NEXT−ネクスト−(2007年アメリカ)

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フィリップ・K・ディック原作の短編小説『ゴールデン・マン』を映画化したSF映画。
しかし、いかんな...これはニコラス・ケイジの妙な髪型が気になって、映画に集中できなかった・・・(苦笑)。

さりとて、これは発想としては面白い映画だとは思うけど、中身的には少しズルい映画ですね。

監督のリー・タマホリも、『戦場のメリークリスマス』の助監督として経験を積んで、
『ワンス・ウォリアーズ』で高く評価されてハリウッドへ渡ってきたニュージーランド出身のディレクターで、
『007/ダイ・アナザー・デイ』などビッグチャンスを得てきましたが、どうも決定打に欠けるディレクターですね。
本作も2分先までの自分に関わる未来が見えるという能力を持った主人公を打ち立てたにも関わらず、
その設定以上の面白さや魅力を引き出すことができなかったですね。結局、原作ありきの映画という感じです。

映画は、ロサンゼルスを舞台にロシアから核兵器を購入したテロリストが潜伏しているとの情報を得て、
必死に捜査していたFBIが限界を感じ、2分先の自分に関わる未来が予見できるという主人公に目を付けるところから
始まるわけで、そもそもFBIが何故にそこまで主人公に固執しているのかも、よく分からないまま進んでいきます。

確かに主人公の能力は大きいし、FBIが捜査に生かすことができれば有利というのは分かるけど、
正直言って、この主人公を内偵して口説き落とす暇があるのなら、テロリストを直接的に追い詰める部隊に
マンパワーを投じた方が遥かに現実的な捜査手法のような気がしますが、なんだか説明不足なまま進んでいきます。

それに絡んで、何故か主人公がたまたまカフェに居合わせた若い女性リズの未来が見えたからといって、
執拗にリズに絡みに行くというのが、まるでコメディでリズに嫌われないようにと、何度もアプローチし直す。
この設定は恋愛映画でも使えそうな感じがしますが、本作はコテコテの恋愛映画というわけでもないので、
リズが「下心を見せた時点で終了ね」みたいなこと言われて、何が彼女のポイントなのか分からないから、
主人公が何度もやり直して、一番リズに受け入れてもらえるのに良い選択肢をとるというのが、なんとも面白い。

ハッキリ言って、これが現実世界でも使えるなら、“絶対に失敗しない人間”になることができますよね。
そういう意味で、フィリップ・K・ディックの描いた主人公は、「全能の男」というところになりますね。
どうやら原作では、全身金色のミュータントが主人公らしいので、本作は全く違う主人公のシルエットですがね。

もう一つ言うと、問題のテロリスト集団は冷酷非情で手段を選ばない恐ろしさがあるのは分かるけど、
彼らの主義主張が全く分からないし、目的も分からないので、何がなんだかよく分からないまま終わってしまう。

なんせ、ロサンゼルスに核爆弾を持ち込んで、市街地で爆発させて、莫大な被害をもたらそうってわけですし、
組織的犯罪であることを匂わせる描写があるのですから、もっと前後関係は描いても良かったなぁと思うんですよね。
フィリップ・K・ディックの原作とは、全く違うストーリー展開にしているだけに、動機と主張はキチンと描いて欲しかった。

リー・タマホリは『スパイダー』などのサスペンス映画であんまり印象が良くないだけに、
あんまり器用なことは求められないのかなぁとも思いますが、確かに主義主張は問わず、とにかく行動力のある
悪党の恐ろしさを描く、ということもありますので、理不尽なまでに一方的な暴力を描いているのかもしれませんが、
この映画の場合は主人公の特殊能力のおかげで、ちょいちょい“巻き戻し”されますからね。ちっとも怖くないのです。

それに、2分先の未来が見えると言われても、2分って...なんだか微妙ですよね(笑)。
これでどれだけ人生を変えられるのかが、なんとも微妙。この中途半端さがいいのかもしれませんが、
この法則が途中から守られずに、数時間先の未来が見えるようになったり、いろいろと都合がいいように変えられる。

これがOKなら、ハッキリ言って“なんでもアリ”。主人公の能力がどうとでも変わりますからね。
だから大枠で発想自体は面白かったのに、細部に及ぶとすっかりダメで、作り込みもできていないですね。
やっぱりリー・タマホリ、本作の後はハリウッド資本で映画を撮る機会に恵まれていないようですからね。

FBI捜査官を演じたジュリアン・ムーアは、『ハンニバル』があっただけに定番化されたイメージですが、
リズを演じたジェシカ・ビールが良いですね。『テキサス・チェーンソー』でブレイクしかけたのですが、
さすがにハリウッドでトップ女優とまではいかず、伸び悩んでいた感もあっただけに本作のような役は貴重ですね。
ジェシカ・ビールにはもっと活躍して欲しかったなぁ。この頃に当たり役に恵まれなかった印象なんですよね。

