ナッシュビル(1975年アメリカ)

Nashville

これは半ば、ロバート・アルトマンがヤケクソになった映画のように思えますね(笑)。

いや、別に悪い意味ではないが、建国200年を迎えつつあったアメリカを
カントリー&ウェスタンの聖地であるナッシュビルを舞台にして、徹底的に皮肉った強烈な群像劇で、
これは如何にもロバート・アルトマンらしい作品であり、尺の長さを除けば、かなり良い出来だと思う。

正直言って、個人的な嗜好で言うと...
僕はこういうロバート・アルトマンが撮る群像劇って苦手なのですが、
本作は彼の立ち位置がハッキリとした映画で、数多くいる登場人物を突き放して描き通したのは凄いと思う。

いつもロバート・アルトマンの監督作って、“華”が無いのですが...
本作はいつもにも増して“華”が無く、正直言って、誰が主人公なのか、よく分からない構成だ。

でも、この映画の狙いって、一つは誰も特別扱いしないという点で、
敢えて皆、均等にフォーカスすることによって、ドラマに主観というものを一切入れていません。
ロバート・アルトマン自身もストーリーを語りながら、冷徹に吐き捨てるように各エピソードを並べ、
一つのエピソードに飽きたら、「はい、次」って感じで、次から次へと観客に回覧させます。

映画の冒頭のまるで昔のテレビ・ショーのような紹介ナレーションからして、
「チョット、この映画はブッ飛んでるな」と感じさせるのですが、この他にも色々とブッ飛んだところ満載な作品です。

生前、ロバート・アルトマンはそうは言っておりませんでしたが、
僕にはナッシュビルという街そのものも皮肉の対象にしているような気がして、なりません。
それはこの映画の衝撃的なラストシーンに象徴されているのですが、“事件”が起きた直後、
ベテラン歌手のヘヴンは妙に冷静な判断を下し、マイクをとってステージ中央に向かい、
「皆さん落ち着いてください。ナッシュビルはいつものように安全です!」と言い放ち、
壇上にいた女性シンガーに「いいから歌え!」と言い、何事も無かったかのようにバンド演奏が流れ、
その女性シンガーもいつも以上の熱唱を繰り広げるかのように朗々と歌い、神々しいラストを迎えます。

こういう光景を、ロバート・アルトマンはあたかも「ほら、こんな異常な状況って、気持ち悪いだろ?」と
言わんばかりに画面には異様な違和感を吹き込み、実に後味の悪いラストになっています。

皮肉にもこれが80年のジョン・レノン暗殺事件への伏線と見る論調もあったそうで、
ロバート・アルトマンのところにも、実際にインタビューがあったそうで、実に厳しい質問が浴びせられましたが、
生前、ロバート・アルトマンは「この映画を観て、言うことを聞かなかった自分を責めるべきだ」と
実に意味深長なコメントを残しております。彼はこのラストを警告として描いていたのかもしれませんね。

僕はこの映画、ロバート・アルトマンなりの反抗ではないかとすら思います。
そもそも本作は『ボウイ&キーチ』を撮るために当時、ユナイテッド・アーティスツに出資してもらう条件として、
カントリー・ミュージックを題材にした映画を撮ることが提示されたがために、メガホンを取ることになったわけで
「そうだ、カントリー・ミュージックの聖地と言えばナッシュビルだ!」となって、スタッフにリサーチさせたそうで、
つまりは当初、どうしても彼が撮りたかった題材ではなかったのではないかと思える点で、
そのためか映画は音楽そのものよりも、アメリカの縮図を投影することに置き換えてしまったようで、
結局、かなり個性的な映画になってしまいましたが、それが結果として良かったのではないでしょうかねぇ。

そして、あまり強い意味を持たないシーンで
突発的にエリオット・グールドとジュリー・クリスティを本人役でゲスト出演させたり、
本作でのロバート・アルトマンはとにかくメチャクチャな映画の撮り方をしていますが、
この方法論を頑として、映画の最後の最後まで曲げなかったことが、本作の高評価の要因でしょう。

