ノーマ・レイ(1979年アメリカ)

Norma Rae

アメリカ南部の閉塞的な田舎町の紡績工場に勤務する31歳シングルマザーのノーマ。
彼女は実家に身を寄せながらも、数多くの男に惹かれ、捨てられる過酷な日々。

ある日、時給アップとの誘いに乗り、抜き打ち検査担当に配置転換された途端に、
同僚や友人から一気に無視される現状に耐えかね、再び低賃金の肉体労働へと戻る。
過酷な労働環境に強いられる長時間労働、そして低賃金。そんな雇い主の横暴を覆すため、
ニューヨークから労働組合設立推進派ルーベンがやって来たことをキッカケに、ノーマは組合設立に動き出す。

まぁ正直言って、完璧な映画とは言えない。
かなり社会派なテーマに挑んだわけですから、もう少し挑戦的なスタイルでも良かったと思います。

敢えて過剰な演出は避け、映画のテンションにメリハリを付けなかった感じではありますが、
それが良くもあり、面白味を削いでいる面でもあって、チョット消極的な映画に見えてしまいますね。
特にポイント、ポイントではもう少し観客を煽るような演出があっても良かったと思いますね。

それゆえか、訴求力のある映画とは言えないところが弱点ですね。

本作での熱演が認められて、初めてアカデミー賞を受賞したサリー・フィールドは納得の芝居。
ノーマという活力溢れるキャラクターを、実に活き活きと表現し、映画に勢いを与えていますね。
その分だけ男性キャラクターのインパクトが弱かったのが残念ではありますが、
彼女の熱演なくして、本作の成功はあり得なかっただろうと思いますね。

この映画で描かれる主張が、不当な労働の惨状とノーマの尽力というのは分かりますが、
僕が少し気になったのは、ノーマが抜き打ち検査担当になった途端に、同僚たちが彼女を無視し始めたことで、
これは心情的には描いて欲しくなかったかな。労働の評価を同じパートタイマーが行なうという不条理だけど、
少なくとも仕事を命じたのは会社側であり、ノーマには一分の責任もなく、彼女には酷なエピソードだ。

まぁ確かに現実には、そういった酷なエピソードはあるだろうが、
ああいうのを見てしまうと、どうも労働者に対する心象も悪くなってしまうかな。
例えそれが現実だったとしても、この映画にとってはマイナスにしか働かないのではないかと思うんですよね。

まぁ当然、悪役として描かれた雇い主たちもハッキリ言って、立場の弱い労働者から搾取していたわけで、
組合活動によって、労働者側から声をあげる必要があったことは明白でした。
ただ忘れてはならないのは、映画で描かれるのは組合活動を始めることになるところまで。
本質的に労働環境改善のために努力が必要なのは、これからなんですよね。
勿論、ノーマの献身的な活動の勝利はここにあるのですが、労働者側が満足な待遇を受けられるという、
本質的な勝利を得るためには、これから更に過酷な闘いを強いられることを描いて欲しかったですね。

日本では、今となっては組合活動がクローズアップされることは少なくなりましたが、
一時は日本でもかなり盛んに組合活動が展開され、様々な社会問題を露呈させましたからね。
(未だに話題になると言えば、日教組と航空会社の組合活動ぐらいか。。。)

都会の企業と、田舎町の企業。
企業を取り巻く環境の違いによる、組合活動の起こり易さに異なりがあるのは興味深いですね。
ルーベンの活動がスムーズにいかないことに、田舎町の企業にはそれ相応の難しさがあることを象徴しています。
そういう意味では、「アメリカ南部の人たちは優しいと思ってたのに・・・」というルーベンの台詞が印象的ですね。

映画の終盤にあるノーマが会社側からの脅しを受け、
多くの機械が稼動する製造区域に入って、ノーマが「UNION」の札を掲げ、
労働者が次々と機械を止め、実質的なストライキに入るシーンは素晴らしかったですね。
これが本作のハイライトでしたね、ひょっとしたら映画史に残る名シーンと言ってもいいかもしれません。

よく、この映画をノーマの女性としての自立を描いた映画と解説するのを見ますけど、
僕は自立がメインテーマではないと思うんだけどなぁ。それは、このストライキ・シーンが物語っているからです。

一番のテーマは、何と言っても現状を打破したいとする女性の強さでしょう。
それは別に彼女が自立した、しないを云々するわけではなく、信念を貫くことの難しさを描いているのです。
ノーマは確かにルーベンに感化される形で、組合活動に傾倒していきましたが、
一方でルーベンの導きの力は大きく、おそらく彼女だけでは組合設立までには至らなかったと思う。

映画のメインはあくまで、そんな彼女の闘いを描いているにしかすぎず、
彼女が社会的、或いは精神的に自立したかどうか、生活が変化したか否かについては、
映画の中では言及できていないと思うわけです。そういう意味では、真の女性映画とは言い難いかもしれません。

ただ、労働者側での犠牲が伴って初めて、
組合設立へ動きが活発化し、投票開催の決定打となるという展開が、何とも言えない気持ちになりますね。

まぁ本音を言えば、仕事をせずに組合活動ばかりに熱心になったりするのは感心できないけど、
それでも労働者の権利を守り、経営者に末端労働者の声を届けるためにも、組合活動って意義があると思う。
(だからと言って、社会的責務があるからストライキの全てが肯定されるとは思わないけど・・・)

往々にして、今の生活を守ろうとする本能が優先され易いという向かい風の中、
集団の中で声を大にして反旗を掲げることの勇気を問い直すという意味で、十分に価値のある作品ですね。

(上映時間114分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 マーチン・リット
製作 タマラ・アセイエフ
    アレックス・ローズ
脚本 アービング・ラヴェッチ
    ハリエット・フランクJr
撮影 ジョン・A・アロンゾ
音楽 デビッド・シャイア
出演 サリー・フィールド
    ロン・リーブマン
    ボー・ブリッジス
    パット・ヒングル
    バーバラ・バクスレー
    モーガン・ポール
    ロニー・チャップマン
    ジェームズ・ルイジ

1979年度アカデミー作品賞 ノミネート
1979年度アカデミー主演女優賞(サリー・フィールド) 受賞
1979年度アカデミー脚色賞(アービング・ラヴェッチ、ハリエット・フランクJr) ノミネート
1979年度アカデミー歌曲賞(ジェニファー・ウォーンズ) 受賞
1979年度全米映画批評家協会賞主演女優賞(サリー・フィールド) 受賞
1979年度ニューヨーク映画批評家協会賞主演女優賞(サリー・フィールド) 受賞
1979年度ロサンゼルス映画批評家協会賞主演女優賞(サリー・フィールド) 受賞
1979年度ゴールデン・グローブ賞主演女優賞<ドラマ部門>(サリー・フィールド) 受賞