ミスティック・リバー(2003年アメリカ)

Mystic River

うへぇ、こりゃ相変わらず凄い映画だ。。。
この頃から、再びイーストウッドがギアを入れ替えたように、凄い映画を連発するようになりましたねぇ。

40歳近くなった、3人の中年男性をメインに据え、
彼らが幼い頃に起こった、刑事を装う2人組みの男による男児誘拐監禁事件をキッカケに、
それぞれの運命が決定付けられ、徐々に人生の歯車が狂い始めた様子から、
その中の一人、雑貨店を経営するジミーの愛娘が惨殺され、それまで疎遠になっていた3人が
お互い違う立場で顔を合わせ、再び過酷な現実に晒される姿を描いたミステリー・サスペンス。

これは劇場公開当時から話題になってはおりましたが、
何度観ても、実に力強い壮絶なドラマであり、イーストウッドが他の追従を許さぬレヴェルで
映画を撮っていることを証明したと言っても過言ではないぐらい、優れた映画だと思いますね。

この映画は言ってしまえば、究極の不条理を描いたようなものですが、
おそらくこの映画のラストのあり方には賛否両論だろう。でも、僕はこの力強さは凄いと思う。

さすがに映像作家とは言え、ここまで複雑な感情が錯綜するドラマだったりすると、
少し整理して描こうとか、倫理的な側面から勧善憎悪のニュアンスは入れた方がいいのではないかと、
少しずつ欲を出して、映画に合理性を求めようとしがちになるのだけれども、本作はそうではない。

さすがにここまで全てをさらけ出して、ありのままに描き、
それを映画の最後の最後まで貫き通したイーストウッドの強さには、感銘すら受ける。
さすがにここまで芯の強い映画を撮るというのは、そう容易いことではないと思うのですよね。
また、上映時間が2時間を超えるのですが、一切、ダレずに見せてしまうのも凄いですね。

この映画、ある意味で「偶発性」を重視しているような感じで、
全ての行動や成り行きが、理屈で語れるものでもなければ、明確な理由なんて存在しないものもある。
まるでイーストウッドは、「えてして現実とは、こんなもの」とは言わんばかりに描いてしまうわけで、
一見すると、中途半端なラストにあっても、確かにこれはひじょうに不条理なラストでやり切れないのだが、
強く観客に問題を提起するような、メッセージ性の強いラストシーンというわけでもないから不思議だ。

この映画はイーストウッド本人のトーンを象徴しているかのようで、
ドッシリと椅子に構えて、そして静かに物語を語りかけているようで、ちっとも感情的にはならない。
いくらでも感情的になろうと思えばなれたものを、徹底してクールに描き切ってしまうというのも凄い。

ただ、一つだけ、この映画で描かれる揺るがぬターニング・ポイントがある。

それは3人の男たちにとって、25年前に起こったデイブが誘拐された事件は、
大きく彼らの心の奥深くをえぐってしまったことで、当然、デイブ自身にとっては大きなトラウマである。

ジミーは表向きは雑貨店を営みながらも、実は窃盗で2年服役した過去があり、
ヤバい商売の連中とつるんで、犯罪行為も躊躇しない、典型的なアウトローである。
それはやはり、彼にとって大きな“分かれ道”であったのは、25年前にデイブが誘拐されたことだろう。

そして刑事として活躍するショーンにとっても、未だ思い出したくない過去であることは否定できず、
家庭生活でも不和を迎えつつあり、職場内でも馴染めないのは、どうしても過去を引きずっているから。

いずれにしても彼らが積極的に過去を振り返らないのは、
それぞれがそれぞれの思いで25年前の出来事を心の中で引きずっているからなのです。
これは本作の中で、とても大きなウェイトを占めており、とても重要な要素なのです。

そしてこの心の傷が、彼らに再び牙を向けます。
デイブは精神的に安定せず、ジミーは惨殺された娘の復讐のため、再び悪の道に手を染め、
ショーンは触れたくはない過去を掘り返したくないために、気が進まないながらも、
捜査が進むにつれ、より複雑な感情を募らせながら、捜査を担当する毎日。
どうしても彼らの運命は破滅へと向かい、「25年前の事件さえ、無ければ・・・」という感情が高ぶります。

