マリリン 7日間の恋(2011年イギリス・アメリカ合作)

My Week With Marilyn

かの有名女優、マリリン・モンローがハリウッドで一世風靡した後に、
それまでのセックス・シンボル的存在から脱却すべく、リー・ストラスバーグに師事して演技を学び、
メソッド演技のコーチを伴ってイギリスへ渡り、名優ローレンス・オリビエが監督する、
コメディ映画『王子と踊り子』に出演する際の、紆余曲折をマリリンの束の間の恋を絡めて描いたドラマ。

観る前は、てっきり話題性先行の映画なのかと勝手に思っていたのですが、
いざ本編を観てみると、意外にしっかりした映画で、作り手がしっかりビジョンを持った映画で感心しましたね。

監督はイギリス出身のサイモン・カーティスで、僕は初めて観たディレクターですが、
この人が撮る映画は、今後、注目していきたいですね。将来性を強く感じさせる一作と言っていいです。

また、劇場公開当時、話題となったマリリン・モンローを演じた
ミシェル・ウィリアムズがホントに素晴らしい芝居をしていて、ただのモノマネではなく、
彼女自身が見事に構築している部分も大きく、おそらく彼女のキャリアの中でとても大きな作品となるでしょうね。

それから、実在の名優ローレンス・オリビエを演じたケネス・ブラナーも上手かったのですが、
これだけ芸達者な役者たちが集まると、映画はただの芝居合戦に陥ってしまいがちなのですが、
この映画のサイモン・カーティスが上手かったのは、出演者の上手さを利用しながら、
彼なりにマリリン・モンローの実像に迫ろうと、かなり踏み込んで描いた点にあります。

例えば、マリリンのチョットしたワガママな部分を描きながらも、
彼女の運命を左右することとなってしまった、彼女の取り巻きを程よく突き放して描き、
ある意味では環境に恵まれた彼女が、一方で環境に恵まれていたとは言い難い側面を上手く描けている。

特にダグレイ・スコットが演じた劇作家アーサー・ミラーに、
そんなマリリンを孤立させる側面を見い出しながらも、あまり過剰に描き過ぎない工夫がある。
ややもすると、マリリンの死に迫るミステリーに陥りがちなのですが、この映画はミステリーに陥ることもなく、
実に上手くマリリンの実像に迫りながら、彼女の人間らしい生活を求める姿に言及しています。

原作は本作でエディ・レッドメインが演じた、『王子と踊り子』のカメラ・アシスタントに選ばれた、
コリン・クラークという20代前半の駆け出しの若者が、『王子と踊り子』の撮影現場に立ち会うにつれて、
それまで出会ったことも無かったマリリンのような女性の魅力に圧倒されながらも、彼女に気に入られ、
次第に淡い恋心を抱きながらも、彼女の孤独な心理状態に触れ、複雑な想いにかられる姿を描きます。

驚いたのは、コリンが撮影現場に入り浸るようになって、
衣裳係の女の子と恋に落ちるのですが、この女の子、どこかで観たことがあるような気がすると思いきや、
彼女は『ハリー・ポッター』シリーズのハーマイオニーを演じたエマ・ワトソンだったんですね。

いつの間にか、大人の女性を演じる女優さんに成長していて、ビックリしてしまいましたね。
(そりゃ、もう年齢も年齢なだけに、当たり前と言えば、当たり前だが・・・)

マリリン・モンローは真剣に演技派女優として転身したいと願っていたようで、
わざわざイギリスへ渡ってまでも、『王子と踊り子』の撮影に参加しようと決意するのですが、
どうやら当時のローレンス・オリビエは、マリリン・モンローにそんな姿を求めてはおらず、
言わば、従来のセックス・シンボルとしての魅力をスクリーンで振りまいて欲しいと思っていたようですね。

これが原因でマリリン・モンローとローレンス・オリビエの間には、
大きな溝が生じてしまい、2人は撮影現場ではかなり険悪な空気となっていたようです。
勿論、撮影現場はもとより、当時のショービズ界に於いても、あくまで新進女優のマリリン・モンローと
実力派俳優で演劇界でも名を馳せていたローレンス・オリビエでは、ローレンス・オリビエに分があったことは
明らかであり、よりマリリンの精神状態は追い詰められ、孤立感を深めていってしまったようですね。

