青春の殺人者(1976年日本)

これは何度も観たいとは思わない映画だが(笑)...
こりゃ映画の冒頭45分にわたる、壮絶なドラマがあまりに強烈で、絶句してしまう映画だ。

後に『太陽を盗んだ男』を撮る長谷川 和彦の監督デビュー作にあたるのですが、
1974年に実際に発生した“市原両親殺害事件”をモデルに大胆に映画化した作品で、
やはり日本映画界で長谷川 和彦が如何に突出した存在かが、よく分かるデビュー作だ。

ハッキリ言って、この映画はホラー映画だ。
ある意味、冒頭45分の両親殺害シーンのやり取り、かなり常軌を逸した空気が漂い、
僕も観るたびにビビらされるぐらいの、戦慄の時間が流れると言っても過言ではありません。

市原 悦子が凄まじいまでの情念を全面に出した芝居をしており、
この時間は言ってしまえば、演劇的なかなり極端な芝居を披露しているのですが、
これは作劇的にむしろ成功だったと解釈しても良いと思いますね。こうでなければ、この緊張感は出ないだろう。

観る前にはかなり覚悟を決めなければならない作品だとは思いますが、
僕の中では、この映画も日本映画界の中では、とても重要な存在であり、欠かしてはならないと思う。

まぁ映画は成功者ではなく、間違いなくアウトローの生きざまを描いており、
長谷川の後のインタビューで『エデンの東』のような映画を撮ろうと思ったとのコメントが頷けます。

映画ではかなりアレンジされておりますが、
実際に起きた“市原両親殺害事件”は、裕福な自営業の両親を持ち、
自身も一流大学に通っていた若者が、風俗嬢との結婚を両親に猛反対されたことから逆上し、
ナイフで両親を刺殺し、金を奪って、風俗嬢と共に逃げ回っていたという事件らしく、
映画はここから想を得て、かなり大胆にアレンジメントを加えております。

特に事件をフラッシュ・バックさせるシーン演出や編集などは、かなり前衛的な感じで、
当時の日本映画界の情勢を考えれば、かなり本作の革新性が表れていると思います。

主人公の恋人を演じた原田 美枝子も撮影当時、17歳という年齢を考えれば、
今では考えられない過激な役どころではあるのですが、やっぱりこの映画は冒頭45分かな。
彼女もよく頑張っているけど、もう少し映画をリードできる力強さが欲しかったですね。
そういう意味で、映画の前半45分で、市原 悦子があまりに強烈な存在感を出してしまったのが利きましたね。

よくこの手の猟奇的な殺人事件で話題となる死体の処理に関する描写が実に生々しい。
ここで屈折した母と子の葛藤があるのですが、逃走から一家心中へと向いていくやり取りがあまりに強烈だ。

全然、言うことを聞かない息子であれど、母にとっては大切な息子。
しかし、目の前の息子が犯した犯罪を目の当たりにして、「15年間は大人しくしよう」と言う。
15年経てば、殺人罪の時効が成立するという考えで、そこで大人しい嫁をもらえと言い出します。
それまでは自分が嫁の代わりを果たすから我慢しなさいと、メチャクチャなことを言い出します。

何故、母はここまで屈折した提案をしたのかというと、
その根底にあるのは子供を支配したいという感情があるからなのかもしれません。
それともう一点、何より当時、息子が付き合っていた彼女が気に入らなかったというのが大きいのでしょう。

まるで、息子の彼女を気取るかのように、息子に拒絶された母の反応が恐ろしい。
文字通り、息子に“返り討ち”するかのように、大きなシーツで襲い掛かるなど、あまりに壮絶な展開だ。

この映画の性に対する執着は半端ではありません。
何が凄いって、冒頭の息子と母の葛藤のシーンにしても、近親相姦をセオリーの一つにしているし、
映画の後半で登場する主人公の妄想に於いても、主人公の父親が砂浜で、主人公の恋人に抱きついて、
最初は嫌がりながらも、最後に白い液体を口から流しながら、受け入れているようなシーンは刺激的だ。
(っていうか...よくこんな芝居、17歳の女の子にやらせたなぁ〜)

但し、完璧な映画とは敢えて言わない。
確かに鮮烈な印象を残す映画で、とても革新的なためか、とても価値が高いとは思うけれども、
どこか情緒不安定な映画の雰囲気を抑制するかのように、ゴダイゴ≠フ音楽が全てをブチ壊す。

別にゴダイゴ≠ェ嫌いなわけではないけれども、これは無意味に音楽を使い過ぎなのです。
まるで、そこに配慮がなくって、一体、長谷川 和彦が何を狙って、音楽を流すのかまるで分かりません。
そしてそれまでの映画の雰囲気をブチ壊すためか、まるで音楽が映画に合っていないのも気になりますね。

それと、大きな問題はアフレコですね。
映画を観れば、すぐに気づくとは思いますが、映画の全編がアフレコで口と声が全く合わない。
おそらくこれは故意にやったのだろうけど、いくらなんでももっと上手く編集して欲しい。
無秩序に登場人物の感情を吐露させたかったのだろうが、ここまでくればナレーションの連続みたいなもんだ。
そうであれば、ナレーションとして扱って欲しいし、ただのドキュメンタリー・フィルムになってしまう。

とまぁ・・・決して完璧な傑作とまでは言えないし、
日本映画界のカリスマ、長谷川 和彦が映像作家として成長する過程の一本という位置づけになります。

しかしながら、賛否はあれど...
映画の冒頭45分はあまりに生々しく強烈で、今の日本映画には無い凄まじい高みがあります。
全然、理屈では語れない映画ですが...覚悟を決めてでも、僕は一度、観る価値があると思います。

(上映時間120分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 長谷川 和彦
製作 今村 昌平
    大塚 和
企画 多賀 祥介
原作 中上 健次
脚本 田村 孟
撮影 鈴木 達夫
美術 木村 威夫
編集 山地 早智子
音楽 ゴダイゴ
出演 水谷 豊
    原田 美枝子
    内田 良平
    市原 悦子
    白川 和子
    江藤 潤
    桃井 かおり
    地井 武夫