ネバダ・スミス(1966年アメリカ)

Nevada Smith

これは復讐をメインテーマにした西部劇だ。

本作は興行的に大成功を収めたようですが、確かにこのスティーブ・マックイーンはハマリ役だ。
まぁ、撮影当時、スティーブ・マックイーンは実年齢35歳だっただけに、「青年」と呼ぶには
チョット年をとり過ぎていたような気がしますけど(笑)、この頃のマックイーンは“絶賛売り出し中”でした。

どうやら映画の設定では、冒頭の主人公は16歳の青年ということらしいのですが、
個人的にはかなり背伸びしたというか、映画的にもあり得ない設定だったような気がします。。。

父親に挨拶しに来たという3人の馬乗りに、自宅の道案内をしたものの、
実はその3人が金塊を握っていると思い込み、父を殴り殺し、インディアンの母を殺害し、
無残にも皮膚を剥ぎ取られるというショッキングな現場を目の当たりにした主人公が
復讐心に燃えて、父と母を自らの手で火葬し、僅かな現金と馬に乗って、3人の行方を追うところから始まります。

親切にしてくれたカウボーイに銃も食料も奪い取られ、
他人を信じ切ることの恐ろしさを知った主人公は、銃器の商人からガンファイトの技術を学び、
銃の技術と勝負度胸を習得し、「人を簡単に信じるな」という重要なアドバイスをもらいます。

ならず者を追跡するならば、酒場と売春宿のいずれかに行くしかないと教わった主人公は
この言葉の通りに行動し、たまたま3人組のうちの1人を発見します。暗闇の中での格闘の末、
1人目の復讐を完遂した主人公は、2人目が警察に逮捕されて強制労働していると噂を聞くや、
すぐに自らも銀行強盗もどきをして逮捕されて、強制労働先に2人目を追っていきます・・・。

主人公の若さゆえの行動力と、両親を無残に殺された無念さから燃え上がった復讐心。
2時間を超える西部劇ですが、映画は中ダルみすることなく、一気に見せてくれます。

自分も警察に逮捕されて強制労働に仕向けられるようにするために、
銀行を襲うという手段にでるのですが、このシーンの緩さはなんだか面白かったですね。
まるで“ネズミ取り”のような発想で、自ら捕まりに行ったという表現がピッタリな展開です。

主人公が復讐をやり遂げるという本能的な力が凄く強くって、この強制労働先に追っていく発想も凄いが、
そこから如何にして2人目の復讐を、人知れずやり遂げるかを考え、知恵を絞るあたりもなんだか凄い。
映画の冒頭ではある意味で、純真無垢だった主人公が色々と経験するうちに、人間の世界の闇の部分に触れ、
悪い知恵も含めて、自分の主義主張を押し通すためにはどうしたらよいのかを考えて行動するのが、よく分かる。

そういう意思を表現するには、やはりマックイーンは適役だったのかもしれませんね。
本作でも、その特徴的なルックスに彼の持つカリスマ性が光っていて、一際異彩を放つ存在感だ。

そういう意味では、この映画のネックは悪役キャラクターがあまり目立たないことだ。
それでも、カール・マルデン、マーチン・ランドーなど名バイプレイヤーが脇を固めているのですが、
強いて言えば、映画の終盤でひたすら主人公の復讐の影に怯えながら、強盗しようと企むフィンチを演じた
カール・マルデンが少々、印象的だったくらいで、彼らの行いの残虐性などは時代もあって直接的な表現がない。

そのせいか、観客が観ていて、大きなストレスになる悪役キャラクターというわけではなく、
個人的にはもう少しこの3人衆を引き立たせるアプローチがあっても良かったのではないかと思える。
やはり復讐をメインテーマに描く映画には、悪党の描き方が重要で、映画の価値を決めると言っても過言ではない。

