ムーラン・ルージュ(2001年アメリカ)

Moulin Rouge!

表現としては悪いが、ここまで開き直って悪趣味で猥雑な空気を帯びた、
恋愛を主題にしたミュージカル映画って、かつて存在しなかった唯一無二の強烈な作品だと思う。

僕は本作、劇場公開当時に試写会で観た記憶があるのですが、
どんな内容の映画かも知らずに観賞して、この強烈な個性を前に文字通り圧倒された記憶があります。

どこかレトロなタイトル・バックから映画が始まりますが、
ここから始まる映画の冒頭約25分にわたって、ほぼノンストップで攻撃的なミュージカル・シーンで
一気に観客をノックアウトする感じでスゴくって、この“掴み”はバズ・ラーマンの計算通りなのではないでしょうか。

かつてパリのモンマントルに存在したキャバレーが“ムーラン・ルージュ”と呼んだそうですが、
若き劇作家クリスチャンと、キャバレーの花形の踊り子であったサティーンとのロマンスを描いています。
ただ、この映画、僕の中ではストーリーなどほぼそっちのけの映画で、この目まぐるしく展開するミュージアムに
次々と魅せられるだけの2時間という感じで、映画の最初から最後まで一気に駆け抜けてしまう強烈なスタミナ。
監督のバズ・ラーマンを本作にかなり賭けていたことが分かる熱の入りようで、見事に最後まで走り切る。

まるで作り物の世界観で、ニコール・キッドマンもユアン・マクレガーらも
現代的なメイクで、セットもフルCGみたいな感覚なので、こういうのが好きになれない人には向かないでしょう。

しかし、僕はこういうコンセプトであると割り切って観たら、ここまで徹底したこと自体がスゴいと思う。
キャバレーの支配人をジドラー演じたジム・ブロードベントの煽りっぷりも凄まじく、一気に映画の世界に引き込む。
同じバズ・ラーマンの監督作品である『ロミオ+ジュリエット』も同じ切り口の映画ではありますが、
本作の方がその徹底ぶりが凄まじく、映画の強烈なエネルギーが『ロミオ+ジュリエット』と比較にならない。

ジム・ブロードベントもドギツいド派手なメイクを施して、一見すると彼だと分からない風貌。
本作と同じ年に『アイリス』に出演していましたが、あの作品とはまるで異なる個性を発揮しています。

まぁ、キャストの歌や踊りを落ち着いて観たい、聞きたい人には不評でしょうが、
過剰に華やかなヴィジュアル・デザインに、カット割りしまくって、更に強烈にストーリー展開が速い。
この全てベクトルが同じところを向いたような映画になっていて、この統一感が素晴らしいと思います。

おそらく、この映画は映画館で体感しなければ無力半減だろう。
それくらい、この映像・音響は映画館向きに作られたものと言っていい。正しく体感させるタイプの映画なのです。

ニコール・キッドマンもユアン・マクレガーも吹き替えなしで歌っているとのことですから、
彼ら歌はスゴく上手いなぁと実感しますけど、ポピュラー・ミュージックの焼き直しで構成したのは
個人的にはどうかなと思った。バズ・ラーマンの趣味なのかもしれませんが、これは少々安直に感じましたね。
音楽に関しては古典的な楽曲を、現代風アレンジして歌わせた方が映画のコンセプトに合っていたとは思うんだけど。

それを除けば、1900年代のキャバレーの喧騒と混沌を、統一感を持って描けており、
こういった夜の煌びやかな世界で確立したフレンチ・カンカンを、高潔なものではなく、あくまで夜のお楽しみとして
描き通したのは、僕は支持したい。だって、フレンチ・カンカンは本来的にはこういう世界の発祥なのだろうから。

やっぱり、こういう大胆な映画の監督を受け持つには、開き直りが重要だと実感させられる。
おそらくバズ・ラーマンも賛否があることは分かっていることなはずで、そこを敢えてチャレンジしている。

チョットしたドタバタはありますが、コメディ・シーンにはあまり期待しない方がいいです(笑)。
映画の“飾り”として笑いがあるというだけですので、そう派手に笑えるシーンがあるわけでもありません。
まぁ・・・それでも本作への出演は、ニコール・キッドマンにとっては大きな挑戦だったと思うんですよね。

画家ロートレック役としてジョン・レグイザモがキャスティングされていますが、
彼もまた、印象に残る好演だ。なんとかしてクリスチャンに華を持たせようとジドラーに売り込んだり、
サティーンとクリスチャンの恋愛が燃え上がるのをアシストしたり、いろいろと印象に残るキャラクターだ。

実際にロートレックとキャバレーの“ムーラン・ルージュ”との関わりは強く、
当時“ムーラン・ルージュ”のポスター・デザインをロートレックが描いていたほど、常連だったようだ。
これだけでホントは一本の映画になりそうですが、本作のロートレックはあくまで脇役キャラクター。
メイクのおかげもありますが、確かにジョン・レグイザモ、ロートレックと結構似ているかもしれませんね。

ただ、強いて言えば、映画の前半と後半を比較すると、前半の圧倒される感覚に後半が負けてしまう。
それは本作の後半は悲劇的な展開になることが、映画の冒頭で語られ、映画のトーン自体も暗くなっていくために、
ミュージカル映画というよりもオペラの方が、感覚的に近くなっていってしまったことにあるのではないかと思います。

