アラスカ魂(1960年アメリカ)
North To Alaska
ゴールドラッシュに沸くアラスカを舞台に、意気揚々と金鉱を当てようと乗り込んできた、3人組の男たち。
中心格のサムが相棒のジョージの婚約者をシアトルから連れてくるために、一時的にシアトルへ戻ったものの、
実はその婚約者が違う男と結婚していたことで、場末のクラブで仲良くなったフランス人“エンジェル”を連れて、
アラスカへ戻ってきたことから始まる騒動を、パイオニア・スピリッツを豪快な男たちの姿をコミカルに描く娯楽作。
さりとて、往年の西部劇スターであったジョン・ウェイン主演作品とは言え、これは全くノレなかった。
一応はコンセプトはあったのだろうけど、これはあまりにドンチャン騒ぎが過ぎていて、正直、訳が分からない。
少々言い過ぎかもしれませんけど原作がある作品とは言え、ここまで観客を置いてけぼりにする映画も珍しい。
ヘンリー・ハサウェイは職人気質なところのある監督だったとのことですが、
本作はジョン・ウェイン主演で映画を撮ること自体に目的があったような感じで、中身がついてこなかった感じだ。
この2人がタッグを組んだ映画でしたので、てっきり本格的な西部劇なのかと期待していたのですがね、
これがまた全くと言っていいほど、馬上のアクションがあるわけでもなく、ガン・アクションも全く無いのも驚きだ。
それどころか、映画の序盤から延々と続く、謎の男たちのケンカがウザったく映画の流れを見事に阻害している。
しかも、これがギャグっぽく描かれる演出もあったりして、その作り手の意図が全くよく分からない迷走状態が続く。
ビョォォォーーーンとか、場違いな効果音を使ったりして、映画が安っぽくなってしまっている。
この辺はホントにヘンリー・ハサウェイがやりたかったことなのか、僕にはよく分からなかったんですよね・・・。
しかも、このケンカのシーンの芝居があまりに上手くない。グーパンはまったく違うとこ殴っても、
相手は派手に殴られたフリをして倒れるし、飲み屋の店主を茶化したようなギャグもあったり、緊張感ゼロ。
この辺はヘンリー・ハサウェイとジョン・ウェインのコンビからすれば、もっと違った形に出来たのではないかと思えた。
しかし、作り手としては敢えて喜劇っぽく撮りたかったのかな?
なんだか、それまでのジョン・ウェインの西部劇と比較すると、まったく毛色が違う感じで少々噛み合わない・・・。
映画の冒頭のバーでのケンカのシーンから、僕が勝手にイメージしていた本作のカラーが違っていて、
サムがシアトルに戻って、婚約者の現在の事情を知ってから、仲良くなった“エンジェル”を連れて帰ろうとする。
ここらで映画にエンジンがかかって面白くなるのかな・・・と期待したのだけれども、どうにも一向に盛り上がらない。
てっきり、金鉱を守るためにと派手なガン・アクションがあるのかなと期待してたんだけど、ほとんど無いですからね。
(若干、横取りを狙う連中の襲撃に遭って、てんやわんやの大騒ぎでアクションを交えて守るシーンはありますがね・・・)
ジョン・ウェイン主演作ですので、もう少し派手にアクションをキメて欲しかったので、これはかなり物足りないです。
ですから、西部劇というよりコメディ色豊かなドタバタ劇としか見えず、ジョン・ウェインの活躍は極めて少ないですね。
結局、そうなってくると...本作最大の見どころは、やっぱり“エンジェル”を演じたキャプシーヌだろう。
後に彼女が出演した『ピンクの豹』でも感じましたが、やっぱり彼女はただならぬ雰囲気を感じさせる美貌。
フランス人という設定であることもありますけど、本作の中でも明らかに際立つ存在感であり、小悪魔的でもある。
ジョン・ウェインとのカップルとしてのバランスは少々アンバランスな印象もありましたけど、それでも彼女は素晴らしい。
だからこそ、彼女の不遇な晩年は聞けば聞くほど、ホントに残念でならない。
ヨーロッパ映画界でも、ハリウッドでもニューシネマ・ムーブメントの吹き荒れた時期だったので、
映画界自体が過渡期であったことは事実かと思いますが、彼女はトップ女優として駆け抜けれる素質はあったはず。
本作でもサムの相棒の弟である10代の男の子...という割りには少々老け気味だけど・・・
そんな彼をもメロメロにしてしまうキャプシーヌの魅力ですからね。本作は事実上、彼女の代表作となりましたが、
それくらいの強いインパクトがある存在で、他のジョン・ウェインの出演作品と比較しても異彩を放つヒロイン像ですね。
この弟、“エンジェル”のことを自分の初体験の相手としか見てないアニマル状態で、逆に笑えるレヴェル。
でも、それを分かっている“エンジェル”を演じるキャプシーヌの彼のあしらい方も、もはやプロの領域ですね(笑)。
映画はタイトルにあるように、アメリカ北限の地であるアラスカを舞台にしているのですが、
シチュエーション的にも厳しい冬との闘いや、イヌイットたちとの攻防を描いたというわけではなくって、
