いとこのビニー(1992年アメリカ)

My Cousin Vinny

これは規模の小さなコメディ映画ではありますが、なかなか面白い作品ですね。
我らがマリサ・トメイがいきなりオスカーにノミネートされ、いきなり助演女優賞を獲得した作品もであります(笑)。

監督はコメディ映画を中心に創作活動しているジョナサン・リンですが、なかなか上手く構成できている。
少々、中身の割りに映画の尺が長くなってしまったのは感もありますが、悪い意味で中ダルみは感じられない。
それなりにテンポ良く、サクサクと進んでいくので好印象ですね。有名な作品ではありませんが、オススメできます。

アラバマ州の田舎町をドライブ中だった若者2人が、たまたま立ち寄ったコンビニで不注意から、
1個の缶詰を会計せずに持ってきてしまい、その後にパトカーによって止められ、いきなり逮捕されてしまいます。
実は彼らが立ち寄ったコンビニで店員が射殺される事件があって、彼らは殺人事件の犯人として裁判にかけられます。

そこで逮捕された2人が困って呼んだ弁護士は、そのうちの1人の従兄弟でニューヨークに暮らす、
実務経験の無いヴィニーであり、よりによってヴィニーは不良風のファッションで婚約者を同伴で、法廷に訪れる。

そこで巻き起こるのが、どこからどう見ても弁護士には見えない振る舞いのヴィニーが
実務経験が無いせいもあって、まるで法廷の勝手が分からず依頼人の弁護をしっかりと行うことができず、
挙句、裁判官からも素性を疑われてしまい、ヴィニーの粗暴な発言から法廷侮辱罪で何度も逮捕されてしまう。

そんなヴィニーがなんとかして弁護士っぽくなっていこうとする努力する姿が面白いのですが、
ヴィニーを演じるジョー・ペシは普段バイプレイヤーとして活躍しているだけに、このような映画の主役とは珍しい。
そんなジョー・ペシが孤軍奮闘する映画かと思いきや、婚約者のリサ役であるマリサ・トメイが更に上手の活躍。
なかなかこういうコンビってないような気がするのですが、主演2人の魅力が本作を見事に支えていますね。

このマリサ・トメイ演じるリサですが、実は車の構造やタイヤの仕組みなどに異様に詳しくって、
専門家顔負けの知識を持っているあたりが痛快で、それをまくし立てるように喋る彼女の姿が面白かったですね。

まぁ、考えてみれば、たいした証拠もなく逮捕されてしまったところから始まるし、
チンピラ風のファッションで登場してくるヴィニーはどこか胡散クサく、法廷経験がないにも関わらず、
自信満々に弁護を引き受けてどうするつもりだったのかを考えると、映画自体が胡散クサいと言えば否定できない。

ただ、あくまでコメディ映画としてそこは許容してあげて欲しいのですが、
何をやっても不利な状況になりそうな裁判の流れを、途中から目覚めたかのようにヴィニーが必死に考え始めて、
証人の状況を一人一人調べ上げて、法廷でその信ぴょう性を明らかにしようとして、次第に弁護士っぽくなっていく。
この辺をジョナサン・リンも巧みにデザインしていっているような感じで、ヴィニーとリサを魅力的に描いていきます。

欲を言えば、あと15〜20分くらいはタイトにして欲しい作品ではありましたけど、
とは言え、無駄なシーンがあったり冗長に感じられる映画というわけではないので、許容されるレヴェルですね。

監督のジョナサン・リンは00年の『隣のヒットマン』が最大のヒット作となったような気がしますけど、
90年代は本作をはじめとして、何本もコメディ映画を監督していてコンスタントに活躍していた時期なんですね。
エディ・マーフィ、スティーブ・マーティン、ジム・キャリーと次々とコメディ俳優と組んでいたのでコメディを撮ることには
ハリウッドでも定評があったのだろうし、何より本作を上手くまとめたことで一気に評価を上げたような気がします。

本作にしても脇役中心だったジョー・ペシに、ブレイクする前だったマリサ・トメイというキャストでしたから、
正直、作り手としても未知数だったと思うのですが、主演2人を見事に魅力的に描き、彼らもその演出に応えている。
それに加えて、テンポの良い演出とフレッド・グウィン演じるいかつい裁判官や、やり手の弁護士のレイン・スミスなど、
脇役キャラクターを大切にするスタンスが上手く機能している。それでいて、奇をてらった部分がないのも好感が持てる。

まぁ、ジョー・ペシとマリサ・トメイの主演2人が結果的に良過ぎたせいか、殺人犯と間違えられた若者を演じた、
ラルフ・マッチオとミッチェル・ホイットフィールドはあまり目立たなくなってしまって、チョット可哀想ではありましたがね。

劇中、アラバマ州の名物料理のような扱いでコーングリッツをバターで煮詰めたものが
モーニングの卵料理の付け合わせとして登場しますが、これがなんともビミョーな食べ物に見えていて、
ヴィニーも「なんだこれ!?」と驚きます。もっとも、ヴィニーがコーングリッツ料理であることは知っているのだろうが、
要するにバターで煮詰めるというのは、ヴィニーの暮らすニューヨークでは無い食文化なのかもしれませんね。