実際、映画の前半にあった攻撃的なミュージカル・シーンの強力な引っ張る力も無くなり、
ただただ悲恋を演出するという方向に注力したためか、ミュージカルの醍醐味を味わいたい人にとっては
どこか見劣りするというか、映画の後半が失速したように感じられてしまう面はあると思います。

この辺はバズ・ラーマンも緩急をつける意味合いもあって、敢えてそう演出したのだと思いますが、
映画の冒頭で悲恋であることを前提に映画をスタートしたからこそ、観客の予想通りに進んでいくテンションと
“ムーラン・ルージュ”そのものを象徴するかのような煌びやかなヴィジュアルが強調されなくなってしまい、
突如として、サティーンとクリスチャンのパーソナルな世界観に、スケールダウンしてしまった印象を受ける。

僕の中では、本作には敢えてスケールを大きく見せ続けることに執着して欲しかったですね。
ホントはとっても限定された空間での物語なはずなのに、映画の前半はとてもスケールが大きな映画に見えた。
それが失われていく映画の後半は、もう少し作り手も映画全体を俯瞰して見ていれば、再考の余地があったかも。

あくまで僕個人の意見ではありますが、僕は映画の最後は敢えて、
華やかで、煌びやかで、そしてどこか猥雑な喧騒の“ムーラン・ルージュ”を映して、映画を終わらせて欲しかった。

悲恋だけで終わってしまえば、他の恋愛映画と比較されるだけですからね。
この映画だから出来たこと、若しくは他作品と大きく差別化できたところ、それはこの世界観なわけですから、
あくまで開き直って撮ったと言っても過言ではない“ムーラン・ルージュ”の夜で、この映画のイメージを決めたかった。

でも、それこそが本作でバズ・ラーマンがやりたかったことなのではないかと思うんですよねぇ。。。

とは言え、僕はこの映画をしっかり楽しめたし、初見時は映画館で観たからこそ受けた衝撃が忘れられない。
この凄まじいまでのエナジー、そしてカオス。これこそが“ムーラン・ルージュ”だったのだと、勝手に思い込める。
確かに史実に忠実ではないのかもしれない。しかし、映画であるからこそ成し得たものを、しっかり示せたと思う。
(別に映画だから何をどう描いても良い・・・という意味ではありませんがね...)

かつて無いタイプのミュージカル映画を志向した結果の作品と言っては、褒め過ぎかもしれませんが、
本作の成功があったからこそ、例えば02年の『シカゴ』や最近では『ラ・ラ・ランド』の成功があったのかもしれません。

冒頭の本作のために作られた20世紀フォックスのロゴから一気に観客を飲み込む、
この凄いエナジーを浴びることのできる2時間強。これは圧倒される迫力ある、ミュージカル映画だ。
僕はこの映画は、ミュージカル映画の革命と言ってもいいと思う。リアリズムなど一切放棄して、撮りたいものを撮る。

ただこの一点に注力した結果が、本作の“やり切った感”を作ったと思うのです。

(上映時間127分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 バズ・ラーマン
製作 フレッド・バロン
   マーティン・ブラウン
   バズ・ラーマン
脚本 バズ・ラーマン
   クレイグ・ピアース
撮影 ドナルド・M・マカルパイン
音楽 クレイグ・アームストロング
   マリウス・デ・ヴリーズ
   スティーブ・ヒッチコック
出演 ニコール・キッドマン
   ユアン・マクレガー
   ジム・ブロードベント
   ジョン・レグイザモ
   リチャード・ロクスバーグ
   ギャリー・マクドナルド
   ジャセック・コーマン
   ケリー・ウォーカー
   カイリー・ミノーグ

2001年度アカデミー作品賞 ノミネート
2001年度アカデミー主演女優賞(ニコール・キッドマン) ノミネート
2001年度アカデミー撮影賞(ドナルド・M・マカルパイン) ノミネート
2001年度アカデミー美術賞 受賞
2001年度アカデミー衣装デザイン賞 受賞
2001年度アカデミーメイクアップ賞 ノミネート
2001年度アカデミー音響賞 ノミネート
2001年度アカデミー編集賞 ノミネート
2001年度イギリス・アカデミー賞助演男優賞(ジム・ブロードベント) 受賞
2001年度イギリス・アカデミー作曲賞(クレイグ・アームストロング、マリウス・デ・ヴリーズ、スティーブ・ヒッチコック) 受賞
2001年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞作品賞 受賞
2001年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞助演男優賞(ジム・ブロードベント) 受賞
2001年度ロサンゼルス映画批評家協会賞助演男優賞(ジム・ブロードベント) 受賞
2001年度ロサンゼルス映画批評家協会賞美術賞 受賞
2001年度ロンドン映画批評家協会賞作品賞 受賞
2001年度ロンドン映画批評家協会賞主演女優賞(ニコール・キッドマン) 受賞
2001年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ミュージカル・コメディ部門> 受賞
2001年度ゴールデン・グローブ賞主演女優賞<ミュージカル・コメディ部門>(ニコール・キッドマン) 受賞
2001年度ゴールデン・グローブ賞音楽賞(クレイグ・アームストロング、マリウス・デ・ヴリーズ、スティーブ・ヒッチコック) 受賞