チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密(2015年アメリカ)

Mortdecai

人気俳優ジョニー・デップ主演のアドベンチャー・コメディ。

さすがはジョニー・デップのネーム・バリューのおかげもあってか、
日本でも劇場公開当時、そこそこヒットしていましたし、話題にもなっていたことを記憶しています。
監督は『ジュラシック・パーク』など数多くのヒット作の脚本を手掛けてきたデビッド・コープで、
彼とジョニー・デップは04年の『シークレット・ウインドウ』でも組んでいて、本作が2回目のコンビだ。

個人的には期待していた作品の一つではあったのですが、
正直言って、そこまで突き抜けた面白さは本作からは感じられなかったのが残念でしたね。

ジョニー・デップの魅力にかなり依存した作品であることは否めず、
どこか胡散臭いマヌけな画商というキャラ設定なのはいいとしても、あまりにストレート過ぎて面白味に欠ける。
主人公の画商チャーリー・モルデカイを取り巻く脇役キャラクターにしてもそうなのですが、
全体的にはどこか胡散臭いキャラクターということで、作り手も狙い過ぎたのかもしれませんね。

結局、ジョニー・デップをはじめとして、全体的に悪い意味でオーヴァー・アクト気味。
敢えてイギリス訛りの台詞の言い回しにチャレンジしたわけで、刑事を演じたユアン・マクレガーと
チャーリーの仲間を演じたポール・ベタニー以外にとっては、かなりの難儀であったであろうとは想像できますが、
この全員がオーヴァー・アクトな芝居合戦に映画の最後まで、どこまで観客が付き合えるかがポイントだろう。

あくまでコメディ映画なんで、誰かが故意にオーヴァー・アクトなのはあっていいと思うんだけど、
本作の場合はほぼ全員が同じ傾向で芝居しているせいか、悪い意味で観ていて疲れる映画になってしまっている。

そのせいか、とっても評論家筋に酷評されてしまったようで、残念な結果に終わってしまいました。
僕もどちらかと言えば、否定的な受け入れ方をしてしまったけれども、そこまで酷評するほどでもないかなぁとも思う。

と言うのも、この映画にはそれなりに手堅い部分があります。
やはりデビッド・コープなりに数多くのヒット作に関わったというノウハウがあるということなのかもしれません。
特に映画のテンポが良く、次から次へと一気に見せてしまう勢いがあって、これは本作の強みですね。
この辺はデビッド・コープの撮りたいものがハッキリとしていないと、ここまで上手くは撮れないと思います。

確かにジョニー・デップ主演というブランド力もあったとは思いますが、
作り手が狙い過ぎなければ、もっともっと映画は魅力的なものになっていたはずですね。
前述した、ポール・ベタニー演じる相棒の存在だって面白く、次から次へとチョットした時間があれば、
どんな女性であっても肉体関係を持ってしまうというメチャクチャな設定にしても、決して悪いものではないと思う。

ただ、本作を観終わって率直に感じたことなのですが...
なんとなく、僕はこの映画の世界観にすんなりとのめり込めなかったのです。たぶん、これが一番大きい。

決してシリアスになることを目的とした映画ではないので、
それは作り手が意図して演出したことだと思うのですが、あまりに中途半端だったのかもしれません。
それは具体的に指すのかというと、どうせならもっと徹底した軽いタッチで、もっと胡散臭い映画にすべきだということ。

イギリスにはコメディ映画の文化は古くからあり、かつては『ピンクの豹』に始まった、
『ピンクパンサー』シリーズなど、人気コメディ映画が数多くあります。まぁ、個人的には『ピンクパンサー』は
映画の出来がお世辞にも良いとは言えないとは思っているんだけれども、あれはあれでピーター・セラーズの
持ち味を生かして、最初から最後までくっだらないベタベタなギャグで埋め尽くすということで徹底してました。
その芯のある徹底した強さというのが、ホントは本作の作り手には必要だったのかもしれませんね。

