いとこのビニー(1992年アメリカ)

My Cousin Vinny

アメリカ南部アラバマの田舎町でコンビニ店主殺人強盗犯を間違われ、
あやうく死刑に処されるピンチに陥ったニューヨークの大学生ビルとスタン。
そんな窮地に彼らを救いに来たのは、ビルの従兄弟で弁護士資格を有するビニー。

しかし、ビニーはロースクールを6年前に卒業し、6週間前にようやっと弁護士試験に合格した、
しかも法廷経験ゼロの弁護士で、法廷に婚約者のリサを同伴し、判事から目を付けられる・・・。

これは思いのほか、“拾い物”と言える作品で快調に飛ばして進んでいく。
派手に笑わしてくれるギャグなんかはありませんが、ひじょうに上手く出来ており感心しましたね。

どこからどう見たって、弁護士よりもギャングにしか見えないビニーに、
やたらとケバい服装と化粧で、一見、おバ●っぽいけど、自動車に関するメカニックな知識はやたらと有り、
アラバマの独特な司法制度はサラッとブ厚い本を読んですぐに理解してしまう天才肌のリサ。
この2人のコンビが抜群に面白く、特にリサを演じたマリサ・トメイのコメディエンヌっぷりが最高ですね。
本作での好演が認められて彼女はオスカーを受賞しましたけど、その価値ある素晴らしい存在感です。

ヘマを繰り返しながらも、次第に法廷の掟を理解していき、
裁判の行方を有利な展開に持っていくビニーの姿が、映画の後半にはたくましく見えてきます。
そこで映画最大の見所は、何と言ってもビニーに無理矢理、写真を見せられて検察側の供述の矛盾点を
リサがスラスラと指摘していくシーンなのですが、ここでも“したり顔”のビニーが印象的だ。

特に嫌々、証言台に立たせられたリサが写真を見せられて、
次第にビニーの意図を汲んで、得意顔になっていく様相の変化が抜群に気持ちいいですね。

ビニーを演じるジョー・ペシも絶妙な胡散臭さを感じさせる芝居で、
『グッドフェローズ』での強烈なギャングの芝居を逆手にとったようなコメディ演技が見事にキマっています。

監督は00年に『隣のヒットマン』を発表したジョナサン・リン。
どうやらコメディ映画を専門に創作活動を展開しているようですが、本作はひじょうにバランスが良い。
80年代は本作のようなオフビート感覚なコメディ映画が数多く発表されていましたけど、
一切の無駄を省き、実にスマートかつスリムな映画に仕上げており、これは高く評価されるべき仕事っぷり。
そういう意味でも本作はかなり質の高いパフォーマンスが見られた作品と言っていいと思います。

マヌケなことに全く関係のない殺人事件の犯人にズルズルと仕立てられてしまうビルには、
『ベスト・キッド』などでブレイクしたラルフ・マッチオが配役されているのですが、なんだか懐かしいですね(笑)。
本作以降は完全に低迷してしまい、ショービズの世界で仕事しているのかどうかも怪しいですから、
これが現時点でスクリーンでの彼の最後の雄姿と思うと、何だか切ないですね。

何だかコントのようなシーンではありましたが、
頼りない無策なビニーを見て心配になったスタンが雇った公選弁護人が参考人に尋問するシーンで、
それまで自信たっぷりに振る舞っていた公選弁護人が、突如として上手く喋れなくなって、
裁判員にツバを飛ばしまくって、全く目的を達成できないシーンが本作唯一のギャグ的シーンかな。

それ以外は露骨に観客の笑いをとりにくるのではなく、ニヤリとさせられる程度です。

しかしながら、映画がしっかりと作り込まれているが故に、
実に安定感あるストーリーの運びで、最初から最後まで持続性ある魅力を放ち続けている。
強烈に列車の走行音がうるさい部屋に睡眠を邪魔され、苛立ったビニーがホテルの支配人に
「たまにしか朝5時に列車が来ないって言ったよな?」と問い詰めるものの、
アッサリと支配人が「言ったよ。だって定刻は4時だもん」と返すシーンもまた絶妙。

まぁ今で言う、脱力系のコメディ映画というわけなんですよね。
こういった調子の映画というのは、観客の期待を微妙に外そうとしますから、難しいもんですよね。

また頑なにビニーを否定しようと厳しい態度で接する判事のキャラクターや、
過剰なまでにオーヴァーアクションで裁判員に訴えかける検察官の弁証シーンなど、
サブキャラクターも大事に描こうとする作り手のケアが見事に行き届いているのも好感が持てる。

最近は本作のようなスモールタウンを舞台にしたコメディ映画がめっきり少なくなり、
ユル〜い感覚で楽しめる映画が観られなくなりましたから、本作の価値って凄く高いと思うんですよね。
これだけの仕事をできるわけですから、ジョナサン・リンの手腕も侮れないものです(笑)。

まぁ悪く言えば、「ご都合主義」の映画ではありますが、
愛すべきキャラクターを活かし切れているためか、許容される範囲内での「ご都合主義」だと思う。
その辺の“出し入れ”がひじょうに上手く、作り手たちの要領の良さが光る結果となっていますね。
やっぱり日本にも、こういう仕事がアッサリとこなせてしまうディレクターが欲しいものです。

マリサ・トメイがブレイクするキッカケとなった作品として評価に値するのですが、
それだけでなく、その中身の充実っぷりも素晴らしいですね。

それにしても・・・どうして彼女は日本でほとんど知名度が上がらなかったのだろうか?
こんなに心から残念と思えることは、僕ん中では数少ないことなんですがねぇ〜。。。

(上映時間119分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ジョナサン・リン
製作 デイル・ローナー
    ポール・シフ
脚本 デイル・ローナー
撮影 ピーター・デミング
音楽 ランディ・エデルマン
    ラルフ・マッチオ
    マリサ・トメイ
    ミッチェル・ホイットフィールド
    フレッド・グウィン
    レイン・スミス
    ブルース・マッギル
    ジェームズ・レブホーン

1992年度アカデミー助演女優賞(マリサ・トメイ) 受賞