スタンドアップ(2005年アメリカ)

North Country

全米で初めて実現した、集団セクハラ訴訟の中心的存在として
手を挙げた女性が、あまりに過酷な環境に対抗しながら孤軍奮闘する姿を描いたヒューマン・ドラマ。

人気女優シャーリーズ・セロンが出演した作品としては、
かなりシリアスで重たい映画ではありますが、そこそこ観易い内容にはなっていますね。
要点も実によくまとめられており、冗長な部分が一つも無いあたりも素晴らしく、
これはひじょうに説得力ある映画になっているように思い、このしっかりとした作りに感心しましたね。

テーマの重たさの割りには、映画のラストで訴求しないところは、
少し気になるところではあるのですが、まぁ許容的に観れるところでしょう。

監督のニキ・カーロはニュージーランド出身の映像作家で、
02年の『クジラの島の少女』で注目されたディレクターですが、本作がハリウッド・デビュー作で、
予想以上にしっかりした映画を撮れており、これからの活躍が楽しみな映像作家の一人ですね。

映画の舞台となる石炭採掘会社は、明らかに時代遅れな会社体質だ。
勿論、映画のモデルとなった出来事が80年代に起きたことということを考慮しても、時代遅れだ。
日本でも同様ですが、女性の社会進出に関しては、今だ満足な状況とは言えずとも、
80年代になれば、一般企業で働く女性社員など都心部を中心に数多く誕生し、
キャリアウーマンという標語も生まれたぐらいで、女性の社会進出は進んでいた時代だ。

ところが映画で描かれる石炭採掘会社は採掘は男たちの仕事と勝手に決めつけ、
そんな世界に女性が入ってくることは許さない風潮が生まれ、陰湿なイジメにでます。

露骨な性的迫害(セクハラ)を会社も容認し、社員たちの悪事は見てみぬフリ。
例え女性社員から訴えが上がろうとも、会社は全てをもみ消そうとします。
あまりの救いの無さに、この映画を観ていて、途中で息苦しさを感じるほどで、
そりゃ結果論を言えば、ヒロインの闘う姿、そして闘う方法に関して言えば、
もっと効果的な姿勢や方法はあったとは思うけど、その気持ちの強さには感銘を受けると言ってもいい。

幾多の困難や、とてつもない逆境の中でも、なんとか家族の幸せを掴むために、
活路を見い出そうと、徹底して闘い続ける姿勢を崩さない彼女の姿には、真の女性の強さがあります。

僕が子供の頃には、男性の職場であったと思われていた、
長距離トラックのドライバーであったり、公共交通機関の運転士であったり、
実に身近なシーンで、今や日本でも女性の活躍が存在するようになっています。

何とも理不尽な歴史ではありますが、
今のこういった社会の姿が形成された裏側では、この映画のヒロインのような闘いがあったからこそ、
手に入れることができたということがあるのだろうと思えるあたりが、何とも複雑な思いにさせられますね。

それと、セクハラが倫理的に許されないことであり、
どれだけ女性に精神的・肉体的な苦痛を強いるかということを、社会的な問題にしたという点でも意義があり、
今や一般社会に於いて、高い認知度にあり、多様化しつつある問題を最初に声を上げたことにも意義がある。

実に豪華なキャストを集めた作品ではありますが、
本作に関しては、やはりヒロインを演じたシャーリーズ・セロンの頑張りだろう。
複雑な過去を抱え、町の人々からも様々なゴシップに囲まれながらも、何とか家族を守らなければならない。
助けてくれる人といえば、母親ぐらいで、炭鉱で働く父との仲は決して良好とは言えない。

何処で働いても、満足な収入は得られず、
生活を転換させるチャンスすら無く、経済的にはかなりひっ迫した状況にあることは明白です。
思春期を向かえ、接することが難しくなってきた年頃の長男に手を焼き、収入の多い炭鉱で働くことにします。

様々な不安を抱えながら、いざ入った石炭採掘会社は最悪な状況にありました。
自分の思いを理解してくれると信じていた父親からも、女性が炭鉱で働くことを否定され、
女性が就労することをサポートしてくれると信じていた会社の社長も、本性は炭鉱の男たちと一緒でした。

しかし、この映画でひじょうに勿体ないなぁと感じる点は、
前述したように、これだけ大きなハンデに立ち向かう女性の姿を描いたドラマなのに、
映画のラストであまり強く訴求するものが感じられないという点で、これは凄く損をしていると思う。
決して映画の出来自体は悪くないし、目立った致命的なミステイクは無いのですが、
やはり詰めが甘いのかな、もっと上手くやれば、もっと高い評価が得られたのだろうと思えるだけに残念。

基本、ノンフィクションの映画化ということもあって、
過剰な脚色を避けた意図はよく分かりますが、物語の語り方が少々、マジメ過ぎたように感じます。
もう少し力強く、観客の心を刺激するような、演出力を感じさせるシーン演出が欲しかったですね。

それと、できればミシェル・モナハンが演じた黒髪の若い女の子はもっとクローズアップして欲しかった。
彼女は映画の中盤で、現場内に設置されたトイレでトンデモないイジメを受けたわけで、
映画で描かれたエピソードとしては、かなり辛らつな境遇に立たされた女性の一人だったはず。
最終的には、彼女たちも立ち上がるわけなのですが、彼女たちの苦悩も大きな要素なのです。
(大きな収入があって、仕事を失いたくないという想いが、立ち上がることを阻害します)

闘う女性の姿を描いた作品が好きな人には、是非ともオススメしたい一本ですね。

(上映時間126分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

日本公開時[R−15]

監督 ニキ・カーロ
製作 ニック・ウェクスラー
原作 クララ・ビンガム
    ローラ・リーディー・ガンスラー
脚本 マイケル・サイツマン
撮影 クリス・メンゲス
編集 デビッド・コウルソン
音楽 グスターボ・サンタオラヤ
出演 シャーリーズ・セロン
    フランシス・マクドーマンド
    ショーン・ビーン
    ウディ・ハレルソン
    リチャード・ジェンキンス
    シシー・スペーセク
    ミシェル・モナハン
    エル・ピーターソン
    トーマス・カーティス
    ジェレミー・レナー

2005年度アカデミー主演女優賞(シャーリーズ・セロン) ノミネート
2005年度アカデミー助演女優賞(フランシス・マクドーマンド) ノミネート
2005年度ラスベガス映画批評家協会賞助演女優賞(フランシス・マクドーマンド) 受賞