アメリカは広いからこそ、同じ国の中でもカルチャー・ギャップのようなものがあるのかもしれないが、
ニューヨークとアラバマの感覚の違いを笑うというのは、賛否があるかもしれませんが...嫌味なギャグではない。
(正直、この映画で描かれた朝食の豪快な作り方を見ていると、誰しもが「えっ!?」と思っちゃうかも・・・)

このアラバマの感覚を笑うという意味では、殺人犯と間違えられた若者の裁判も勝手に不利な方向に
進んでいくというのもギャグではあるのですが、町の保安官は決め付けて捜査や尋問を進めているし、
まともに見えているのかも怪しい目撃者の証言を鵜呑みにするという、現代捜査としてはあり得ないほどの杜撰さ。
それがまかり通っていることを笑いに変えているわけですが、現実にこんなことされたらたまったもんじゃない(笑)。

肝心かなめの法廷劇に関しては、さすがにコメディ映画なので緊張感ある駆け引きというわけではないが、
常にヴィニーに目を光らせ、公平な立場なのかが怪しく見える裁判官のもとで行われる裁判ですから、
ヴィニーにとっては圧倒的不利な状況であり、そこに絡んでくる気味の悪い国選弁護人なども妙に印象的だ。
そこに、ヴィニーの“飛び道具”としてリサを証人に立てるという発想が面白く、ラストの展開は痛快そのものである。

この流れを作れたこと自体、監督のジョナサン・リンは良い仕事をしたなぁと思うんだけれども、
映画が悪い意味で騒がしくないのも良いですね。適度にドタバタしている感じで、その塩梅が実に丁度良い。

どことなくヴィニーとリサのカップルは、日本でいうところの林家ペー・パー夫妻っぽいのが印象的だ(笑)。
リサは常にカメラを片手に、なんでも記念写真を撮るように写真を撮る。それをいちいちウザがるヴィニーですが、
結果としてそんなリサが撮った写真が有力証拠になるというのも、映画としては悪くない“仕掛け”だったと思います。

確かにそれまでのハリウッドの潮流とは、チョット違ったとは思うけど...
個人的には本作のようなライトなコメディ映画のヒロインが、アカデミー助演女優賞を獲ったという事実が嬉しい。
得てして、このタイプの映画は軽視されがちな風潮があるのですが、本作のマリサ・トメイはしっかりと認められました。
スゴいオシャレにキメているというのとも違うけど、これだけインパクトある芝居を見せてくれれば、評価されて然るべき。

そんなリサやアラバマの独自なルールにイライラしながらも、ヴィニーは次第に弁護士っぽくなっていきます。
ある意味ではサクセス・ストーリーではありますが、べつに観客を感動させようとするわけでもなく、あくまでコメディ。
それでも法廷でのラストからは相応の爽快感を感じられるし、起承転結が明快な展開で実に良いと思います。

欲を言えば、ヴィニーがお世話になったというニューヨークの判事の存在はしっかりと描いて欲しかったなぁ。
映画の終盤に近付くと、実は結構なキー・マンになるということが分かるので、実際にキャストを立てた方が良かった。
しかも、ヴィニーの偽名をコロコロと変えて裁判長に伝えることで時間稼ぎするとか、半ば無理矢理なギャグを繰り返す。
それならば、いっそのことヴィニーの恩師の存在をしっかりと描いて、ハッキリと機能するように見せた方が良いかなぁ。

それにしても、最初にヴィニーが刑務所に面会しに来るシーンで、
依頼したヴィニーの従兄弟が寝ていたおかげで、やって来たヴィニーの正体が分からない従兄弟の友達が
ヴィニーのことを収監された囚人だと誤解して、慌てふためく会話は面白かった。ヴィニーも核心を言うことなく、
それとなく“匂わせる”ような発言ばかりなものだから、余計に相手が不安になる。これは日本語訳も傑作です。

とまぁ・・・一つ一つのギャグは悪くないし、日本ではやや忘れられたようなコメディ映画なので、
是非とも再評価を促した一本でもあります。これが無かったら、マリサ・トメイは完全に“埋もれた女優”だったかも。

そして、ヴィニー役のジョー・ペシも映画の主役を演じる実力と魅力ある役者であることを再認識させられます。
この頃は『ホーム・アローン』シリーズや『リーサル・ウェポン』シリーズでも、コミカルな役を楽しそうに演じていましたね。

(上映時間119分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ジョナサン・リン
製作 デイル・ローナー
   ポール・シフ
脚本 デイル・ローナー
撮影 ピーター・デミング
音楽 ランディ・エデルマン
出演 ジョー・ペシ
   ラルフ・マッチオ
   マリサ・トメイ
   ミッチェル・ホイットフィールド
   フレッド・グウィン
   レイン・スミス
   ブルース・マッギル
   ジェームズ・レブホーン

1992年度アカデミー助演女優賞(マリサ・トメイ) 受賞