幸せのレシピ(2007年アメリカ)

No Reservations

01年の『マーサの幸せレシピ』のハリウッド版リメークで、
『シャイン』のスコット・ヒックスが料理人のプライドと恋愛を描いた恋愛映画。

『マーサの幸せレシピ』も好評でしたが、このリメークも実にバランス良く出来ていますね。
往々にして、ハリウッドってこの手の映画を得意技としている感もあるにはあるのですが、
その分だけ作品数も多く、幾多の凡作が存在しているだけに、難しいジャンルなのですが、
本作は作り手のバランス感覚がとても良く、映画の出来自体はとても良いと思います。

スコット・ヒックスって、とても控え目というか、
とても落ち着いた演出ができるディレクターなだけあってか、映画に良い意味で気品が感じられますね。

今まで95年の『シャイン』以来、99年の『ヒマラヤ杉に降る雪』、
01年の『アトランティスのこころ』、そして本作、2012年の『一枚のめぐり逢い』の4本しか撮っていないので、
どちらかと言えば寡作な映像作家なので、ほぼ5年に一作しか映画を撮らないので、貴重なんですよねぇ〜。

また、マイケル・ダグラスと結婚してからは、家庭との両立を重視しているせいか、
仕事のペースを抑えていたキャサリン・ゼタ=ジョーンズを、久しぶりにラブコメのヒロインに据えて、
とても快調な映画に仕上がっており、彼女自身が気の強いヒロインがよく合っている。
ひょっとしたら、00年代に入ってからの仕事としては、本作が最もマッチしているように思います。

映画はマンハッタンで有名なフランス料理レストランで料理長を務める女性を描いており、
不運な交通事故によって姉を失い、シングルマザーであった姉の娘を引き取ることになり、
2人の生活が始まることから、それまでの生活を送れなくなってしまい、新しく雇い入れた、
イタリア料理店から転身してきた、男性シェフと衝突し、ライバル心を燃やす姿を描いています。

まぁ、さすがに基本は恋愛映画ですから、そこからラブストーリーが始まるわけなのですが、
完璧主義者の典型例みたいなヒロインと、イタリア修行に出て、“イタリアかぶれ”と自認する男。

さながら、フランス料理vsイタリア料理と言わんばかりの構図が面白くって、
「アタシは朝食は食べないの」と言い張って、賄い料理として調理されたパスタを拒否するのですが、
無理矢理にでも説得して、彼女にパスタを食べさせようとする意地の張り合いが全てを象徴していますね。

確かに「料理はアート」と言わんばかりのフランス料理と、
スローフード文化で、飾らない料理が多いイタリア料理との違いはありますから、
料理人の世界でも、おそらく相容れない部分があるのでしょうね。料理の方向性が違いますからね。

ちなみにこの映画で母を失う娘を演じた子役はアビゲイル・ブレスリン。
この子は、06年の『リトル・ミス・サンシャイン』で一気に注目を浴びた子役なのですが、
どうやら02年の『サイン』でメル・ギブソンの娘役を演じていたのは彼女らしく、
キャリアは結構、長いみたいですね。やはり本作でも、着実に自力を付けているようで、とても良い。
最近はティーン特有の時期のせいか、随分とド派手なメイクで表舞台に出てきたりするらしいのですが、
子役から大人の女優への転身はとても難しいので、周囲も慎重にケアしてあげて欲しいですね。

個人的には、ヒロインが仕事の面で苦悩するエピソードは、もう少し深く描いて欲しかったかなぁ。
全体的にサラッと描いている印象で、特にパトリシア・クラークソン演じるレストランのオーナーとの
複雑な関係は、おそらく一言では語りきれない関係なはずで、もっと掘り下げることができたはずだ。

まぁ映画の内容を考えると、この尺の長さが限界という感じもしますが、
子供を引き取ることの難しさよりも、彼女の仕事にもっとフォーカスした方が良かったと思います。

そうした方が、映画の要点はもっとハッキリしたはずだし、
恋愛映画に必要不可欠な要素でもある、コミカルさももっと効果的に演出できたと思う。
この辺はスコット・ヒックスの嗜好なのでしょうか、「もっとこうした方が映画は面白くなるのになぁ・・・」と
思える箇所が幾つか散見されたことは事実で、物足りない部分もあるにはありましたね。

しかし、そこそこ質の高い映画だと思えるだけに、
日本で劇場公開にかかった作品の割りに、知名度が低いのが残念でならないんですよね。

その原因って、どうも映画のテンポの良さが出なかったというか、
コミカルさに欠けたせいか、本国アメリカでも口コミで良さが広まらず、結果的にヒットしなかったという気がする。
いや、そりゃ大ヒットは難しいかもしれませんが、個人的にはもっともっと評価されても当然な作品だと思うんです。
『マーサの幸せレシピ』というオリジナル作品自体が、口コミで評判が広がっただけに、そう思えるんですよね。
(まぁ01年の頃って、今よりも遥かに日本でも映画界が元気で、需要があったこともありますが・・・)

但し、前述したように、破綻なく描けたのは良かったですね。
細部にわたって、映画を撮る上でのバランス感覚を意識したかのような作りで、
実質的に本作で初めてラブコメに挑戦したスコット・ヒックスの仕事としては、大きな収穫。

そういえば、この映画の中でアーロン・エッカート演じる男性シェフが、
お手製のティラミスをヒロインの家に持参して、「ティラミスとは、イタリア語で神々の食べ物という意味なんだよ」と
嘘をつくシーンがあるのですが、よくよく調べてみると、ティラミスの語源もなかなか面白くって、
女性が「私を元気づけて!」というイタリア語から派生した言葉らしく、男性が女性に作るデザートなんですね(笑)。

だからこの映画で描かれた、男性がお手製のティラミスを作るというのは、正しい行い(笑)。

日本でも90年代前半にティラミスがやたらと流行ってから、
今尚、多くの人々に愛される、私も大好きなデザートですが、食中毒を誘発しやすい食品なので要注意。
家庭で作る時も、保管は冷蔵で、調理後はできるだけ早く食べないといけませんね。

しかし、このティラミスに代表されるように、
欧米では料理と恋愛が密接に関連しているなんてことが、いっぱいあるから面白い。
おそらく国民性の違いもあるのでしょうが、特に欧州では豊かな食文化を育んできた証拠でしょうね。

あまり大きく期待を裏切らない恋愛映画として、今一度、再評価を促したい一作ですね。

(上映時間104分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 スコット・ヒックス
製作 ケリー・ヘイセン
脚本 キャロル・フックス
撮影 スチュアート・ドライバーグ
編集 ピップ・カーメル
音楽 フィリップ・グラス
出演 キャサリン・ゼタ=ジョーンズ
    アーロン・エッカート
    アビゲイル・ブレスリン
    パトリシア・クラークソン
    ボブ・バラバン
    ブライアン・F・オバーン
    ジョニー・ウェイド
    セリア・ウェストン