ナイトホークス(1981年アメリカ)

Nighthawks

EUで爆破テロ事件を連続して起こして、指名手配されていたウルフガーが
仲間たちの助けを得てニューヨークへ乗り込み、国連関係者を人質にとって、ウルフガーを逮捕するために
特別な教育を受けた警察官が残虐なウルフガーに挑戦する姿を描いた、スタローン主演のアクション・スリラー。

これはソリッドな質感があって、ウルフガーを演じたルトガー・ハウアーのヒリヒリするような悪党ぶりが素晴らしい。
スタローンも撮影開始当初はアクションに納得がいかなくて、監督の交代を要求したりとトラブルがあったようですが、
まだムキムキなコマンドー・アクションに頼るわけではなく、職人気質なガン・アクションが主体で実にカッコ良い。

確かに本作でスタローンが演じる刑事は、街のチンピラや強盗をメインに相手するような刑事で
凶悪な殺人犯を徹底して追い詰めるようなキャラの強い刑事というわけではなく、どことなく平凡な刑事だ。

なんせ、かつて徴兵でベトナムへ出征した際、多くの相手兵士を殺害した経験から自責の念からトラウマとなり、
刑事という立場であっても悪人を撃つことを躊躇してしまうという設定が、あまりにスタローンらしくないが(笑)、
それでも実に上手く演じており、個人的にはこういう役も出来るんだなぁ〜と感心させられてしまったくらい。

対するテロリスト、ウルフガーを演じたルトガー・ハウアーも情け容赦ないところがあって、
ロープウェイ内で人質に取った女性を、アッサリと殺してしまう冷酷さがインパクト絶大で強烈な存在感。
ただ、このウルフガーに関しても、冷酷非道なテロリストな割りには自己顕示欲が強いキャラクターであり、
自分の名前を“売る”ために、わざわざリスクを冒してまでもニューヨークへ行き、ディスコへ女の子をナンパしに行き、
挙句の果てには恋人関係になったキャビンアテンダントには、クローゼットに隠していたものを簡単に見つけられ、
結果的に彼女を口封じのために殺さなければならなくなるという、妙に間抜けというか、ズボラなテロリストだ。

とは言え、目的のためには手段や方法を選ばないことや、何をするか分からない恐ろしさといったものを
上手くウルフガーのキャラクターとして定着させており、やっぱりこの手の映画の悪役は大事だと実感させられた。

映画はこの2人が真っ向から対決する構図を描いているのですが、
スタローンの相棒として黒人俳優ビリー・ディー・ウィリアムズも、なかなか良いコンビぶりを発揮しており、
この時代にはまだ数少なかったバディ・ムービーとしての側面もあって、なかなか魅力的な刑事映画であると思う。

監督は後にスティーブン・セガール主演で『ハード・トゥ・キル』を撮るブルース・マルムースですが、
途中で監督として加わったらしいけど、最終的には上手く映画をまとめましたね。夜のシーンが主体ですが、
雰囲気満点で良い意味での緊張感が映画全体を支配している。キース・エマーソンが付けた音楽もカッコ良いしね。

大した伏線ではありませんが、映画の冒頭からスタローンの謎の女装が印象的だ。
最初に映ったショットから、どう見ても普通の女性には見えないので、あんなのに引っかかるのがいるのかは
疑問に思えなくもありませんが、実は女装という手段で悪党を捉えるというのを一つのパターンとして持っており、
これが本作の大きな特徴になっているのが面白い。おそらく、この終わり方もチープに観えた人も多くいたでしょうけど。

スタローンがスタローンらしくなく、屈強な刑事というよりも普通の人間であって、
どこか情けないところも見え隠れする人間臭いキャラクターですけど、事前に“そういう映画だ”と認識して観た方が
僕は本作をずっと楽しめるのではないかと思います。本作は劇場公開当時、あまりヒットせずに評判も良くなかった
らしいのですが、これは『ロッキー』シリーズで熱狂したスタローンのファンからすると、大きく物足りないからだと思う。

しかし、当時のスタローンは型にはめられることを嫌がっていた可能性はあると思うし、
役者としての幅を広げようとしていたのは事実だろう。いつも屈強で強過ぎる役を演じていても、つまらないだろうし。
(・・・とは言え、80年代半ば以降は明らかにハリウッドを代表する肉体派スターとして型にはめられたけど...)

