ノッティングヒルの恋人(1999年アメリカ)

Notting Hill

日本でも大ヒットした、ロンドンを舞台にしたロマンチック・コメディ。

本作のヒットで、イギリスを代表する俳優ヒュー・グラントの人気に火が付き、
00年代にハリウッドで数多くのロマンチック・コメディのヒット作を産む、キッカケとなりました。

予想外なほどにジュリア・ロバーツとヒュー・グラントのカップルが良くって、
どことなく冴えない本屋の店主を演じるヒュー・グラントというのも、なかなか悪くないですね。

そして、この映画の場合は特にディレクターの上手さが光りますね。
映画のテンポ、シーンの作り方、キャラクター描写、ストーリーテリング、どれを取っても上手いです。
ロジャー・ミッチェルという映像作家の映画は、本作で初めて観ましたが、かなり力があると言っていいと思う。
特にベタベタな題材とも言える、本作のようなタイプの映画は難しいので、尚更のことです。

内容的にはコテコテの恋愛映画ではあるのですが、
リス・エバンス演じる主人公の同居人など、愛らしくユニークな脇役キャラクターを配役しており、
上手い具合に恋愛映画が苦手な人でも、できる限り抵抗感なく観れるように配慮されております。

こういう配慮がしっかりあるというのは、ロジャー・ミッチェルという映像作家に力がある証明ですね。
映画全体のバランスをよく考えて撮ることは、そうそう容易いことではないですからねぇ。

特にヒュー・グラント演じるタッカーの友人グループが良い。
初めてジュリア・ロバーツ演じるアナを食事会に連れて行ったときのリアクションが総じて面白い。
この辺は人間描写がとても上手く出来ていて、本作の大きな特徴になっていると思いますね。

後に『ラブ・アクチュアリー』で監督デビューを果たすリチャード・カーティスが脚本なのですが、
ロンドン西部に位置するノッティングヒルの街並みが、しっかり映画の基本として息づいていますね。
こういう街の描き方も良くって、思わず映画を観て、ノッティングヒルに行きたくなりますね。
こういう思いにさせてくれる映画って、僕はホントに価値があるなぁと思うんですよね。

それでいて、ただの旅行気分に浸らせられる映画には留まらない良さがあります。
ロジャー・ミッチェルがしっかりと恋愛劇を作りこんだおかげで、中身のある映画になりましたね。

ヒュー・グラントはこの映画で演じた冴えない旅行書の店主というキャラクターが活きていて、
この映画がキッカケで軽薄なイケメンという彼の二枚目な役柄が、一つの定番になったと言えます。
彼は早くから本国イギリスでは有名な俳優ではありましたが、スキャンダルがあったりして、
なかなかハリウッドに渡っても大成し切れていなかったですからね。それだけに本作のヒットは大きかったと思う。

そういう意味でも、ヒュー・グラントの魅力を引き出したロジャー・ミッチェルの功績はデカいですね。

それと、やはりこの映画はエルヴィス・コステロがカヴァーした She(シー)の主題歌が大きいですね。
このカヴァーは今でも、数多く使用されており、とても人気のあるヴァージョンとして愛されているんですね。
特に映画をまとめるかのように、映画のエンディングで使うのですが、確かに強く印象に残るはずです。

かつてはパブ・ロックの雄、ニック・ロウと組んで、
パンク/ニューウェーブの波にも後押しされデビューしたコステロですから、
このようなスタンダード・ナンバーを歌うことに当時は、賛否両論でしたが、やはりこれは何度聴いても良いですね。

ちなみにコステロはライヴで、あまりこの曲を演奏しないのですが、
かつてアコースティック・ギター一本で弾き語りをした音源を聴いたことがありますが、
ピアノ伴奏をバックに歌った、本作への提供曲とはまた違った格別さで、絶品でしたねぇ。
(ちなみにこの曲のオリジナルはフランス人歌手シャルル・アズナブールで、オープニングに流れる)

とっても惜しいなぁと思うのは、ジュリア・ロバーツ演じるアナの描き方だ。
立場的にハリウッド女優であるアナと古書店の冴えない店主タッカーという“格差恋愛”にあっては、
アナが如何にしてタッカーの魅力に魅せられたのかということを、キチンと描けなければ苦しい。

映画の中で、アナが平凡な幸せを欲していることを吐露しているのですが、
さすがにこれだけで、アナがタッカーに惹かれるという空気を演出することはできていない。

この辺はロジャー・ミッチェルが長く舞台劇の世界で活躍していて、
映画の世界では90年代に入ってから活動するようになったみたいで、経験の乏しさを感じる。
これが実は本作で最も大事なところであったと言っても過言ではなく、とても勿体ない部分ですね。
やはり恋愛映画なわけですから、2人の出会いはとても大切なんですよね。映画の根幹に関わる部分ですから。

あくまでハリウッド資本に頼った企画ではありますが、
この映画が持つイギリスらしい空気、そしてイギリスらしさを活かしたあたりは、
当時、『ブラス!』や『フル・モンティ』などのヒットでイギリス映画が注目されていただけでなく、
それまでイギリス映画の代名詞を化していた、不況で苦しい状況に置かれているという前提条件を払拭し、
また新たなイギリスらしさを演出できているのが大きいですね。また、新たな魅力を作り出せていると思います。

まぁストーリー的には不変的な定番とも言える内容なのですが、
ベタベタ過ぎて嫌味に感じられるギリギリのところで描いているせいか、
ラブコメが苦手な人でも、そこそこ楽しめると思いますね。そういう意味でも、とても上手い映画と言えます。

これでクライマックスの記者会見でやり過ぎなければ、もっと良かったのですが(笑)、
欲を言えば最後の最後をスマートにキメきれなかったのは、やはり勿体ないなぁ(笑)。
この映画の場合は、もっとラストはアッサリと終わった方が、良い余韻を残せたと思うんですよね。
この辺は作り手の痛いミスだったかな(笑)。もっと経験値が高ければ、この辺は上手く描けたと思うのですが。

完璧な映画とまでは太鼓判を押せないが、とても質の高い恋愛映画と言っていいですね。
ジュリア・ロバーツのファンであれば、確実に満足できる内容でしょうし。
おそらく『プリティ・ウーマン』以降の出演作で、彼女が最も輝いた映画になると思います。

本作がヒットしなければ、『ブリジット・ジョーンズの日記』も無かったような気がしますし、
ロンドンを舞台にした映画をファッション化したことに価値があったと言えるのでしょうね。

(上映時間123分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ロジャー・ミッチェル
製作 ダンカン・ケンワーシー
脚本 リチャード・カーティス
撮影 マイケル・コールター
編集 ニック・ムーア
音楽 トレバー・ラビン
出演 ジュリア・ロバーツ
    ヒュー・グラント
    リス・エバンス
    ジーナ・マッキー
    ティム・マキナニー
    エマ・チャンバース
    ヒュー・ボネヴィル
    ジェームズ・ドレイファス