ノー・グッド・シングス(2002年ドイツ・アメリカ合作)

No Good Deed

銀行から多額の資金を盗み取り、ケイマン島への高跳びを目論む犯罪グループ。
そんな彼らが隠れ蓑に使っていた屋敷に、偶然、失踪人の捜索途中に立ち寄った黒人刑事。

人質に取られた刑事が単独で、孤独や糖尿病の症状と闘いながらも、
犯罪グループの高跳びを阻止しようとする姿を描いたクライム・サスペンス。

ダシール・ハメット原作の『ターク通りの家』をボブ・ラフェルソンが映画化した作品で、
人質に取られる刑事ジャックにはサミュエル・L・ジャクソンで、ミステリアスなエリンにはミラ・ジョボビッチが
それぞれ配役され、脇を固めるのもステラン・スカルスゲールドらなど手厚い布陣だ。

ところが、この映画は残念ながらいろんな意味で弱い。
好きな人にはたいへん申し訳ないけれども、僕はこれでは映画はダメだと思う。
まず、撮れば撮るほど微妙に的を外れてしまうボブ・ラフェルソンの手腕に悲しさすら覚える。
勿論、彼は彼で考えて撮っているのだろうが、70年代の頃の勢いはまるで感じられない。
もう僕としては、ここまで来てしまえば、寂しいとしか言いようがないですね。

まず、最も致命的なのはミラ・ジョボビッチ演じるエリンの描写ですね。

仮にも81年の『郵便配達は二度ベルを鳴らす』でジェシカ・ラング演じるコーラを
見事なデカタンスをもって描き切ったボブ・ラフェルソンとは思えぬ、あまりに粗末な結果だ。
勿論、エリンはあくまで悪女として描かれるべき存在であり、基本路線は間違っていないのですが、
僕はその中でも一本の芯の通った一貫性が感じられない描写に、決定的に失望してしまいましたね。

特に映画の終盤を観ていて、強く思うのですが...
エリンが一体何をどうしたいのか、よく分からないのが、最も致命的な部分ですね。
彼女の目的が分からないことが本作の魅力とするには、この内容ではかなり無理がありますね。
だからこそ僕はもっとエリンの目的を明確に描くべきだったと思いますね。

彼女が何をしたいのかよく分からないがゆえ、まるで説得力のないラストになってしまっていますね。
こういうつまらないミステイクで映画をダメにしてしまうあたりに、この映画の弱さが露呈しています。

確かにミラ・ジョボビッチ演じるエリンは悪女として描かれてはいるのですが、
今一つ物足りないというか、彼女に一貫性がないことに加えて、思慮深さや計算高さが感じられませんね。
そのせいか、この映画の彼女を観ていて、悪女キャラクターとしてのカリスマ性が感じられないんですね。
これが正に致命的で、この映画の魅力が最も欠落しているのは、エリンの悪女としての魅力だと思うのです。

やっぱり、この手の映画のヒロインともなれば、
「あぁ〜っ...やっぱ、こういうオンナになら騙されても良いよなぁ〜...」と、
世の男たちの大多数を鼻の下長くして言わせるぐらいのカリスマ性と危険な香りが無ければ、キツいですね。

やっぱり、エリンのような“魔性のオンナ”ってのは...
危険だと分かっていても誘惑に乗ってしまうような、誘惑の強さが感じられないとカリスマ性は出ないですね。
(やっぱり、そういう意味では『氷の微笑』のシャロン・ストーンは偉大ですね。。。)

まぁミラ・ジョボビッチは頑張っているとは思うけども、
サミュエル・L・ジャクソンとのコンビネーションもあんまり良くないせいか、どうもノリ切れませんね。

そうそう、劇中でエリンがジャックを誘惑するかのようにチェロのレッスンを受けるシーンがあって、
わずかにアブノーマルな空気が漂うのですが、これがまるで陳腐で的外れなシーンでビックリした。
そもそも誘惑するにも、セオリーを踏んだシーンではないため、まるでこの展開に説得力が感じられません。
せっかくのダシール・ハメット原作の映画化だというのに、これではあまりにお粗末ですね。
少なくとも僕はハードボイルドな空気漂う映画としてのセオリーはキチッと踏んで欲しかったと思います。

但し、ハードボイルド映画としては評価できないが、
偶然が重なって運の悪い男を描いたトコトン不運な作品という意味では評価できるかな。
そういう意味ではジャックを演じたサミュエル・L・ジャクソンは上手く機能しているとは思います。

でもね・・・僕はやっぱり、こういう内容ならミラ・ジョボビッチがもっと印象に残らないとダメだと思うんですよ。

個人的にはボブ・ラフェルソンはこんなレヴェルで満足しているような映像作家ではないと信じているし、
少なくともかつては、もっと良い出来の映画を撮れていたわけで、まだまだ頑張って欲しいと思います。
ひょっとしたらカッコ良くキメたつもりかもしれませんが、映画のラストシーンもハッキリ言って、ダメだ。

案の定、日本でも劇場公開されたにも関わらず、アッサリと上映終了となり、
ヒットとなることなく、大きな話題になることもなく、今となっては忘れられてしまいました。
映画の志向はベタだけど、もっと上手く撮れば、映画に対する評価は変わっていたと思うんですけどね。
それを考えると、この映画には欠けている部分も多いけど、企画自体は悪くなかったと思いますね。

まぁ・・・キャスティングもとても重要であるということは、改めて痛感しますね。
ひょっとしたらミラ・ジョボビッチでなければ、映画は変わっていたかもしれないし、
映画の作り手にしても、彼女が演じたエリンの掘り下げが、致命的なほどに甘過ぎる。

ジャックが糖尿病患者でインスリン注射が必要であるという設定も中途半端だし、
ボブ・ラフェルソンら作り手が、もっと映画をしっかりと作り込んで欲しかったですね。

最後に、犯罪グループが突如として食卓を囲むというエピソードがあったのですが、
僕が鈍いせいかよく分からなかったのですが、あれってなんか意味があったの?

(上映時間97分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 ボブ・ラフェルソン
製作 バリー・バーグ
原作 ダシール・ハメット
脚本 スティーブ・バランシック
    クリストファー・カナーン
撮影 ファン・ルイス・アンシア
音楽 ジェフ・ビール
出演 サミュエル・L・ジャクソン
    ミラ・ジョボビッチ
    ステラン・スカルスゲールド
    ダグ・ハッチソン
    ジョス・アックランド
    グレイス・サブリスキー
    ジョナサン・ヒギンズ