ネットワーク(1976年アメリカ)

Network

大赤字の報道部を抱えるTV局が、ニュース番組を異常なまでにショーアップ化し、
冷酷なまでに一人のニュース・キャスターを利用しようとする姿を描いたサスペンス映画。

監督は社会派監督として知られるシドニー・ルメットで、彼が再びピークを迎えた頃の作品だ。
まぁ内容が内容なだけに、賛否両論となってしまう傾向はよく分かります。
ただ個人的には、この映画を徹底して支持したい。もっとも、サスペンス映画と前述しましたが、
基本的にこの映画はコメディ映画と言っていいだろう。全てがステレオタイプに描かれるけど、
これらは全てディレクターによって意図されたものと言っていいだろう。

狂っているとしか思えない、常軌を逸したハワードの言動・行動。
あからさまに煽動的なハワードなのですが、視聴者たちは次々と彼に影響されていきます。

おりしも本作が製作された時のアメリカはオイル・ショックや米ソ冷戦、加えてベトナム戦争の余波など、
決して明るくはないニュースばかりが占めていました。だからこそ、シドニー・ルメットは皮肉ったのかもしれない。
何もかもが、まるで舞台劇のように大袈裟に展開されていきますが、それはまるでコメディのようだ。
おそらくこれらはパディ・チャイエフスキーの脚本の段階から、意図されていたのだろう。

豪華なキャスティングにも大きく助けられ、
出演者たちが次から次へとアカデミー賞にノミネートされた、正しく圧巻の作品だ。

まぁウィリアム・ホールデン演じるマックスの妻を演じたベアトリス・ストレートなんて、
実登場時間は10分にも満たないのに、何故にアカデミー賞を受賞できたのか、よく分からないのですが(笑)、
本作撮影直後に心臓発作により急逝したハワード役のピーター・フィンチの熱演にしても、
映画を一級品に昇華させるのに、十分に貢献した仕事と言っていいでしょうね。

ちなみにピーター・フィンチは本作の芝居でアカデミー賞を受賞することになるのですが、
残念ながら授賞式の約2ヶ月前に既に他界されており、アカデミー賞史上、
初めて故人にオスカー像が送られるというトピックスになりました。

半ば「やり過ぎだ」という声が聞こえてきそうな作品ではありますが、
シドニー・ルメットの狙いは正にそこにあったようで、映画は観方によればコメディである。
そして女性プロデューサーのダイアナが次第に暴走を始め、映画はやがて狂気に満ちた方向へと転換します。
それはさながら、スリラー映画であるかのようで、視聴率のためなら殺しをも躊躇しない恐ろしさがある。

これは当初はハワードが常軌を逸した行動・言動に出ていたはずなのに、
そんなハワードを監視していたはずの経営者たちが、常軌を逸していくという、
まるで“ドミノ倒し”のような発想がこの映画の終盤で具現化されています。

ハワードの精神を病んだ症状を利用し、
更に彼を操り、都合のいいように彼を操作していく狂気が、実に象徴的に描かれています。
ちなみにこの点に関しては、シドニー・ルメットの舞台劇のような演出が功を奏している。
必要以上に出演者たちもオーヴァーアクトしているように見せ、徹底して映画を大袈裟なものに見せようとします。
どれもこれも人間の欲望や狂気をシドニー・ルメットがあざ笑っているかのようだ。

まぁこのシドニー・ルメットのスタイルを許せるか否かで、映画の評価は大きく変わるでしょうね。
確かに『狼たちの午後』なんかに比べると、どうしても直情的な映画にしか見えないし、
もっと上手い撮り方があったのではないかと思えて、仕方がありません。

しかしこの仰々しさや皮肉は、ほぼ間違いなく意図されたものである。
その意図の矛先は、勿論、メディアに向けられていて、ストレートで痛烈なメディア批判でしょうね。
70年代に入って、次第に情報産業が勢力を伸ばしつつあったアメリカで、
TVの持つ影響力が肥大化していたはずです。だからこそ、本作のような企画が成り立ったわけです。

