マイ・ブルーベリー・ナイツ(2007年香港・中国・フランス合作)

My Blueberry Nights

かなりリフレインがしつこい映画だから、
おそらく好みが激しく分かれる映画だろうと思うのですが、
映画の雰囲気だけから言えば、僕はまんざら悪い映画ではないと思っています。

ウォン・カーウァイって、日本では一時期、根強い人気があった映像作家なのですが、
さすがに本作の頃はもうその人気に陰りが出ていたためか、本作はそこまでヒットしませんでした。

この映画はノーマルな恋愛映画ではありませんので、
白黒ハッキリつけるタイプの恋愛映画が好きな人にはオススメできない作品です。
もう様々な紆余曲折を経て、ようやくスタートラインにつくまでのお話しにしかすぎず、
オマケに並大抵の紆余曲折ではなく、ほとんど主人公の男女が絡み合うことはありません。

人気歌手、ノラ・ジョーンズが出演したことで話題とはなりましたが、
最初にことわっておくと、歌手が映画出演したことによる、不思議なマジックは起こっていません。
まぁ表現は悪いかもしれませんが、「こんなもんかな」って程度の存在感で、お世辞にも上手くはありません。

とは言え、劇場公開当時、少しだけ話題となった、
本作のポスターに表れる、ラストのキスシーンはなかなかの名シーンと言ってよく、
このラストシーン一つで、映画は光り輝くものになったと言っても過言ではありません。
(ひょっとしたら、ウォン・カーウァイはこのシーンを撮るために、映画化したのかもしれません)

チョット、全体的にスローモーションがしつこいような気がするのですけど、
“未練”を感じさせる、ほど良いケレン味が映画全体を支配しており、雰囲気作りは上手いと思いますね。

オープニングのまるで山をイメージさせるかのような、
クリームやソースをかけたデザートの造詣も抜群に素晴らしく、映像デザインとしても悪くないと思います。
この辺はウォン・カーウァイの映像センスの良さが、実に活き活きとフィルムに乗り移っていますね。

この映画のカップルは、決して音信不通になるわけでもなく、
ノラ・ジョーンズ演じるエリザベスから積極的に手紙を送っているのですが、
こんなに奥ゆかしい(?)恋愛を描いた映画ってのは、最近じゃホントに珍しいですね。
それでも2人の恋愛を成立させるだけの説得力を持って、映画を描けているのだから良く出来ていると思う。

どうも一般ウケしなかったのは、この辺の映画の方向性の問題だったみたいで、
ノラ・ジョーンズとジュード・ロウの2人がラブラブになる恋愛映画というわけではなく、
ひじょうにゆっくりとしたスピードで徐々に接近していくスタンスをとることに戸惑いがあったんでしょうね。

僕はむしろ、こういう方向性を選択したことは正解だったと思いますね。
あくまで結果論ではありますが、ウォン・カーウァイが撮る映画の空気に合っていると思います。

但し、決して完璧な映画というわけではないので...
個人的にはデビッド・ストラザーンとレイチェル・ワイズの2人が演じる、
アル中の元夫婦の争いは、ヒロインが放浪の旅に出るという意味で必要ではあったのですが、
もっと割愛して、エピソード自体をスマートにした方が良かったと思いますね。

確かに映画の雰囲気をブチ壊すものでは、断じてないのですが、
この2人のエピソードのウェイトが重たくなってしまっていて、せっかく好演したナタリー・ポートマン演じる、
カジノに通う女性ギャンブラーとのエピソードが押し負けてしまうし、アンバランスさがあるように思う。

もっとも、映画の半分は放浪が占める映画なわけですから、
ここまで強いエピソードがあると、どうしてもメインテーマをも相殺してしまう気がするんですよね。

もう少しエピソードの配分が適正だったら、映画も引き締まっただろうし、
映画の中盤でやや緩慢な部分があるのですが、それも解消されたでしょうね。
但し、これは難しい決断であって、引き締まった映画になってしまったら、
この映画の良さが失われているかもしれないと思えるだけに、“どっちをとるか”難しい選択なのかもしれません。

まぁというわけで、通常の恋愛映画を期待しないで観たら、いいと思います。
さすがにウォン・カーウァイの監督作品なので、かなり独特なニュアンスを持った作品ですし、
微妙な心の揺れ動き、或いは自己を見つめ直すというテーマが好きな人に、むしろ向いている内容です。

映画に何を求めるかの違いも大きいかとは思いますが...
まぁこの映画の場合は、前述したラストのキスシーンが素晴らしかったからこそ、
映画は魅力的になったであろうし、このシーンがあったからこそ、恋愛映画として成立したのでしょう。

独特な映像表現なのですが、これはクリストファー・ドイルの幻影を感じますね(笑)。

前述のように、デザインされた視覚的なイメージは良かったとは思いますが、
この辺はクリストファー・ドイルの色を排した映像表現にすべきだったように思いますね。
どうしても、ウォン・カーウァイ監督作となると、クリストファー・ドイルの印象が強くって、
本作のような映像処理をしているのを観ると、クリストファー・ドイルを思い起こさせられてしまいます。

ところでこの映画、個性的な音楽を使ってるなぁと感じていたら、
なんとライ・クーダーに担当を依頼したみたいで、このサントラは必聴盤なのかもしれません。

(上映時間94分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ウォン・カーウァイ
製作 ジャッキー・パン
    ウォン・カーウァイ
原案 ウォン・カーウァイ
脚本 ローレンス・ブロック
    ウォン・カーウァイ
撮影 ダリウス・コンジ
編集 ウィリアム・チャン
音楽 ライ・クーダー
出演 ノラ・ジョーンズ
    ジュード・ロウ
    デビッド・ストラザーン
    レイチェル・ワイズ
    ナタリー・ポートマン