まぁ、ストーリー的にもかなり都合良く展開しているのは寛容的に観なければならないだろう。
そもそも国際指名手配されているテロリストがニューヨークに潜伏しているからといって、その捜査員チームとして
地元警察の刑事をメインに据えるというのも、少々無理がある話しだし、短時間に座学で教育するのも・・・。

それから、本作が刑事映画の決定版になることができなかったのは、
決め手となる名シーンを作れなかったことだろう。刑事映画の土台として、スタローンとルトガー・ハウアーの
全面対決の構図を作れたのは良かったと思うし、冷酷非道なウルフガーという人物を確立したのも良かったと思う。
しかし、まずはウルフガーの執拗さ、強烈な執念というものを描き切れなかった。それをクライマックス・シーンに
込めたということならば、もっとしっかりとお互いに対峙して、最終対決させるくらいの力強さが欲しかった。

ウルフガーの意表を突くラストよりも、ウルフガーを確実に仕留める!という“決めポーズ”くらいのものが欲しかった。
本作にはそういう決定打が無くって、もっともっと魅力的な刑事映画にできる土台はあったと思えるだけに勿体ない。

とは言え、劇中、数回描かれる刑事たちがウルフガーを追跡するシーンなんかはすこぶる面白い。
ディスコで取り逃がしたウルフガーを追いかけて、雑居ビルから地下鉄の工事現場へ入り込み、駅のホームへ。
そこから『フレンチ・コネクション』ばりの攻防を経て、車両の後方にしがみ付いては刑事は追跡を続行。
逃げるウルフガーを追うものの結局は逃がしてしまうという、彼らの攻防が見応えもあって、なかなか良い出来だ。

やっぱり役者が走る姿を映した映画というのは、僕は好きだなぁ。特に刑事映画の追いかけっこは好きだ。
彼らの息遣い、焦りなどがしっかりと活写されていれば、映画が引き締まるし、良い意味での緊張感が高まる。
本作なんかはスタローンの意見力が強かったのかもしれませんが、とっても上手く撮れていると思いますけどね。

こういう良い演出があるというのは、途中参加のブルース・マルムースが実に難しい仕事だったところを
奇跡的にも上手くやってのけたということ。アクションにこだわったスタローンのこだわりも、無駄ではなかったと思う。

ニューヨークに渡ってテロ活動を画策するためにと、ウルフガーは整形することにしますが、
その情報を知ってか、ウルフガーを探してディスコへ来たスタローンが、ジッと凝視するシーンなんかは
まんま『フレンチ・コネクション』でジーン・ハックマンがナイトクラブでヤクの売人を凝視するシーンを思い出した。
そういう意味で本作はアメリカン・ニューシネマ期の刑事映画の名残り、という見方もできなくはないと思います。
あの時代に製作された刑事映画が好きな人ならば、本作は雰囲気的にも楽しめるのではないかと思いますね。
(まぁ・・・ウルフガーの整形って、あまり大きく変わっていないので意味があったかは微妙なところだが・・・)

尺も短く、実に経済的な上映時間で映画のテンポも良い。これは編集も上手くいった証拠だと思う。

ちなみにスタローン演じる主人公刑事の別れた妻(?)を演じたのはリンゼー・ワグナーで、
彼女は日本でも人気シリーズとなった『地上最強の美女バイオニック・ジェミー』でブレイクした女優さん。
個人的には彼女に関しては、もっと出番を増やしても良かったと思うのですが、色々と撮影時の事情もあったようだ。

あまりヒットしなかったせいか、スタローン主演作の中でも地味な作風の映画であったせいか、
今となっては埋もれてしまった作品のように思えるのが、とても残念ですね。こういうスタローンも悪くないですよ。
前述したようにルトガー・ハウアーの悪役キャラも出色の出来であって、2人の全面対決がキッチリ楽しめる。

ロープウェイで人質を取って、ウルフガーが得意げにスタローン演じる刑事を指名して、
人質の中にいる赤ん坊を保護させるというシーンで、怒りに震えつつも何も出来ず屈辱的な表情を浮かべる
スタローンに対して、嬉々として喜んでいるかのようなルトガー・ハウアーの狂気を感じさせる表情が圧巻です。
80年代初頭で、これだけ贅沢な映画を観ることができるにも関わらず、本作が今でもそこまで注目されていません。

スゴいどうでもいい話しではあるのですが...
主人公が相棒と組んで女装をしてまでも行う囮捜査の名人であるとするならば...
「いくらなんでもヒゲは剃ってから、囮捜査を行えよ」と言わざるをえないくらい、スタローンの髭面が印象的です。
あくまで映画なので、細かいツッコミは無粋なのかもしれませんが、いくらなんでもあれはないですよね(笑)。

そう思って観ると、最後の女装は主人公も上達した...ということなのでしょうか?(笑)

(上映時間99分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ブルース・マルムース
製作 マーチン・ポール
原案 デビッド・シェイバー
   ポール・シルバート
脚本 デビッド・シェイバー
撮影 ジェームズ・A・コントナー
音楽 キース・エマーソン
出演 シルベスター・スタローン
   ビリー・ディー・ウィリアムズ
   ルトガー・ハウアー
   リンゼー・ワグナー
   パーシス・カンバッタ
   ナイジェル・ダヴェンポート
   ジョー・スピネル