私の中のあなた(2009年アメリカ)

My Sister's Keeper

ジョディ・ピコーの世界的ベストセラーを映画化した話題作。

映画の出来はまずまずだと思うのですが、これは観ていてツラかったなぁ・・・。
映画化するには、かなり難しい題材だったとは思うのですが、上手く切り抜けてはいる。
ニック・カサベテスの描き方も正攻法で、真正面から目を逸らさずに、難しい題材にアプローチしている。

この堂々とした描き方は実に立派なものだったと思うし、
最近の映画ではここまで、ストレートに立ち向かった映画は珍しいぐらいだと思う。

しかし、やはり観ていて精神的にツラいものがある。
母親役に挑戦したキャメロン・ディアスもよく頑張っている分だけ、
痛いほどに母親の娘を守りたいとする感情はよく分かる一方で、次第に娘のためではなく、
自分のために娘を看病するという暴走に陥ってしまう姿に、観客はストレスを感じるように描かれているし、
一方でそんな暴走する母親に振り回され始める家族の苦悩も鮮明になってくる構図が、観ていてツラいのです。

この構図がチョット酷な現実を描いている感じで、
ある意味で鑑賞するのに、覚悟が必要な映画になってしまっているのが気になるなぁ〜。

あと、実はもう一つ大きなテーマがあって、それは生命倫理の問題だ。

こっちの方は本作では、あまり言及されていないのですが、
この映画のストーリーの発端って、まるで姉のドナーになるために産まれてきた妹がいること。
もっとも、非公式な話しとして両親が医師から、臍帯血の効果を聞いてしまったことから、
妹が誕生したかのような描かれ方をしているものだから、とてもデリケートな感じになったのですが、
そういった扱いに憤りを感じて、民事で訴訟を起こすというのが、一つのキーワードになっている。

映画はこちらのテーマには、あまり訴求せず、
重度の白血病と闘う長女と、その家族という方向にフォーカスしているから、
生命倫理のテーマにはあまり肉薄しないけど、これは映画の大きな柱の一つとなっていることは間違いありません。

実はベストセラーとなった原作と、映画ではまるで結末が違うのですが、
個人的には映画の結末の方が納得性が高いというか、静かに語れる構成になっていると思う。
読んだ方なら分かるだろうし、読んでいなくとも調べれば分かるのですが、原作の結末であれば、
かなりドラスティックな内容になってしまって、悪い意味で大袈裟な内容になってしまったと思いますね。

生命倫理よりも終末医療にフォーカスしたというのは、
やはり一つの映画であまりに重た過ぎる二つのテーマを追及することは難しく、
映画が散漫になってしまう可能性が高く、尚且つ、生命倫理にフォーカスすると社会派映画としての
色合いが強くなってしまうため、作り手が最も描きたいものがボヤけてしまうことを恐れていたのでしょう。
僕はそれはとても賢明な判断だったと思うし、結果としてはこれで良かったんじゃないかと思いますね。

『リトル・ミス・サンシャイン』では、まだまだ幼い子供でしたが、
アビゲイル・ブレスリンも本作では成長した雰囲気になっており、特に法廷でのシーンには感心させられた。
見かけだけではなく、精神的にも大人に近づいた感じで、今回は自分を主張し始める年頃を見事に表現。
(まぁ・・・実は“自分を主張している”だけではなく、真相はまた別にあるのだが...)

前述したように、キャメロン・ディアスはよく頑張っているのですが、
弁護士キャンベルを演じた、アレック・ボールドウィンのように脇役もしっかり固められていて良い。

キャメロン・ディアスはアビゲイル・ブレスリンの母親役というのは、
少々、無理があるとは思うのですが、観客のストレスとなるような存在をも臆せず挑戦し、
時にヒステックな振る舞いを交えながら、長女の延命に暴走する姿を見事に体現している。
ルックスでは違和感はあるかもしれませんが、それをカバーする熱演と言っていいと思う。
僕はキャメロン・ディアスは、もうこういう役柄をメインにして、映画出演していってもいいと思うんですよね。

ニック・カサベテスも必要以上に過剰に描くことなく、
実に落ち着いた語り口で、安定感ある映画に仕上げていて、好感が持てますね。

おそらく、もっと感情的な内容にしようと思えば、いくらだってできただろうし、
原作を大きく脚色している分だけ、ニック・カサベテスなりのオリジナリティを出したいという
意図があったのだろうし、こういう部分があるからこそ、本作を映画化した意義があったと言えると思いますね。

明白な結末へと向かっていく中でありながらも、
長女が母親を抱きかかえて眠るシーンには力強さがあり、ここが一番、胸にこみ上げるものがある。
個人的にはここで映画を終わらせた方が良かったのにと思えるほど、良く出来たシーンだったと思う。

ニック・カサベテスも最初は『フェイス/オフ』などで俳優として活躍していましたけど、
02年の『ジョンQ −最後の決断−』などの監督作品を観ると、映画監督に転身して良かったと思いますね。

但し、一点だけ注文を付けることがあるとすれば、
やはり母親がアビゲイル・ブレスリン演じる妹への愛情を感じ取れるシーンは描いて欲しかったと思う。
2人の関係が微妙なものになってしまうことは理解できるが、どことなく冗長なラストを描いてしまうのであれば、
もっとハッキリと親子関係が修復するプロセスを描いて欲しかったし、ラストシーンだけでは不十分だと思う。

妹がまるで姉のスペアパーツのように誕生したことを肯定も否定もせず、
母親も反省しているのか、よく分からないまま映画が終わってしまうのは、とても勿体ない。

勿論、全ての映画が教科書的な内容になる必要はないと思いますが、
この映画については、しっかりとケリを付けて欲しかった。そのせいか、後味はそこまで良くないかもしれません。
だからこそ、他の映画とは一線を画すことができたと言えば、それも否定はできないのですが、
何か一つでいいから、親子の和解を示唆するシーンをもっとハッキリと描いて欲しかったなぁ。

だからこそ、観ていてツラい映画だなぁ・・・という感想が、どうしても最後まで拭えなかったのでしょうね。

(上映時間110分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ニック・カサベテス
製作 マーク・ジョンソン
    チャック・パチェコ
    スコット・L・ゴールドマン
原作 ジョディ・ピコー
脚本 ジェレミー・レヴェン
    ニック・カサベテス
撮影 キャレブ・デシャネル
編集 アラン・ハイム
    ジム・フリン
音楽 アーロン・ジグマン
出演 キャメロン・ディアス
    アビゲイル・ブレスリン
    アレック・ボールドウィン
    ジェイソン・パトリック
    ソフィア・ヴァジリーヴァ
    ジョアン・キューザック
    トーマス・デッカー
    ヘザー・ウォールクィスト
    エヴァン・エリングソン