ゴールドラッシュに沸くバブリーな様子をメインにしていて、尚且つ冬ではなく、何故か暑そうな夏を舞台にしている。
半袖で暑そうにしながら働く姿を見て、世間一般がイメージするアラスカの肌感覚とはまるで正反対なんですよね。
まぁ、ステレオタイプにアラスカの寒さイメージを増長させる必要はありませんけど、
どうせ本作の主題であったのですから、アラスカを舞台にした映画である強みをもっと生かして欲しかったなぁ。
映画の冒頭から、随分とノー天気な調子の主題歌が流れますので、あまり緊迫した感じはないのですが、
劇中、何度か突発的に始まる訳の分からないケンカと、男女の恋の駆け引きをコミカルに描くことを主体としていて、
ヘンリー・ハサウェイも端っからストレートな西部劇とする気はなかったのでしょうけど、それがむしろ良かったのか
本作は興行的には成功したようでジョン・ウェインの出演作としても、商業的に成功した位置づけのようですね。
とは言え、僕はワクワクさせられる活劇であったり、渋いキャラクターを期待してしまっていたせいか、
そこまで主人公のサムが魅力的なキャラクターであるとも思えず、“エンジェル”にどうして好かれているのかも
理解することができず、それでいてこのノー天気な調子に馴染めずにあまりこの映画を楽しめなかったのが残念だなぁ。
それから、サムの相棒であるスチュワート・グレンジャーがどこか物足りない。
そこそこ登場場面も多く、硬い友情で結ばれていたサムであるにも関わらず、事ある毎に殴り合いのケンカをする。
映画の終盤にサムと“エンジェル”を結びつけるために一役かいますが、そこまでが準主役としては物足りない。
もっとスチュワート・グレンジャーを目立たせるように描いて欲しかったですね。途中の放り出され感は可哀想。
映画のクライマックスは、また町あげて大ゲンカ。これも冒頭のケンカと同様で、訳の分からないノリ。
みんな泥だらけになって大変な状況なのですが、キャプシーヌだけはギリギリのところで巻き込まれない(笑)。
こういう姿を見せることが、当時は娯楽映画のノリだったのかもしれないけど、現代的な感覚で言うと違和感しかない。
この辺のバランスはもう少し上手くとって欲しかったなぁと思うのですが、最後までシックリ来ない感じでしたね。
いつものジョン・ウェインの映画の調子を期待するといけないので、完全にコメディだと思って観るべき作品です。
とは言え、まるでコントのようなコミカルな劇が展開されるので、これで笑えるかと聞かれると、それはチョット微妙。
当時、ジョン・ウェインが本作のことをどう思っていたかは分からないけど、ここまで弛緩した映画に出演する
ジョン・ウェインというのも珍しい気がするので、これはこれで貴重かもしれない。そう思って観ると、楽しめるかも。
どうでもいい話しではありますけど、ゴールラッシュに沸く時代のアラスカへの船って、
あんなに豪華な客船であったのかは気になりますね。タイタニックみたいな大きな船ではないように見えましたけど、
サムらが予約した客室はスゴい豪華でリッチ。まぁ、サムは大金持ちという設定だから、あり得たのかな?とも思うけど。
でも、あれだけの客室を備えた船って、当時としてはスゴい客船だったのだろうなぁと思いましたね。
そんなことを思ってしまうほど、僕の中では冗長な映画に感じられてしまったのも事実で、少々長く感じられた。
この内容で2時間を超えてしまうというのもツラい。どうせなら90分くらいに上映時間をシリムに引き締めて欲しかった。
元々は舞台劇だった原作の映画化ということなので、やりづらさもあったかもしれませんが、これは冗長だと思います。
派手に笑わせてくれるコメディでもないため、余計なエピソードに時間を割かずに男女の駆け引きに注力したかった。
このグダグダ感がとても勿体なく、ヘンリー・ハサウェイもどれだけ力を入れていた企画なのかが分からない。
まぁ、見方によればこの混迷っぷりがジョン・ウェイン主演作としては珍しく、それが魅力なのかもしれないけど、
そんな調子では往年のクラシック・スタイルな西部劇の醍醐味を期待して本作を鑑賞する人の期待には応えられない。
と言うわけで、ハッキリと事前に本作はコメディ映画なんだと割り切って観る、そういう覚悟が必要なんだと思います。
まぁ・・・それでも、本作の出来は決して褒められたものではないので、ツラいことには変わりないですけどね・・・。
(上映時間122分)
私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点
監督 ヘンリー・ハサウェイ
製作 ヘンリー・ハサウェイ
原作 ラズロ・フォーダー
脚本 ジョン・リー・メイヒン
マーチン・ラッキン
クロード・ビニヨン
撮影 レオン・シャムロイ
編集 ドロシー・スペンサー
音楽 ライオネル・ニューマン
出演 ジョン・ウェイン
スチュワート・グレンジャー
キャプシーヌ
アーニー・コバックス
フェビアン
ミッキー・ショーネシー