追いつめられて(1987年アメリカ)

No Way Out

これは邦題通りの内容の映画であり、原題通りの内容の映画でもありますね。

映画は48年の『大時計』のリメークなのですが、オリジナルでは企業が舞台だったのに対し、
本作の舞台はペンタゴンと一気にスケールアップして、終始、スリリングな駆け引きが展開します。
しかも、本作は実に複雑なストーリーの組み立てとなっていて、謎解きが主体ではないにも関わらず、
映画のラストでは「えっ!? そうなの?」と驚かされる結末に至っていて、単純に物語として良く出来ている。

但し、この映画のウィークポイントにもなってしまっているのが、
ロジャー・ドナルドソンの演出が良くも悪くも当たり障りの無い感じで、映画の特長となりえていないところだ。
確かに無難と言えば無難で、悪くはない仕事ぶりに思えるが、この筋書きでなければ楽しめない。
終始、スリリングな駆け引きが展開すると言っても、演出のおかげというより、単にシナリオのおかげ。

つまり、雰囲気から作り込むというアプローチの作品にはなっていないと思うんですよね。

映画の序盤にある、ケビン・コスナーとショーン・ヤングの車中のアバンチュールとも言うべき
ラブシーンが劇場公開当時は話題となったらしいですが、いくらなんでも唐突過ぎるような気がする。
パーティー会場での目配せと、チョットした会話だけで2人が衝動的に結ばれるというには説得力がないし、
もっとこの2人の駆け引きも丁寧に描いて欲しかった。とにかくサスペンス劇に入るまで、いろいろと端折った感じ。

国防長官の愛人スーザンを演じたショーン・ヤングが『ブレードランナー』に続いて、
インパクトの大きな役をゲットしただけに意気込みも強かったのだろうし、やっぱりキレイな女優さんだ。
ただただ私生活でのジェームズ・ウッズへのストーカー行為で訴えられたりとか、“キャットウーマン”を演じたいと
ティム・バートンの元に自作のコスチューム着て押し掛けたりとか、後年のトラブルメーカーへの変貌がとても残念。

また、当時、日本ではブレイクしたてだったケビン・コスナーは甘いマスクを活かして好演だが、
どちらかと言えば、映画に与えるインパクトとしてはウィル・パットン演じるゲイのプリチャードが優勢かな。

ベテランのジーン・ハックマンがペンタゴンで国防長官として君臨しながらも、
愛人への嫉妬心から大変な事件を起こしてしまう政治家を演じていますが、根っからの悪党という感じでもなく、
メソメソしながら自首する前にプリチャードに告白しに来るという、小心者な側面を見せるのが少々意外でした。

ハッキリ言って、この映画の場合は、事件の隠ぺいに手段を選ばないプリチャードの方がずっと悪党。
プリチャードは異常なまでにジーン・ハックマン演じる国防長官デビッドのことを崇拝しており、
別に同性愛の対象としてデビッドのことを見ていたわけではないのだろうが、報われない奉仕の精神を満たすため、
そして権力闘争に打ち勝つために、次第に非合法な手段に出たり、明らかな越権行為に出たりと、やりたい放題。

忠誠を誓った上司であるデビッドが、ついカッとなって愛人を転落させてしまったことを告白され、
自首すると言い張るデビッドをなんとか説得して、自らが犯行現場の隠蔽工作に奔走し、
誰しもが真偽を疑っていた、昔からある噂の「ペンタゴン内にソ連のスパイ“ユーリ”がいる」ということを利用し、
デビッドの愛人スーザンは、実は“ユーリ”と恋人関係にあって、都合が悪くなった“ユーリ”がスーザンを殺害し、
未だにペンタゴン内で何食わぬ顔して、国防省の職員として働いているという、架空の事件をでっち上げします。

事実として、スーザンがデビッド以外の“誰か”と交際していたことは、ほぼ固い事実であるとして、
プリチャードは分かっていたわけですから、その“誰か”が明らかになれば、この人物を“ユーリ”とでっち上げて、
警察やCIAには告げずに、国防省内で殺害してしまえば、スーザン殺しの嫌疑も“ユーリ”ということできると考える。

そんなプリチャードが描いた筋書き通りに物語が進んでいくわけですが、
スーザンの家から持ち込まれる証拠物には、主人公のトムがスーザンと交際していた証拠があると
分かっている中で、デビッドから指示されて自らスーザン殺しの犯人とされる“ユーリ”を見つける任務に就くことになる。

複雑ではありますが、トムは追えと指示された犯人が、自分であることを悟りつつ、
身に覚えのないスーザン殺しの犯人とされて、プリチャードに命を狙われることに危機を感じます。