それと、それは絶対的なセオリーだと思うのですが、
コメディ映画であることが大前提である以上、もっとスットボけたように真面目に演じないと面白味はでないですよね。

ジョニー・デップの髭にしても、立ち振る舞いにしても、
どこかカメラが「ねぇ...面白いでしょ?」と言われているようで、どうも居心地が良くない(笑)。
それはチャーリーの妻ジョアンナを演じたグウィネス・パルトロウにしても同様。少しあざとさはあると思う。

そういう意味では、せっかく映画が成功する土台は揃っていたと思うんですがねぇ・・・。
何を撮りたいかというビジョンは明確にあったのでしょうが、どうも中身が伴いませんでした。これは実に勿体ない。
デビッド・コープにしても、脚本家としての経験は豊富でしたが、監督としてはまだまだということなのでしょうねぇ。

チョット驚いたのは、久しぶりに映画でジェフ・ゴールドブラムを観たことですね(苦笑)。
90年代後半までは積極的に映画に出演していたのですが、21世紀に入ってからほぼ見かけませんでした。
本作ではチャーリーの顧客の富豪として、ほぼチョイ役扱いでしたが、まだ元気そうで安心しましたね。
どうやら、TVの仕事を中心的にこなしていたようで、特に規模の大きな映画の仕事は久しぶりだったようですね。
個人的にはもっと映画のクライマックスの攻防などにも絡んでくるような、存在にして欲しかったですねぇ〜。

結果的に酷評されてしまいましたが、十分に成功させることはできた企画だと思う。
おそらく原作を強く意識したのでしょうけど、映画的なニュアンスに脚色しなければ上手くいかないし、
あくまでエンターテイメントとして、どういうところを楽しむべき映画か、もっと明確にできていれば変わっていたはず。

デビッド・コープであれば、それが十分にできたであろうと思えるだけに、
その落胆は大きかったので酷評にもつながったと思うのですが、それでもさすがはジョニー・デップの出演作ですね。

それでも、大赤字にならないというのは、やはりジョニー・デップの力と言っていいでしょう。
しかし、それも一体いつまで続くかという感じもあるかな。ここ数年、ヒット作に恵まれていない印象があります。

まぁ・・・ハリウッドも、今は過渡期を迎えているような感もあるので、
彼のようにブランド力を生かして勝負できる時代というのも、いつまで続くかは微妙なところですね。
それは映画というメディアの弱体化を象徴しているのかもしれませんが、中身(コンテンツ)も問われる時代ですね。
勿論、全てのジョニー・デップ主演の映画がそうだなんて言うつもりはありませんが、本作のような空振りが多いと、
彼のブランド力は当然下がりますが、それ以上にブランドだけで闘える時代ではないことの裏返しなのかもしれません。

ところで、チャーリーのチョビ髭をアクセントとしていますが、
彼の妻がチョビ髭を見た瞬間に態度を豹変させるというのも、面白い発想だったと思います。
できれば、もっと徹底して彼女にはチョビ髭が生理的に受け付けないというのをアピールして欲しかったけれども・・・。

(上映時間107分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 デビッド・コープ
製作 アンドリュー・ラザー
   ジョニー・デップ
   クリスティ・デンブロウスキー
   パトリック・マコーミック
原作 キリル・ボンフィリオリ
撮影 ジル・セイヴィット
   デレク・アンブロージ
音楽 マーク・ロンソン
   ジェフ・ザネリ
出演 ジョニー・デップ
   グウィネス・パルトロウ
   ユアン・マクレガー
   ポール・ベタニー
   ジェフ・ゴールドブラム
   オリビア・マン
   ジョニー・パスヴォルスキー
   ウルリク・トムセン

2015年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演男優賞(ジョニー・デップ) ノミネート
2015年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演女優賞(グウィネス・パルトロウ) ノミネート
2015年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト・スクリーン・コンボ賞 ノミネート