そういったシドニー・ルメットの危惧は、ハワードが代弁しています。
映画の終盤でハワードは自分のショー番組を持つようになりますが、ここでは言いたい放題です。

今やTVの持つ影響力って、たかが知れてると言えば、それは間違いではないように思うのですが、
TV以外のメディアが発達してしまったおかげで、視聴者の選択肢を増やしてしまいましたね。
更にインターネットや携帯電話の普及により、TVの情報発信力や人々を惹きつける求心力が衰えましたね。
そう考えれば、シドニー・ルメットが危惧していたことは現実にはならなかったけども、
視聴率のためには手段を選ばず、あれやこれやと手を尽くすという発想を描くというのは、
まんざら的外れではないのではないかと僕は思います。

ダイアナを演じたフェイ・ダナウェーはホントにキレイですねぇ(笑)。
ひょっとしたら、一番、女優として魅力的な時期だったのかもしれませんね、
本作での熱演が認められて、アカデミー賞を受賞しておりますね。それも主演男優賞も受賞したというのは、
過去ほとんど例のない出来事ではないかと思います。

まぁ強いて言えば、パディ・チャイエフスキーの脚本がチョットだけ注文を付けたい。
そもそもこんなに大袈裟な演出を強いられたのは、この脚本のせいであるわけで、
ストーリー展開の段取りがチョット悪い。もう少し理路整然とした内容にした方が、
彼らのメッセージ性が伝わり易かったと思いますね。それと付随して、ラストシーンの余韻の乏しさは残念ですね。
個人的にはもっと力強い、訴求力のあるラストシーンにして欲しかったと思うし、
ここまで安っぽいラストシーンだと、作り手の主張が観客に誤解されてしまうリスクが大きいと思う。

個人的にはTV局の社長を演じたネッド・ビーティがアカデミー賞にノミネートされたというのは意外だ。
これはどちらかと言えば、親会社から乗り込んできた会社の重役を演じたロバート・デュバルの方が
映画に対する貢献度がデカいだろう...というのが本音なのですがねぇ〜。

何はともあれ賛否両論あれど、風化して欲しくはない一本だ。

(上映時間121分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 シドニー・ルメット
製作 ハワード・ゴットフリード
    ダニエル・メルニック
脚本 パディ・チャイエフスキー
撮影 オーウェン・ロイズマン
音楽 エリオット・ローレンス
出演 フェイ・ダナウェー
    ウィリアム・ホールデン
    ピーター・フィンチ
    ロバート・デュバル
    ネッド・ビーティ
    ベアトリス・ストレート
    ランス・ヘンリクセン
    ウィリアム・プリンス

1976年度アカデミー作品賞 ノミネート
1976年度アカデミー主演男優賞(ピーター・フィンチ) 受賞
1976年度アカデミー主演男優賞(ウィリアム・ホールデン) ノミネート
1976年度アカデミー主演女優賞(フェイ・ダナウェー) 受賞
1976年度アカデミー助演男優賞(ネッド・ビーティ) ノミネート
1976年度アカデミー助演女優賞(ベアトリス・ストレート) 受賞
1976年度アカデミー監督賞(シドニー・ルメット) ノミネート
1976年度アカデミーオリジナル脚本賞(パディ・チャイエフスキー) 受賞
1976年度アカデミー撮影賞(オーウェン・ロイズマン) ノミネート
1976年度アカデミー編集賞 ノミネート
1976年度全米脚本家組合賞オリジナル脚本賞<ドラマ部門>(パディ・チャイエフスキー) 受賞
1976年度イギリス・アカデミー賞主演男優賞(ピーター・フィンチ) 受賞
1976年度ニューヨーク映画批評家協会賞脚本賞(パディ・チャイエフスキー) 受賞
1976年度ロサンゼルス映画批評家協会賞作品賞 受賞
1976年度ロサンゼルス映画批評家協会賞監督賞(シドニー・ルメット) 受賞
1976年度ロサンゼルス映画批評家協会賞脚本賞(パディ・チャイエフスキー) 受賞
1976年度ゴールデン・グローブ賞<ドラマ部門>主演男優賞(ピーター・フィンチ) 受賞
1976年度ゴールデン・グローブ賞<ドラマ部門>主演女優賞(フェイ・ダナウェー) 受賞
1976年度ゴールデン・グローブ賞監督賞(シドニー・ルメット) 受賞
1976年度ゴールデン・グローブ賞脚本賞(パディ・チャイエフスキー) 受賞