まぁ・・・こういう架空のスパイ捜索劇であることを悟りながらも、映画のラストに更にもう一度、
ドンデン返しがあるという、物語の基本構造としては結構複雑な構造になっていて、これは実に丁寧に語られている。
シナリオ上の筋書きが良いから、映画の本編は充実した内容のように感じますが、これだけでも十分に楽しめる。

ここは一つ、一つ、上手く整理しながら描くことがロジャー・ドナルドソンも出来ているのには感心します。

ただ、前述したようにもっと雰囲気から作り込んで欲しかったし、特徴ある演出が欲しかった。
どうもストーリーをなぞっているだけにしか見えず、苦しいところ。例えば、映画の後半にあるトムが
プリチャードの“使い”を追って、妨害しようとするエピソードにしても、それなりには盛り上げるが、どこか表層的。

そんなわけで、本作でのジーン・ハックマンの悪党ぶりが物足りないのは勿体ないところとしても、
そこはオロオロとするジーン・ハックマンという、彼のファンとしては新たな楽しみ方ができる作品ではある。
お世辞にも賢そうで有能な政治家という感じではなく、どこか打算的に動いていて、前述したように小心者だ。
だって、映画のクライマックスでは“追いつめられて”、責任のなすりつけ合いみたいなことを始めちゃうのだから。
こんなジーン・ハックマン、なかなか他の作品では観ることができないですよ。珍しいくらいに、情けない悪党です。

映画の原題と同名のポール・アンカが歌う主題歌も悪くないですが、
トムとスーザンが郊外でオープンカーを走らせて、虫を食べる食べないでイチャイチャしているシーンで、
流れる Say It(セイ・イット)という当時としても時代遅れ感があったであろうAOR調の曲が、なんとも心地良い。
ただこの曲、ポール・アンカとリチャード・マークスのコラボでしたが、しばらく日本の正規盤には収録されていなかった。
(今は何故かYoutubeとかで聴くことができるけど、以前はサントラとかもなかったので、聴くことができなかった)

個人的にはポール・アンカがこういう感じの曲を歌っていたということ自体、正直言って、意外でしたね。。。

原題を直訳すると、「もう逃げ道はない」みたいな感じかと思いますが、
確かにこの映画で描かれているのは、次第に逃げ道が無くなって、追いつめられていく様子を描いています。
ただ、ペンタゴン内で権力を持つ者が殺人事件をもみ消そうと、捜査の主導権を握るわけですから、
見方によっては、逃げ道を作る工作活動を行っているような映画で、それをプリチャードとトムが同時進行で
行っているという構図が面白い。しかも、トムはプリチャードのもとで動かなければならない制約がある。

サスペンス映画が好きという人にはオススメしたい作品ではありますが、
どちらかと言えば、謎解きをメインにした映画というよりも、時間稼ぎをメインにした映画なので注意が必要かな。

それから、やっぱりロジャー・ドナルドソンの演出がストーリーそのものの良さに、ついて行けてない。
映画の前半はトムとスーザンがホントに愛し合っていて結ばれるからには、もう少し丁寧に描いて欲しいし、
あんなに衝動的にラブシーンになだれ込むならば、後腐れない男女関係という感じに見えてしまうのに、
映画の前半は延々と2人のロマンスを描くわけですから、出会いから結ばれるまでの過程はしっかり描いて欲しかった。

事件の被害者になるとは言え、スーザンを演じるジョーン・ヤングはチョイ役というわけではないのだから。

この2人がイチャイチャするさり気ないシーンの中にも、終盤への伏線となるシーンが多くありますので、
仕方ない部分はあったとは思いますが、映画の前半の配分はトムとスーザンの馴れ初めにもウェイトを置き、
それでいて伏線をテンポ良く描いていくという配分にした方が、ショーン・ヤングももっと良いイメージになったと思う。
と言うのも、これだけ大きな役だったのに、結局、彼女はあまり大きなインパクトを残せていないのが可哀想だよ。

ちなみに本作はカメラを担当したジョン・オルコットの遺作となりました。本作撮影終了直後に他界したためです。
あまり特徴的なシーンは多くはなかったようには思いますが、冒頭のペンタゴンからの空撮はセンスを感じさせます。

(上映時間114分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ロジャー・ドナルドソン
製作 ローラ・ジスキン
   ロバート・ガーランド
原作 ケネス・フィアリング
脚本 ロバート・ガーランド
撮影 ジョン・オルコット
音楽 モーリス・ジャール
出演 ケビン・コスナー
   ジーン・ハックマン
   ショーン・ヤング
   ウィル・パットン
   ジョージ・ズンザ
   デビッド・ペイマー