わたしを離さないで(2010年イギリス・アメリカ合作)

Never Let Me Go

『日の名残り』で知られるカズオ・イシグロ原作の同名小説の映画化。

監督は02年にロビン・ウィリアムス主演の『ストーカー』を撮ったマーク・ロマネクで、
まぁ『ストーカー』も変わった映画ではありましたが、本作も実に個性的な作品に仕上げている。
青春映画としての触れ込みが強かったようですが、これはどちらかと言えばSF映画ですね。

05年の『アイランド』を想起させる内容ではありますが、
本作は『アイランド』よりも更に悲観的というか、後向きな内容でチョット重たい映画になっていますね。

決して規模の大きな映画ではないのですが、映画の時期自体は決して悪いものではなく、
敢えてストーリーテリング上の明確な起伏は作らずに、ずっと一本調子で展開していくのですが、
それがむしろ本作に関しては良い方向に機能しているようで、上手く世界観を作れています。

欲を言えば、部分、部分で見ていくと、どうしても説明不足なところがあり、
これは本作の上映時間は決して長いものではないのですから、もっとしっかり描き込んで欲しかったですね。
どこか表層的で物足りない部分は残ってしまったのは、おそらくそのためで、これは勿体なかった。

この辺はカズオ・イシグロの原作ではしっかり描き込まれていたのでしょうが、
どうしても映画化する上での制約があったのでしょうね。どこか踏み込みきれなかった印象があります。

映画は臓器提供のドナー向けに幼い頃から寄宿学校で育てられる少年少女たちが、
如何にその悲劇的な運命を受け入れるかを描いた内容で、かなりシリアスな内容です。
一分の希望も許さない雰囲気がある映画になっており、この雰囲気作りは実に上手いものがある。
『ストーカー』のときもそうでしたが、マーク・ロマネクはこういうところが凄く上手いですね。

地味に豪華なキャスティングを擁した映画ですが、
やはり目立った存在なのは、ヒロインとも言うべきキャシーを演じたキャリー・マリガンかなぁ。
『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのヒロイン役で知られるキーラ・ナイトレイが、
キャシーより先にドナーとして、提供側に回って、ツラい移植手術に耐えるという役柄を演じていますが、
映画を最後まで観終わって率直に感じるのは、あくまでキーラ・ナイトレイは助演だったということ。

また、久しぶりにスクリーンで観た気がする、寄宿学校の教員を演じたシャーロット・ランプリング。
まぁ近年もコンスタントに映画に出演しているのですが、ここまで目立つ存在だったのは久しぶりかも。

何故、本作でシャーロット・ランプリングのインパクトが強いと感じたかと言うと、
やはり主人公たちの運命の鍵を握る存在であったというだけでなく、映画の終盤で
本作のテンションの浮き沈みを制御させているかのような、とても大きな位置づけで再登場するからでしょう。

僕は彼女が本作で表現した、存在の重さというのは、とても重要なものだったと思うんですよね。
どうしたって、本作のストーリーは救いが無く、何度観ても、やるせない想いにさせられます。
しかしながら、マーク・ロマネクはとても意地悪いことに、映画の中で救いを描く可能性を観客に示唆します。
(まぁ・・・“意地悪い”と言っても、原作にあるのだろうから、仕方ない話しではあるけど・・・)

シャーロット・ランプリングが演じた教員は、この辺の映画を観る観客の感情を
まるでコントロールする存在であるかのように、観客にとってもミステリアスな存在として立ちはだかり、
結局、最終的にはとても大きな役割を果たすキャラクターになります。おそらく原作の通りなのでしょうが、
これを観て、この上なく観客自身が自らに“無力感”を感じさせる映画と言っても過言ではないでしょう。

しかし、シャーロット・ランプリングは上手く年齢を重ねて、ホントに良い女優さんになりましたね。
思えば、73年の『愛の嵐』でのセンセーショナルな芝居で世界的に大きな話題を呼び、
その後も75年の『さらば愛しき女よ』でのロバート・ミッチャムを誘惑せんとばかりに会話するシーンは、
僕の中でも強烈なインパクトを未だに持っており、当時のセクシーさを少しずつ残しながらも、
どこか品の良さを感じさせる、映画にとって大きなアクセントとなることができる女優さんですね。

本作なんかは、チョイ役と言えばチョイ役なんだけれども、
やはり彼女が演じたからこそ、ここまでの存在感を出せたのではないかと思いますけどねぇ。

ある意味で、このストーリーは日本人的な趣きがあると思う。
カズオ・イシグロ原作だから、こういう話しをするというわけではないのですが、
定められた運命が、例え社会的に許されないことであったとしても、そういった悲劇的な運命に対して、
ほぼ無抵抗に近い状態で、その運命を受け入れることの不条理さっていうのは、また日本的ですね。

決して観終わったあとのテイストは良い映画だなんて言えないのですが、
これはこれで必見の価値がある映画と思いますね。実に一風変わったSF映画と言えます。
(これ、70年代に製作されていたら、ほぼ間違いなくカルト映画扱いされてたな・・・)

ただ、やはり原作とまともに比較するとキツい映画かもしれません。
やはりヴォリューム的な制約もあり、僕は原作を読んではいませんが、
かなり割愛されたのではないかという風に思える、やや説明不足な感も否めません。

特に幼少時代なんて好奇心の塊みたいな存在で、
そういった子供たちを集めた寄宿学校という設定なんですけど、
その寄宿学校がドナーを無事に育てることに成功し続けるという前提条件もよく分からないし、
ある程度、成長すると“コテージ”と呼ばれる外の世界と普通に接する施設に引越しをしても、
反逆にあうことがなかったという都合の良さを、抑え続けている施策が描かれていないのも解せない。

この辺はもっとしっかり描くべきだったかなぁとは思ったけれども、
映画化するにあたって、ある程度の制約はあったでしょうから、仕方がない部分はあるのでしょう。

そういう意味では、原作とは切り離して考えて、
あくまで映画単品で考えたとき、映画の雰囲気作りから含めて考えると、及第点レヴェルだとは思う。
しっかりと湧き上がる感情を抑制しながら、僅かながらに“希望”を表現して、
その“希望”を出し惜しみするという、作り手のアプローチは実に巧みなものであると言っていい。

ちなみに癇癪持ちの青年を演じたアンドリュー・ガーフィールドは、
2012年に『アメージング・スパイダーマン』に抜擢された若手俳優として大きな期待を寄せられているホープ。

彼らにとっては、本作への出演が大きなステップアップとなったのでしょうね。

(上映時間103分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 マーク・ロマネク
製作 アンドリュー・マクドナルド
    アロン・ライヒ
原作 カズオ・イシグロ
脚本 アレックス・ガーランド
撮影 アダム・キンメル
編集 バーニー・ピリング
音楽 レイチェル・ポートマン
出演 キャリー・マリガン
    アンドリュー・ガーフィールド
    キーラ・ナイトレイ
    シャーロット・ランプリング
    イゾベル・ミークル=スモール
    チャーリー・モウ
    エラ・パーネル
    サリー・ホーキンス

2010年度インディペンデント・スピリット賞撮影賞(アダム・キンメル) ノミネート