ネバーセイ・ネバーアゲイン(1983年アメリカ)

Never Say Never Again

これはスゴい企画でしたね(笑)。

初代ジェームズ・ボンドのショーン・コネリーを中心に企画が立ち上がって、
本筋の3代目ボンドを演じていたロジャー・ムーアのシリーズとは別に作ってしまった、“007シリーズ”の番外編。
なんせ撮影当時53歳という年齢だったショーン・コネリーが老体に鞭打ってボンドを演じているのがスゴい。。。

さすがに最初にボンドを演じてから20年以上経過して、もう一度ボンドを演じたというのは
後にも先にもショーン・コネリーだけで、おそらく今後もそんな人は表れないだろう。それくらい彼の代名詞だということ。

どうやら、色々と問題のあった原作だったようで、
監督のアービン・カーシュナーも当初用意されていた脚本がダメで、ショーン・コネリーに無断で書き直したら、
今度はショーン・ンコネリーが激怒したとのことで、撮影現場はそんな紆余曲折を経て進められたそうです。
その結果、アクション・シーンを最小限にして構成したとのことですが、確かにアクションに関しては中途半端だ。

ショーン・コネリーも激しいアクション・シーンはさすがにしんどかったのか、
明らかにスタントを起用したシーンも多く目立ち、動きもどこか重たそうだ。そのせいか、映画の序盤では
リタイア状態だったボンドが一線に復帰するために、リハビリ施設で療養するところから描かれています。

この映画を観ていて気になったのは、このリハビリ施設の時点でそうだったのですが、
やたらとショーン・コネリー演じるボンドが、片っ端から女性に手を出すという印象で、確かにボンドの一つの
武器として女性を引き寄せるセクシーさというのはあるのですが、本作のボンドはハッキリ言って、節操が無い。

これでも控え目にボンドの女性関係を描いたとアービン・カーシュナーは懐古してましたが、
僕にはそんな感じには見えなくって、本作で描かれるボンドはかなり悪い意味で軽く見えてしまったのは残念。

そりゃ、3代目ボンドのロジャー・ムーアが演じるシリーズでは、
既にくだけたコメディ映画と化していたので、ほとんど同じような路線を踏襲した感じではあるのですが、
本作はアメリカ資本でショーン・コネリーがかなり介入して作ったシリーズ番外編というだけあって、
どことなく一種独特な感じの内容になっていて、ボンドの派手な女性関係を敢えて描いたのかなという気がする。

ニカラグア出身のモデルから女優に転身したバーバラ・カレラ演じるファティマ、
そしてブレイクする直前のキム・ベイシンガーが出演していて、それぞれボンドとのデキてしまうという設定ですが、
さすがに撮影当時のショーン・コネリーは結構、高齢に見えたせいか、彼女たちとのアンバランスな感じが目立つ。
(そう、実はキム・ベイシンガーってボンド・ガールを演じていたんですね!)

映画の中盤にある、ラルゴの恋人と見られていたキム・ベイシンガー演じるドミノに近づくために
美容クラブにボンドが潜入して、マッサージ師のフリしてドミノのマッサージをしながら話しを聞くシーンなんか、
完全にドリフのコントですもんね。ショーン・コネリーの指使いなんか、完全に志村 けんのと一緒なんですもの(笑)。

コメディ・パートのウェイトもかなり高くなっていて、リハビリ療養施設でやたらと屈強な男の襲撃にあって、
ボンドが必死に立ち向かいますが孤立無援で、実験室で謎の液体をかけたら相手がマイってしまう。
それが実はボンドの尿サンプルだったというオチは、完全ギャグですよね。こんなシーンは散りばめられています。
ただ、ロジャー・ムーアのようにドタバタしたギャグではなくユーモアで勝負するあたりが、、ショーン・コネリーらしい。

そういう意味では、アービン・カーシュナーも撮影現場での自由な裁量があまり無かったのか、
映画の終盤に軽く銃撃戦があるくらいで、それ以外はファティマを追うチェイス・シーンが見せ場になるくらいだ。
この終盤の洞窟内での銃撃戦は、悲しいくらい投げやりな演出に見えてしまっていて、個人的には残念でした。

本作自体は『007/サンダーボール作戦』のリメーク的な位置づけとのことですが、
当然のように『007/サンダーボール作戦』には遠く及ばぬ出来でしたが、商業的にはそれなりの成功を収めました。

しかも、本家本元とのイギリスで製作したロジャー・ムーア主演の『007/オクトパシー』と
本作は僅か数か月差で劇場公開されたということだったにも関わらず、本作も世界的にヒットした結果、
年間興行収入ランキングに双方の作品がランクインするなど、当時のボンド人気はまだ凄まじいものでしたね。