本作もインパクトの大きい役をもらったんですが、なんせ相手役がニコラス・ケイジですからね。
しかも妙な髪型してますから、ほとんど観客はニコラス・ケイジのあの変な髪型を見てしまいますよね・・・。
なんだかよく分からないけど、個人的にはこの映画のニコラス・ケイジの変な髪型はズルいと思う(笑)。

まぁ、この主人公の設定も自分の2分先まで見えるという特殊能力について、
他人に気付かれないようにするために、ワザとラスベガスの冴えないマジシャンに転じているという、
ある意味でベガスのマジシャンに対する冒涜とも解釈できなくはない設定ですが、この能力を使ってカードゲームで
イカサマして小銭を稼ぐというのがセコい。賢いと言えば賢いのかもしれませんが、能力を正しく使う気がゼロ(笑)。

これじゃあ...この主人公を純粋な気持ちで応援しようって気にはならないですよね。
この辺は作り手も計算していたのかもしれないが、そんなキャラクターなのだから髪型くらいはちゃんとして欲しい(笑)。

映画のクライマックスでFBIのチームが主人公の指示のもとで、悪党のアジトに侵入して、
逃げ回る悪党を追っていくシーンがあって、まるでシューティング・ゲームのように進んでいきますが、
これもまた、前述した“巻き戻し”をしながらアクションを進めていくのですが、これは賛否分かれるだろうなぁ。
何度も“巻き戻し”を繰り返すので、「撃たれたら終わりだ...」という緊張感が希薄に映ってしまっている。
正直...本作にとっては大きなビハインドだと思うんですよね。クライマックスの攻防なので、もっと緊迫して欲しい。

上映時間が短いところは本作の大きな特長ですね。見せ場が凝縮してピンポイントに絞られていて、そこは良い。
編集でも妙な仕掛けをしているわけでもないので、ストーリーもスッキリ整理されていて、とても観易いです。

そうなだけに、この映画のオチは僕の中ではスッと“入って”来ない。
思わず「そこからかよ・・・!」と叫びたくもなるのですが、それまで上手くストーリーテリングはできていたのに、
全てをブチ壊すかの如く、ややもすると映画を台無しにしかねないハイリスクなラストシーンに見えて仕方がなかった。

ニコラス・ケイジはこの頃から、やたらとB級映画に出たがる傾向が強くなったように思います。
00年代前半までは、一線級の映画に多く出演するマネーメイキング・スターの印象が強かったのですが、
徐々に規模の小さな映画や、日本でも劇場未公開作扱いになってしまう作品にも出演するようになります。
確かにデビュー時は、アクション・スターというイメージではなかったですから、本人にもギャップはあったかもしれない。

本作もニコラス・ケイジ自身も絡むようなアクション映画に出来たとも思うのですが、
本人が積極的にアクション・シーンをこなしているという感じではなく、控え目にアクションをこなすという程度です。

ちなみに何故かピーター・フォークがチョイ役で出演しています。
思わず『刑事コロンボ』シリーズのような気持ちで観ちゃいますが、さすがに年老いてましたね。
コロンボの面影があったかと聞かれると、それはなんとも微妙ですが、作り手ももっと良い機会にして欲しかったなぁ。

と言うのも、このようなゲスト出演みたいな形では、なんとも物足りないしインパクトが弱い。
出演時間に拠らずとも、もっとインパクトを残す役柄は無かったのだろうか? なんか、無理矢理に観えましたね。
もっと物語のポイントになるような場面で登場させて欲しかったですね。そういう配慮は必要でしょう。

とまぁ・・・マイナスなところが目立ってしまいましたが、ニコラス・ケイジの変な髪型を観たい人にはオススメしたい。
(あと、実質的にヒロインのリズ役を演じたジェシカ・ビールのファンにもオススメですね)

(上映時間95分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 リー・タマホリ
製作 ニコラス・ケイジ
   トッド・ガーナー
   ノーム・ゴライトリー
   アーン・L・シュミット
   グレアム・キング
原作 フィリップ・K・ディック
原案 ゲイリー・ゴールドマン
脚本 ゲイリー・ゴールドマン
   ジョナサン・ヘンズリー
   ポール・バーンバウム
撮影 デビッド・タッターサル
編集 クリスチャン・ワグナー
音楽 マーク・アイシャム
出演 ニコラス・ケイジ
   ジュリアン・ムーア
   ジェシカ・ビール
   トーマス・クレッチマン
   トリー・キトルズ
   ピーター・フォーク

2007年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演男優賞(ニコラス・ケイジ) ノミネート