大統領選のためなら、あらゆる人間を利用しようとする恐ろしさが基調になっていて、
特に映画の後半でグウェン・ウェルズ演じる歌手志望の女性が、パーティーで歌うよう要請されたものの、
そこでストリップを強要されるシーンは、異様な緊張感と絶望感を感じさせる印象的なシーンで、
まるで開き直ったかのようにドレスや下着を脱いでいくグウェン・ウェルズの失望感があまりに強烈だ。

本作以降、ロバート・アルトマンはこういった表現により傾倒していったようで、
破綻したような『ビッグ・アメリカン』、とてつもなく厳しい『三人の女』など、彼は更に“壊れて”いきます。

本作以前は、僕は何より『ロング・グッドバイ』が大好きなので、
できることならば、もっと『ロング・グッドバイ』のような言葉では形容し難い味わいを持った、
ハードボイルドを撮って欲しかったという気持ちはあるのですが、本作は一つのターニング・ポイントでしょうね。
本作を撮ってから、明らかにロバート・アルトマンの撮る映画の傾向が変わったような気がします。
(そして彼が撮る群像劇のスタイルの基本も、本作で確立されたと言っても過言ではないでしょう)

ちなみに本作、劇場公開当時はナッシュビルでも酷評されたとのことですが、
今やすっかり伝説的なロバート・アルトマンの人気作となり、全世界的に根強い人気があります。
日本では長らくビデオ化もされず、DVD化もされずに視聴困難な半ば“お蔵入り”状態ではありましたが、
2011年に突然、首都圏を中心にリバイバル上映され、2012年に待望のDVD化が実現しました。

ただ、僕は強く思うのは...
ロバート・アルトマンは決して登場人物を蔑んだ視線で描いているわけではないということですね。
確かにシニカルな視点で描いて、妙な違和感をあぶり出してはいるけど、決して軽蔑的ということではなく、
まるで「アメリカよ! 現状が行き過ぎると、いつかはこんなになっちまうぞ!」と言っているかのようです。

こうしてメッセージを発したロバート・アルトマンは、
翌年に『ビッグ・アメリカン』を撮り、そのラストシーンで完全にブッ壊れてしまいます・・・。

(上映時間160分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ロバート・アルトマン
製作 ロバート・アルトマン
脚本 ジョーン・テュークスベリー
撮影 ポール・ローマン
音楽 リチャード・バスキン
    キース・キャラダイン
出演 ヘンリー・ギブソン
    リリー・トムソン
    ロニー・ブレイクリー
    グウェン・ウェルズ
    シェリー・デュバル
    キーナン・ウィン
    バーバラ・ハリス
    スコット・グレン
    ロバート・ドクィ
    ティモシー・ブラウン
    ネッド・ビーティ
    マイケル・マーフィ
    ジェラルディン・チャップリン
    キース・キャラダイン
    カレン・ブラック
    アレン・ガーフィールド
    ジェフ・ゴールドブラム
    デビッド・ヘイワード
    ドナ・デントン

1975年度アカデミー作品賞 ノミネート
1975年度アカデミー助演女優賞(ロニー・ブレイクリー) ノミネート
1975年度アカデミー助演女優賞(リリー・トムソン) ノミネート
1975年度アカデミー監督賞(ロバート・アルトマン) ノミネート
1975年度アカデミー歌曲賞(キース・キャラダイン) 受賞
1975年度全米映画批評家協会賞作品賞 受賞
1975年度全米映画批評家協会賞助演男優賞(ヘンリー・ギブソン) 受賞
1975年度全米映画批評家協会賞助演女優賞(リリー・トムソン) 受賞
1975年度全米映画批評家協会賞監督賞(ロバート・アルトマン) 受賞
1975年度ニューヨーク映画批評家協会賞作品賞 受賞
1975年度ニューヨーク映画批評家協会賞助演女優賞(リリー・トムソン) 受賞
1975年度ニューヨーク映画批評家協会賞監督賞(ロバート・アルトマン) 受賞
1975年度ロサンゼルス映画批評家協会賞脚本賞(ジョーン・テュークスベリー) 受賞
1975年度ゴールデン・グローブ賞歌曲賞(キース・キャラダイン) 受賞