Mr.ディーズ(2002年アメリカ)

Mr.Deeds

36年の名作『オペラハット』を21世紀のニューヨークに置き換えて、
内容も現代に焼き直して、尚且つ、ブラックなギャグを交えて描いたロマンチック・コメディ。

当時、ハリウッドでも随一の勢いがあったコメディ俳優、
アダム・サンドラーはマネーメイキング・スターでしたが、その勢いそのままに本作も
全米大ヒットとなったことを記憶しており、こういう映画がヒットするということに時代を感じるなぁ(笑)。

監督のスティーブン・ブリルは00年の『リトル★ニッキー』でも、
アダム・サンドラーとコンビを組んでおり、すっかりアダム・サンドラーの持ち味を理解しており、
上手く彼のコメディ俳優としての魅力を活かせていますね。企画そのものの成功と言ってもいいと思います。

しかし、正直言って、映画の出来はそんなに良くないですね。

映画がヒットしたという結果は、正直言って、映画の魅力というよりも、
アダム・サンドラーのネームバリューのおかげと言っても過言ではないような気がします。
あくまでコメディ映画ですから、その意図はよく分かるのですが、どうも一つ一つの作りが粗い。
シナリオもしっかりと書けているという感じではないし、企画依存型の映画という印象がどうしても残ります。

また、ヒロインにウィノナ・ライダーをキャスティングするあたりも、どことなく微妙。
これが90年代半ばの映画だというなら分かりますが、“旬な時期”を過ぎてしまった感があります。

しかも、映画の“美味しいところ”はほとんど、スペイン出身だというエミリオを演じた、
ジョン・タトゥーロが持っていってしまうというから、なんだか彼女が可哀想でしたね。
挙句の果てには、氷の張った湖に落とされたり、ピザ屋のオバちゃんと格闘させられたり、
コメディ映画の宿命とは言え、彼女にしてはえらく体を張った芝居を要求されています。
(おそらくハリウッド女優として、起死回生の仕事にしたかったのでしょうね・・・)

映画としても、どこか一つ一つのギャグが空回りしている感じで、
これがアダム・サンドラーのペースと言われればそれまでですが、火事場で猫を放り投げて、
一匹一匹をキャッチするという描写で観客を笑わせようとしても、どこか今一つなんですね。

この辺は欧米と日本のギャグセンスの違いはあるでしょうが、
もう少し映画のテンポを活かした展開にして欲しかったですね。流れになっていないのが、とても残念。

但し、映画の途中でニューヨークのクラブで偶然、主人公が元テニス・プレーヤーの
ジョン・マッケンローと出会うというエピソードで、その後、夜の街での行動を共にした2人が、
酒に酔って、散々、悪ふざけをするというシークエンスはなかなか面白くって、この辺の皮肉の上手さ、
そしてアダム・サンドラーの人脈は凄いものがある。マッケンローも、ある意味でピッタリなゲスト出演だろう。

前述しましたが、この映画の“美味しいところ”はほとんどジョン・タトゥーロが持って行ってしまいます。

謎の足フェチのようで、どんな相手でも足を触りたいという願望の持ち主で、
どこかラテンな雰囲気を漂わせる執事エミリオというキャラクターなのですが、
キャラクター的な“美味しさだけ”ではなくって、何もかもが“美味しいところ”を全て持って行くのが妙。

この辺は『オペラハット』には無かった妙味で、アダム・サンドラーも必死に
本作がまともに『オペラハット』と比較されてしまわないようにと、新たなエッセンスを加えようとしている。

もう一つはアダム・サンドラーの虎の巻とも言える部分ではあるのですが、
彼自身が映画の中で演じるキャラタクーというのが、「善人だけど、大人になり切れない大人」というわけで、
老人や故郷の仲間たちには異様に優しく、人々から好かれるキャラクターである一方で、
例えばウィノナ・ライダー演じる一目惚れした女性が、暴漢に襲われ助けを求めていることを知ると、
その暴漢を追いかけまわすだけでなく、いざとっ捕まえたら、覆いかぶさって殴る蹴るの暴行。

この過剰なまでの暴力の理由はよく分からないのですが、
相手がボコボコになるまでやるというのだから、おそらくそんな善人なキャラクターとは正反対に、
キレてしまうと自制することができない子供っぽさという性格を敢えて持たせて、アダム・サンドラー自信は
そういったギャップを敢えて埋めようとしないことによって、そのギャップで観客を笑わせようとしているのだろう。

でも、この辺が欧米人と日本人の感覚の違いはあるかもしれませんね。
おそらくこういう笑いのネタで、日本人の笑いをとることはとても難しいような気がしてなりません。

アダム・サンドラーのかつてのコメントなんかを読むと、
おそらく日本をはじめとするアジア文化に興味はあるようで、多少、ステレオタイプなところはあるだろうが、
彼自身、一人のコメディアンとして、或いは映画俳優としてアジア圏でも知名度を上げたいとは思っているはずだ。
そういった地域で、もし笑いのギャップが埋められないということであれば、この路線の映画はキビしいでしょうね。

どうも、何本かアダム・サンドラーの出演作品を観てきて強く思うのは、
おそらく彼自身、ワールドワイドな活躍をしたいと考えているのでしょうが、
現状としては、あくまで彼のペース、彼の世界観だけで映画を作り続けているような感じで、
おそらくこのままやっていっても、アダム・サンドラーの知名度は日本では上がっていかないような気がします。

ウィノナ・ライダーも01年のブティックでの事件がスキャンダルとして報道され、
ハリウッドでも居場所が無くなっていた時期の出演作品なだけに、本作のヒットは良かったのですが、
決して彼女のキャリアに於いて、本作の存在が追い風にはならなかったのも痛手だったでしょうね。

あまり『オペラハット』とは単純比較しない方が良いですね。
まったく新しく作られたストーリーとして考えた方が、本作を純粋に楽しめるような気がします。

お手軽な映画ではありますが、コメディ映画としては今一つな出来。
まぁアダム・サンドラーの知名度に乗っかった企画という感じがしますが、
日本ではそうはならないせいか、どうしても優位な点が見当たらないのがツラいところです。

まぁアダム・サンドラーが好きな人には、勿論、オススメな作品ではありますが。。。

(上映時間96分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 スティーブン・ブリル
製作 ジャック・ジャラプト
    シドニー・ギャニス
原作 クラレンス・バディントン・ケランド
脚本 ティム・ハーリヒー
撮影 ピーター・ライオンズ・コリスター
音楽 テディ・カステルッチ
出演 アダム・サンドラー
    ウィノナ・ライダー
    ジョン・タトゥーロ
    ピーター・ギャラガー
    アレン・コヴァート
    スティーブ・ブシェミ
    ジャレッド・ハリス
    ロブ・シュナイダー

2002年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演女優賞(ウィノナ・ライダー) ノミネート
2002年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト・リメーク・続編賞 ノミネート