脚本は『L.A.コンフィデンシャル』のブライアン・ヘルゲランドで、
実に複雑な感情が交錯するエピソードをまとめ上げ、各登場人物のアンサンブル効果が増長するように
細部にわたって気が配られた描写を可能にするシナリオとなっており、確かに良く書けているのでしょう。

色々な意見はあるでしょうが、本作は傑作だと僕は思います。
各シーンが作り上げるトーンなど、全てのシーンの積み重ねが実に効果的で、映画がしっかりしている。

暴論かもしれないが、イーストウッドはこの映画で描きたいことがあっただろうが、
この映画を通して、観客である我々に伝えたいことなんて、一つも無いと思う。
描きたいことは、勿論、3人の男たちに突きつけられる不条理な現実だろうが、
この映画を通した明確なメッセージなど無く、イーストウッドはストーリーテラーに徹しているのだろう。

そういう意味で前述した、一見すると、中途半端に映るラストシーンが素晴らしく、
これは音楽に例えると、後奏みたいなもので、これが無ければ、むしろ僕の心はなびかなかったかもしれない。

まぁひじょうに重たい映画ですので、
観る前はある程度、覚悟した方がいいとは思いますが、一度は観るべき傑作です。

(上映時間137分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

日本公開時[PG−12]

監督 クリント・イーストウッド
製作 クリント・イーストウッド
    ジュディ・ホイト
    ロバート・ロレンツ
原作 デニス・ルヘイン
脚本 ブライアン・ヘルゲランド
撮影 トム・スターン
美術 ヘンリー・バムステッド
編集 ジョエル・コックス
音楽 クリント・イーストウッド
出演 ショーン・ペン
    ケビン・ベーコン
    ティム・ロビンス
    ローレンス・フィッシュバーン
    ローラ・リニー
    マーシャ・ゲイ・ハーデン
    エミー・ロッサム
    ケビン・チャップマン
    トム・グイリー
    スペンサー・トリート・クラーク
    イーライ・ウォラック

2003年度アカデミー作品賞 ノミネート
2003年度アカデミー主演男優賞(ショーン・ペン) 受賞
2003年度アカデミー助演男優賞(ティム・ロビンス) 受賞
2003年度アカデミー助演女優賞(マーシャ・ゲイ・ハーデン) ノミネート
2003年度アカデミー監督賞(クリント・イーストウッド) ノミネート
2003年度アカデミー脚色賞(ブライアン・ヘルゲランド) ノミネート
2003年度全米俳優組合賞助演男優賞(ティム・ロビンス) 受賞
2003年度全米映画批評家協会賞監督賞(クリント・イーストウッド) 受賞
2003年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞作品賞 受賞
2003年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞主演男優賞(ショーン・ペン) 受賞
2003年度ボストン映画批評家協会賞作品賞 受賞
2003年度ワシントンDC映画批評家協会賞脚色賞(ブライアン・ヘルゲランド) 受賞
2003年度シアトル映画批評家協会賞助演女優賞(マーシャ・ゲイ・ハーデン) 受賞
2003年度サウス・イースタン映画批評家協会賞助演男優賞(ティム・ロビンス) 受賞
2003年度サウス・イースタン映画批評家協会賞脚色賞(ブライアン・ヘルゲランド) 受賞
2003年度フロリダ映画批評家協会賞主演男優賞(ショーン・ペン) 受賞
2003年度フロリダ映画批評家協会賞助演男優賞(ティム・ロビンス) 受賞
2003年度カンザス・シティ映画批評家協会賞主演男優賞(ショーン・ペン) 受賞
2003年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞主演男優賞(ショーン・ペン) 受賞
2003年度ラスベガス映画批評家協会賞主演男優賞(ショーン・ペン) 受賞
2003年度シカゴ映画批評家協会賞助演男優賞(ティム・ロビンス) 受賞
2003年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞主演男優賞(ショーン・ペン) 受賞
2003年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞(ティム・ロビンス) 受賞
2003年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞(マーシャ・ゲイ・ハーデン) 受賞
2003年度バンクーバー映画批評家協会賞主演男優賞(ショーン・ペン) 受賞
2003年度ロンドン映画批評家協会賞主演男優賞(ショーン・ペン) 受賞
2003年度ロンドン映画批評家協会賞監督賞(クリント・イーストウッド) 受賞
2003年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞<ドラマ部門>(クリント・イーストウッド) 受賞
2003年度ゴールデン・グローブ賞助演男優賞(ティム・ロビンス) 受賞