しかも、この主人公とフィンチのクライマックスには、おそらく賛否が分かれるだろう。
従来の西部劇とは異なるニュアンスのラストであり、どことなくニューシネマなテイストも感じるラストですが、
ハロルド・ロビンスの原作『大いなる野望』のスピンオフ企画らしいので、作り手にもその意識はあったのかも。
(ちょうど、ヘイズコードと呼ばれる自主規制が緩和される直前に製作された作品なだけに、そう思える)

また、そういう若干新たな風を採り入れた西部劇だからこそ、マックイーンがよく似合う。
本作はそんなシルエットを、実に上手く利用している点では、当時、ヒットした要因でもあるのでしょう。

ちなみに、映画の中盤で1人目のならず者に復讐をするシーンで、
暗闇の中、主人公が囲われていた角のある牛の柵を、解き放つシーンがあるのですが、これが凄い迫力だ。
実際に撮影したのでしょうから、凄く危険な撮影だったと思うのですが、他作品ではなかなか観れないシーン演出。
スタントマンが演じたのかもしれませんが、よくこの撮影で怪我人をださなかったなぁと妙に感心させられます。

ひょっとしたら、このシーンが本作最大のハイライトだったかもしれません(笑)。

この映画で物足りないのは、その分だけ悪党一人ひとりとの対決シーンが今一つなことで、
この牛を解き放つシーンのインパクトと比較してしまうと、対決シーンのインパクトはかなり弱い。
前述した、フィンチとのクライマックスが唯一、「いつもの西部劇とは少し違うなぁ」と思わせるくらいで、
それ以外は復讐をテーマにした作品の割りには、主人公がアッサリと目的を果たしていくだけを綴っている。

このラストを呼び込んだのは、神父との出会いがキッカケなのですが、
個人的にはこのエピソードはチョット無理矢理だなぁと感じました。もう少し上手い表現があったのではないかと。

まぁ・・・誰もいないような田舎で育てられ、言葉は悪いが世間知らずな青年に成長して、
どんなに純真無垢であっても、殺された両親の復讐を遂げるとなれば、ならず者にならなければならないということ。

現代のような警察の存在もないし、司法制度などあってないようなもの。
両親を殺したのは、典型的な無法者であり、そんな連中が逃げた先でも“それなりの”生活しかしていない。
だからこそ、逃走した彼らを探し当てるには、自分自身が“それなりの”生活を送るしかないというのは、皮肉である。

でも、主人公は純粋に殺された両親を愛していたからこそ、何年にも及ぶ復讐に一途になれたのでしょうね。

相変わらず、ルシアン・バラードのカメラは美しい。特に昼の撮影が良い。
本作の後にも『ワイルドバンチ』など評価された仕事は多くありましたけど、本作も出色の出来ではないかと思います。
ある意味で被写体としてのスティーブ・マックイーンは、ルシアン・バラードにとって相性抜群だったのかもしれません。
今思えば、72年の『ジュニア・ボナー/華麗なる冒険』もルシアン・バラードのカメラでしたが、あれも素晴らしかった。

映画のクライマックスはフィンチの懇願に耳を貸さないというのが、
ある意味で主人公にとって最大の復讐だったのかもしれない。そう考えれば、なんとも味わい深いラストだ。

こういった強い姿勢を見せることが、主人公の大人になった成長であり、
単に人間としての強さが、腕っぷしやガンファイトだけではないことを裏付けており、人間として成熟した証拠だ。
そういう意味でも、本作は復讐を描いた映画でありながら、人間としての成長を描いた作品でもあるのです。

(上映時間131分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ヘンリー・ハサウェイ
製作 ヘンリー・ハサウェイ
原作 ハロルド・ロビンズ
脚本 ジョン・マイケル・ヘイズ
撮影 ルシアン・バラード
音楽 アルフレッド・ニューマン
出演 スティーブ・マックイーン
   カール・マルデン
   スザンヌ・プレシェット
   ブライアン・キース
   アーサー・ケネディ
   ラフ・ヴァローネ
   マーチン・ランドー
   パット・ヒングル
   ジャネット・マーゴリン