいるのでしょう。常に同じ時間、同じペースで行動を続け、従業員全員の名前を覚えている。
周囲の巨大カジノでの収入を預かる金庫には、莫大な資金を投入して、徹底してお金を守っている。
この経営の仕方にはビックリなのですが、自分のところで金庫を持つという発想は、現実にあるのかもしれません。
それをダニエルが狙うというから、本来的にはもっとエキサイティングなストーリーになるべきところだったんですよね。

ここが中途半端にスティーブン・ソダーバーグらしさが残っている映像なので、
映画の中身と骨組みがマッチしていない感じで、僕にはえらく中途半端な仕上がりに見えてならなかった。
もっと作り手に思い切った開き直りが必要だったと思うし、もっとゴージャスな娯楽映画にして欲しかったなぁ。

確かにダニエルの計画・作戦は綿密で金庫破りの内容としては、これだけのスケールで
用意周到に準備できるのであれば、それは説得力のある内容ではある。でも、個人的には“実行”の段階で
もう少し計画通りにいかないところがあるなど、ハプニング的な仕掛けがあっても良かったと思うし、
ダニエルの計算外の場面で、どう苦難を乗り越えるのか、迫りくるピンチが生む緊張感を生かして欲しかった。

そう、僕はこの映画を観ていて気になるのは、何もかもが上手くいき過ぎる点である。
これは作り手に遊びが無い演出に徹してしまっていることに、どこか教科書的なリメークになってしまった感がある。
スティーブン・ソダーバーグの力量からすると、それくらい遊びを作って映画を撮ることはできたと思うんですよねぇ。

オールスター・キャストの映画にありがちな群像劇や大円卓で終わるという映画ではなく、
割りとフツーにクライム・サスペンスを展開していて、あくまで映画の主人公はダニエルという設定に
執着して映画を構成したのは良かったですが、その分だけ観終わった後に「11人もいたっけ?」と思ってしまった(笑)。

この辺はあまり目立たない仲間もいたので仕方ないとは思いますが、
ベテラン俳優のエリオット・グールドやカール・ライナーに見せ場を与えて欲しかったなぁ。
これも仕方ないと言えば仕方ないが、多くの見せ場はブラッド・ピットら若手や中堅俳優に優先して与えたようだ。

オリジナルとの大きな違いは、映画の内容からコメディ色を排したことでしょう。
いつものスタイリッシュな映像感覚とは程遠いですが、それでもどちらかと言えば、シリアスに映画として進めている。

お金持ちの戯れを映画化するかのような企画でしたが、このシリーズ、全作品に通して言えることですが、
どこに一番お金がかかったかって、映画の中身に金をかけたと言うよりも、キャスティングかもしれません。
確かに映画製作に於いてキャスティングって、僕はスゴく大事な要素とは思いますが、それだけでは寂しい。
スティーブン・ソダーバーグも自分の色を残そうと工夫して映画を撮ったとは思いますが、もっと大胆にいって欲しかった。
当時、ヒットはしましたが、今になって思えば、よくこれだけの興行収入を築けたなぁと感心してしまうところではある。

しっかし、スティーブン・ソダーバーグのスタイリッシュな映画というのは、
彼の独特な映像感覚だけではなく、キャストの着こなしの鮮やかさ、スタイリッシュさが光りますね。
やっぱり、ジョージ・クルーニーとブラッド・ピットのスーツの着こなしのカッコ良さは、ハリウッドでも群を抜いています。

73年の『ロング・グッドバイ』という作品で、本作にも出演しているエリオット・グールドが
ダルダルな雰囲気でヨレヨレのシャツにスーツを着て、ひたすらタバコをプカプカと吹かしまくる姿に
大人の男の美学というか、極上のアダルティーな魅力をがあると、そのカッコ良さに魅せられましたが、
あの作品でのエリオット・グールドが表現した“ダラしないカッコ良さ”とは、対極のカッコ良さであるのは間違いない。

どうやら、スティーブン・ソダーバーグも『ロング・グッドバイ』のエリオット・グールドが大好きで、
本作のカジノ経営者役をオファーしたようですが、新旧の全く違うカッコ良い男の共演に、思わず胸躍る(笑)。
だから、僕はエリオット・グールドにはもっと目立って欲しかったんですよね。なんか、どことなく不発で・・・(苦笑)。

最近はこういうオールスター・キャストの映画って、少なくとなりましたが、またチャレンジして欲しいなぁ〜。。。

(上映時間116分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 スティーブン・ソダーバーグ
製作 ジェリー・ワイントローブ
原案 ジョージ・クレイトン・ジョンソン
脚本 テッド・グリフィン
撮影 スティーブン・ソダーバーグ
編集 スティーブン・ミリオン
音楽 デビッド・ホームズ
出演 ジョージ・クルーニー
   ブラッド・ピット
   ジュリア・ロバーツ
   マット・デイモン
   アンディ・ガルシア
   ドン・チードル
   エリオット・グールド
   カール・ライナー
   ケーシー・アフレック
   スコット・カーン
   バーニー・マック
   エディ・ジェミソン