ラブソングができるまで(2007年アメリカ)

Music And Lyrics

ハリウッドきっての軽薄なイケメン俳優ヒュー・グラントと(笑)、
90年代後半からラブコメ女優としての魅力を開花させたドリュー・バリモア共演のラブコメで、
僕個人としても、劇場公開時から期待を寄せていたのですが、映画の出来としては平均点レヴェルかな。

監督は『デンジャラス・ビューティー』などのマーク・ローレンスで、
これまではサンドラ・ブロックと一緒に映画を撮っていたのだけれども、
02年の『トゥー・ウィークス・ノーティス』でヒュー・グラントのキャラの面白さに目を付けたのでしょう。
『トゥー・ウィークス・ノーティス』以来は、すっかり彼との創作活動に勤しむようになり、
本作の後にも、09年に『噂のモーガン夫妻』を撮っていましたが、どうも伸び悩んでるかなぁ。

まぁ本作も、ある意味ではラブコメの定石を踏んでいる映画ではあるのですが、
どうも映画が盛り上がり切らなかったというか、素材の良さを活かし切れなかった印象がありますね。
特にこの映画に限って言えば、ドリュー・バリモアのキュートさ、コメディエンヌとして魅力を活かし切れていない。

それでも、それなりに楽しませてくれるあたりは立派な映画で、
ビジネスライクな言い方をすれば、観客に最低限の楽しみを与えるノウハウは持っている映画だと思う。

それはそれで凄いことで、これはマーク・ローレンスがヒットメーカーとして、
ハリウッドで活躍する理由だと思いますね。これができる人は、そう多くはありません。

この映画の面白さのツボは、何と言っても、映画の冒頭に出てくるPV[プロモーション・ビデオ]だろう。
ヒュー・グラント演じる主人公アレックスは80年代のMTV全盛期に大活躍した、産業ロックを地で行ったような
ミュージシャンで、当然のように90年代以降、トップシーンで生き残れるわけがなく、“過去の人”の扱い。
思い切って出演したテレビ局の懐かしミュージシャンの企画で、少しだけ人気が再燃したおかげで、
“興行”と呼ばれる小さなイベントに出演することで、かつてのファンを喜ばせますが、イマイチ冴えない日々。

そんな彼が一世を風靡したバンドPOP≠ノ在籍していた頃の
PV[プロモーション・ビデオ]が秀逸そのもので、ホントにあったかのような雰囲気で実に良く出来ている(笑)。
これはホントに80年代当時に、キチッと所属レーベルが仕事できていれば、売れていたかもしれません(笑)。

これはどうやらデュラン・デュラン≠イメージしていたそうなのですが、
ヒュー・グラント自身も楽しんでいるようで、音作り、色使い、その全てが絶妙なほどにチープ(笑)。
このイメージを見事に具現化できたということに、この映画の価値はあると言っても過言ではないと思いますね。

ハッキリ言って、映画の本編とはほとんど関係ないのですが、
このイメージがあまりに強烈で、この映画の面白さのツボとして、その根底を支えているというのが凄い(笑)。

個人的にはヒュー・グラントがもっとハジけてくれれば、
もっと面白い映画になっていたと思うのですが、おそらくブラックなユーモアは内容に沿わないと判断したのでしょう。
さすがにヒュー・グラント演じるアレックスがかつてのポップスターであった頃の栄光を忘れられず、
つい年老いた今になっても、腰振りダンスをやっちゃうもんだから、激しい腰痛持ちなわけですが、
この設定だけで彼のギャグを引っ張り続けるというのは、さすがにコメディ映画としてツラいですね〜。

マーク・ローレンスは本作でヒュー・グラントに自由に芝居させることではなく、彼の魅力を活かしながらも、
それらが嫌味にならない程度にマイルドに演出し、比較的、万人ウケする内容に照準を合わせていますね。
まぁこの作り手の狙いというのは、おそらくヒュー・グラントのファンの間にも、賛否が分かれるところだと思う。

さり気なく、主人公アレックスがコーラのコンサートで歌うシーンにしても、
ピアノ弾き語りでしっとりと歌い上げるのですが、これがPOP≠フPVとは全く違う側面なのですが、
これはこれで凄く良かったですね。この映画の強みって、こういうところで一切、手を抜かなかったことですね。
おそらく、こういうさり気ないシーンをしっかりと作り込めたおかげで、万人ウケする要素を作れたわけですね。

ドリュー・ハリモア演じるソフィーに関しての描写は、あんまり上手くなかったのが勿体ないかな。
正直言って、彼女は“チョット頑張って、失敗してしまうキャラ”ぐらいが丁度良いのに、
この映画は何でも上手くまとめようとするソフィーを描こうとしたがために、彼女の魅力が活きなかったですね。

すっかり年老いたキャンベル・スコット演じる作家とのレストランでのエピソードにも象徴されているのですが、
ナンダカンダ言って、まだその想いを断ち切れない好きな人の前では、すっかりダメなキャラというのは
理解できなくはないのですが、それでもそこで頑張り切れないキャラでは、彼女は活きないですね。
この映画の作り手は、今一度、『ウェディング・シンガー』を観て、彼女の本来的な魅力を見直すべきですね。

正直言って、この映画のマイナス要素のほとんどは、
ヒロインであるドリュー・バリモアを活かし切れなかったと部分と言っても過言ではないと思います。

上映時間も丁度良くって、オリジナル劇場予告編でも面白そうだったんですけどね。
内容的には作り手がよく頑張っているのは分かるし、断じて駄作の類いではないと思います。
マーク・ローレンスは実績もあるディレクターですし、期待させる企画ではあったと思うのですが、
やはりドリュー・バリモアを魅力的に描き切れなかったことが、とても残念なんですよね。

この手の映画の魅力って、主人公カップルの魅力がその大半を占めていますからねぇ。
やはりヒュー・グラントとドリュー・バリモアという素材に依存せずに、しっかりと彼らを磨かなければなりませんね。

せっかく映画が面白くなるファクターはたくさんあったのに、
作り手が素材の良さに依存してしまい、結果として及第点レヴェルに留まってしまったという印象ですね。
段々、最近のヒュー・グラント主演の映画って、こういう傾向が見え隠れしていることが気になりますねぇ。

やっぱり、こういうのを観ちゃうと、ハリウッドも世代交代が進んでないんですね〜。
ヒュー・グラントのような個性的なキャラクターを活かした、男性俳優は少ないですから、
ロマンティック・コメディのような軽いジャンルの映画でも、嫌味なく演じられる俳優が出てきて欲しいですねぇ。

チョット勿体ない部分はあるのですが、あまり過度な期待をかけなければ、そこそこ楽しめる一本かと思います。

(上映時間104分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 マーク・ローレンス
製作 マーティン・シェイファー
    リズ・グロッツァー
脚本 マーク・ローレンス
撮影 ハビエル・ペレス・グロベット
編集 スーザン・E・モース
音楽 アダム・シュレシンジャー
出演 ヒュー・グラント
    ドリュー・バリモア
    ブラッド・ギャレット
    クリステン・ジョンストン
    キャンベル・スコット
    ヘイリー・ベネット