ラルゴが妙な陣取りゲームみたいなコンピューター・ゲームにハマっていて、
ゲームの中身が全く分からないボンドを誘って、ゲームに精通したラルゴが本気を出して優勢に進め、
劣勢になったボンドのジョイスティックに電気を流して彼の痛めつけるというチープな手口も印象的ですね。
ああいったコンピューター・ゲームだけではなく、ラルゴの邸宅でのパーティー・シーンでも昔懐かしいゲーム機が
並んでいるシーンがあります。なんだか懐かしいというか...こういう時代ですね。ルールはよく分かりませんが。

悪党ラルゴを演じたクラウス・マリア・ブランダウアーは名優ですが、
これまでの“007シリーズ”の悪党とはチョット違っていて、ビジネスマンである大富豪が悪事に手を染める、
みたいな感じで、知性を強く意識させられるキャラクターなのは本作の特徴ですが、これは賛否両論でしょうね。
確かに他の“007シリーズ”の作品で描かれた悪役と比較すると、本作のラルゴは少しインパクトが弱いかな。
演じるクラウス・マリア・ブランダウアーは悪くない仕事ぶりなだけに、もっとラルゴに時間を割いて描いて欲しかった。
なんせ、ボンドと対決する悪党で一番印象に残るのは、悪女ファティマを演じたバーバラ・カレラですからね。

この辺は「当初もらったシナリオがダメだったのは明らかだった」と公言していたアービン・カーシュナーが
脚本の書き直しを命じたそうですから、書き直すならラルゴの部分をもっとしっかり描いて欲しかったなぁ。

これで全体の尺が2時間を越えてしまうヴォリューム感も少ししんどい。編集をやり直して欲しい。
撮影現場はかなりの苦労を強いられたようで、確かにその痕跡を伺える作品ではあるので、なんだか勿体ない。
描きたいエピソードが多いのは分かるけど、特に映画の前半は削っても差し支えないシーンが多くあったと思う。
この辺をしっかり整理すれば、映画は2時間の枠に十分に収まったはずで、もっとシェイプアップした仕上がりにできた。

これはアービン・カーシュナーの意見がどれくらい通ったのかは分かりませんが、
監督であるアービン・カーシュナーが編集の段階で気付いて、もっとキッチリ言わなきゃいけませんね。
どう見ても、映画が冗長な傾向にあるのは明らかで、これでボンドが高齢だというのは更に大きなハンデですからね。

あまりこういういことは言いたくないけど、本作最大の見せ場となったのは、
ファティマをボンドがバイクで追うチェイス・シーンになったのは、明らかなスタントを使ったシーンだからだろう。
それくらい、本作撮影時点で既にショーン・コネリーにエキサイティングなアクションを演じさせるのは難しかったわけで。

でも、それはショーン・コネリー自身がよく気付いていたようで、
『007/ダイヤモンドは永遠に』でボンド役を降板した時点で、「もう二度とボンドは演じたくない」と言っていたところ、
ロジャー・ムーアらいにオファーしたものの契約できず適任者がいなくなり、ショーン・コネリーの復帰論に傾いたところ、
ショーン・コネリーの妻が「もうボンドをやらないなんて、二度と言わないで」と言ったことで、本作の原題になったらしい。

ちなみに、地中海の沿岸リゾート地でボンドに協力する現地駐在員のフォーセットを演じたのが、
“ミスター・ビーン”ことローワン・アトキンソンで、まるで変わっていないので、彼だとすぐに分かるのが面白い。
しかも本作で彼が演じたフォーセットのキャラクター自体が、既に“ミスター・ビーン”そのもので異様な存在感だ。
“ミスター・ビーン”のファンであれば、彼の起源を知るという意味でも、必見の作品と言っていいでしょうね。

ちなみに本作は“007シリーズ”と言えば、“ボンドカー”なわけですが一切登場してこない。
と言うか、ボンドが自分で車を運転するシーンがない極めて珍しい作品だ。どうしてこういう判断になったのだろうか?

それから、ラストシーンでショーン・コネリーがカメラに向って「Ner again!」と言う台詞は印象的だが、
映画の冒頭でお約束の“007シリーズ”のテーマが流れず、ボンドが銃を構えるシークエンスも無い。
おそらく権利の関係で使えなかったのだろうけど、正直、このオープニング・シークエンスがないのは寂しい。

個人的にはこれがあると無いとでは、雲泥の差だなと実感させられた作品でした。

(上映時間133分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 アービン・カーシュナー
製作 ジャック・シュワルツマン
原作 イアン・フレミング
原案 ケビン・マクローリー
   ジャック・ホイッティンガム
脚本 ロレンツォ・センプルJr
   イアン・ラ・フレネ
   ディック・クレメント
撮影 ダグラス・スローカム
音楽 ミシェル・ルグラン
出演 ショーン・コネリー
   キム・ベイシンガー
   クラウス・マリア・ブランダウアー
   バーバラ・カレラ
   マックス・フォン・シドー
   バーニー・ケイシー
   エドワード・フォックス
   アレック・マッコーエン
   ローワン・アトキンソン