カナディアン・エクスプレス(1990年アメリカ)

Narrow Margin

ロサンゼルスでブラインド・デートに興じていた最中に、
相手男性がマフィアのトラブルから、無残にも殺害されてしまう瞬間を目撃したことにより、
カナダの山奥にある別荘に身を寄せていたところ、マフィアのボスを逮捕したい検事補たちが
法廷での証言を求めて別荘を訪問し、ロサンゼルスへ連れて行こうとするも、
マフィアのボスが警察関連を買収していたことにより、すぐに殺し屋が迫ってくる姿を描いたサスペンス映画。

監督は『カプリコン・1』のピーター・ハイアムズで、
彼のいつも監督作品を観ていれば、どういう映画を撮るのが特徴か分かってはいたのですが、
どこか物足りない部分はあるものの、これはこれでタイトにまとめられた、なかなか悪くない出来だと思う。

上映時間は90分という実に経済的な上映時間であり、
アクション的な見せ場も、冒頭のカナダの山奥でのヘリコプターを使ったチェイス・シーンと、
長距離列車に乗ってからの、“かくれんぼ”のような攻防、そしてクライマックスの格闘シーンと、
作り手が明確に分けて構成しており、映画をひじょうに上手く整然とさせていることに感心させられた。

ピーター・ハイアムズは決して、器用な映像作家ではありませんが、
さすがに臨場感溢れるチェイス・シーンの撮り方などは見事な出来で、見応えたっぷりの映画になっている。

こういう映像が撮れるというのは、やはりカメラマン出身のピーター・ハイアムズならではですね。
あまり他作品を悪く言いたくはありませんが、彼が撮った同時期の監督作品としては、
どことなく覇気が感じられなかった、88年の『プレシディオの男たち』なんかと比べれば、
よっぽどこっちの方が優れた出来の映画であったと思うし、モチベーションが全然、違います(笑)。

っていうか、映画の出来は置いておいて(笑)、
ピーター・ハイアムズって自分の監督作品でも、自分でカメラを撮るってのが凄いですね。
いつもフレームを通して観ているのでしょうから、シーン演出が難しい気がするのですが、
やはり冒頭のチェイス・シーンなどは、特に彼なりのこだわりを感じさせるシーンには仕上がっていますね。

但し、どちらかと言えば、この映画は列車に乗ってからよりも、
映画の冒頭の山を下りながら、ヘリコプターの襲撃を交わすチェイス・シーンの方が面白い(笑)。
列車に乗ってからの方が圧倒的に長い映画なので、なんか、本末転倒な映画ですが、許してあげて欲しい(笑)。

そうそう、冒頭はチェイス・シーンだけでなく、
それ以前にある山小屋が“蜂の巣”になるほどの銃撃を受け、主人公が待たせていたヘリコプターも
襲撃の的になった挙句、ヘリコプターは垂直に墜落炎上してしまうというのも、大迫力で圧倒される演出。

列車に乗ってからは、尾行してきた悪党2人が大胆に行動してきて、
レストランでたまたま主人公の検事補を話していた一般人の女性を、標的の女性と勘違いされて、
執拗に列車内で追ってくるシーンあたりから、一気にエンジンがかかるようで、なかなか悪くない展開だ。
確かにセオリー通りの構成にはなっているので、意外性には欠けるが、基本はキッチリやっているせいか、
映画はしっかりとしていて、クライマックスまでキッチリ楽しませてくれるのはさすがですね。

欲を言えば、主人公と悪党との会話で、列車の終点バンクーバーでの話しが出ていたので、
できることであれば、列車がバンクーバーに着くまで、ストーリーを引っ張って欲しかったけれども・・・。

主演はこの頃、いっぱい映画に出ていた(笑)、ジーン・ハックマンでベテランの検事補にはピッタリで、
映画の冒頭で上司の指示を無視してでも、行動に出るあたりは如何にも彼らしいのですが(笑)、
全体的には動きのあるアクション・シーンはもう体力的にキツかったでしょうね。それは観ていても、分かります。
正直言って、クライマックスの列車の天井でしがみ付きながらのアクションは、観ていてもツラいところ。。。

個人的にはもうチョット、この映画で頑張って欲しいという気持ちはあったのですが、
おりしも撮影していた頃に体調が悪かったらしく、心臓発作を起こしているのが仕方ないのかもしれません。
幸いにも、軽い症状で済み、すぐに俳優業に復帰していますが、04年に完全に引退宣言をしてしまい、
今となっては作家に転身して、映画業界から完全に足を洗ってしまったそうですね。なんだか、残念だけど・・・。

ジーン・ハックマンは「仕事を選ばない俳優」として、揶揄的に非難されていた時代もありましたが、
少なくとも本作を観る限り、それなりに仕事を選んでいたような気がするんですよね。

列車に乗ってからのジーン・ハックマンの芝居はとっても上手くって、
何がなんでもアン・アーチャー演じる証人を守ろうと、狭い限定された空間である長距離列車の中で、
あれやこれやと手を尽くして尾行人の襲撃を交わしていくことに説得力があり、それでいながらスリルもある。

そして前述したように、映画も終盤に差し掛かると一気にエンジンがかかるわけで、
このエンジンがかかることにも、ジーン・ハックマンの安定感ある芝居が一役をかっているわけですね。
どの時代にあっても、こういう働きができる役者さんって、とても貴重な存在だと思うんですよねぇ。

この映画で最も大きな成功だったのは、尾行人たちが証人の素性を把握していなかったこと。
勿論、目撃者が女性だということは分かっていたのですが、顔は分かっておらず、
そんな彼女を守っている検事補の顔だけが分かっているという設定が面白くって、
映画のテンションを保つことに大きく貢献しているわけで、この設定を作れたことに成功の源があったと思います。

ピーター・ハイアムズは決して数多くの映画を撮っていると言えるほど、
発表作は多くありませんが、90年代に入ってからは完全に低迷してしまっただけに、
本作で見せた、器用な側面を今一度、取り戻して欲しいですね。まだ終わってしまうには、早すぎますよね・・・。

73年の『破壊!』、77年の『カプリコン・1』と70年代に骨太な映画を作り続けた、
ある意味でアメリカン・ニューシネマが育てた映像作家の一人なだけに、まだまだ頑張って欲しいのです。。。

最近はすっかり寡作な映像作家になってしまっただけに、
99年で代役でメガホンを取った、シュワちゃん主演の『エンド・オブ・デイズ』を撮り終えた後は、
あまり話題になる映画を撮れていないあたりを思うに、ひょっとしたらスランプに陥ってしまったのかもしれません。
そう思って観ると、繰り返しになりますが・・・本作で彼が見せた気概を、今一度、取り戻して欲しいんだなぁ...。

(上映時間96分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ピーター・ハイアムズ
製作 ジョナサン・A・ジンバート
原案 マーチン・ゴールドスミス
    ジャック・レナード
脚本 ピーター・ハイアムズ
撮影 ピーター・ハイアムズ
音楽 ブルース・ブロートン
出演 ジーン・ハックマン
    アン・アーチャー
    ジェームズ・B・シッキング
    M・エメット・ウォルシュ
    スーザン・ホーガン
    J・T・ウォルシュ
    ナイジェル・ベネット