しかしながら、本作を映画化する権利をマリリンが持っていたため、
いくらローレンス・オリビエが監督とは言え、露骨にはマリリンを冷遇はできなったようです。

映画はそんな周辺事情に注意しながら、
マリリンが酒とクスリに徐々に溺れながらも、自分自身と闘い、そして幼少の頃からの孤独な境遇と
30歳になりながらも葛藤しながら、世間で作り上げられたマリリンの虚像とは全く異なって、
人間らしい幸せを求める姿に、コリンが恋する流れは当然と言えば、当然だったのかもしれません。

しかし、コリンはこの原作を95年に出版したそうなのですが、
よくこの内容が物議を醸さなかったものだと感心しましたね。マリリンを支えた人たちは、どう思ったのだろう?

この映画、欲を言えば、ローレンス・オリビエとビビアン・リーの微妙な関係は
もっと深く描いて欲しかったですね。撮影開始までは、マリリンと仕事ができることに完全に浮かれていた
ローレンス・オリビエをビビアン・リーは気が気でならなかったはずで、これは大きな出来事だったはずだ。
しかし、その心配は現実にならないのですが、さすがに2人の関係を象徴するシーン演出が、
ラストに試写を観る2人を描いただけってのは、あまりに寂しい。もっと彼女を積極的に描いて欲しかった。

この映画でやたらと年老いたことを自虐的になっていたビビアン・リーですが、
演じたジュリア・オーモンドも久しぶりに観ただけに、もう少し彼女を映して欲しかったと思う。

キャストに助けられた部分は確かにあって、
前述したように、本作でのミシェル・ウィリアムズの頑張りは称賛に値する。
特に映画の撮影でダンス・シーンを演じる姿には、ホントにマリリン・モンローのシルエットがダブった。

全体的には丁寧に作られた映画であり、特にマリリン・モンローのファンにはオススメしたい作品だ。
サイモン・カーティスはこれからの活動に注目していきたい、期待の映像作家の誕生は素直に嬉しい。

(上映時間98分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 サイモン・カーティス
製作 デビッド・パーフィット
    ハーベイ・ワインスタイン
原作 コリン・クラーク
脚本 エイドリアン・ホッジス
撮影 ベン・スミサード
音楽 コンラッド・ホープ
出演 ミシェル・ウィリアムズ
    ケネス・ブラナー
    エディ・レッドメイン
    ドミニク・クーパー
    ジュリア・オーモンド
    ダグレイ・スコット
    ゾーイ・ワナメイカー
    エマ・ワトソン
    ジュディ・デンチ

2011年度アカデミー主演女優賞(ミシェル・ウィリアムズ) ノミネート
2011年度アカデミー助演男優賞(ケネス・ブラナー) ノミネート
2011年度ボストン映画批評家協会賞主演女優賞(ミシェル・ウィリアムズ) 受賞
2011年度ラスベガス映画批評家協会賞主演女優賞(ミシェル・ウィリアムズ) 受賞
2011年度シカゴ映画批評家協会賞主演女優賞(ミシェル・ウィリアムズ) 受賞
2011年度ワシントンDC映画批評家協会賞主演女優賞(ミシェル・ウィリアムズ) 受賞
2011年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞主演女優賞(ミシェル・ウィリアムズ) 受賞
2011年度デトロイト映画批評家協会賞主演女優賞(ミシェル・ウィリアムズ) 受賞
2011年度フロリダ映画批評家協会賞主演女優賞(ミシェル・ウィリアムズ) 受賞
2011年度ユタ映画批評家協会賞主演女優賞(ミシェル・ウィリアムズ) 受賞
2011年度オクラホマ映画批評家協会賞主演女優賞(ミシェル・ウィリアムズ) 受賞
2011年度トロント映画批評家協会賞主演女優賞(ミシェル・ウィリアムズ) 受賞
2011年度ロンドン映画批評家協会賞助演男優賞(ケネス・ブラナー) 受賞
2011年度ゴールデン・グローブ賞主演女優賞<ミュージカル・コメディ部門>(ミシェル・ウィリアムズ) 受賞
2011年度インディペンデント・スピリット賞主演女優賞(ミシェル・ウィリアムズ) 受賞