恋とニュースのつくり方(2010年アメリカ)

Morning Glory

正直言って、観る前はあんまり期待していなかったけれども・・・

最近はパッとしたコメディ映画に出会っていなかったせいか、そこそこ楽しめましたね。
レイチェル・マクアダムスをヒロインに据えることに目的があった映画という気もしますが、
ただ単にボーイフレンドと紆余曲折を経て結ばれて、その最中で仕事でも成功するという、
恋愛劇を中心にしたロマンチック・コメディの定石を踏んだ映画というわけではなく、
むしろ恋愛の要素をかなり弱くして、サクセス・ストーリーの要素を強めたのは、正解でしたね。

ですから、この映画でヒロインを演じたレイチェル・マクアダムスのパートナーと言っていいのは、
彼女のボーイフレンドを演じたパトリック・ウィルソンというよりも、気難しいベテランのキャスターを演じた、
ハリソン・フォードと言った方が的を得ていて、彼は『ワーキング・ガール』以来のコミカルさを見せている。

まぁ・・・『インディ・ジョーンズ』シリーズなんかでは、
アクション活劇の中でコミカルさを見せるなんてことはありましたけど、
本作のように最初っから最後までコメディ映画にお付き合いするなんてことは、そう多くはありませんから、
ある意味で貴重な姿と言えば、それは間違いじゃありませんね。おそらく本人も、まんざらではないのでしょう。

映画は、とある弱小TV局の早朝番組プロデューサーを務めていたベッキーが、
担当していた番組の低迷を理由に、弱小TV局の契約が切れてしまうところから始まります。

やっとの思いでつかんだ、マンハッタンのTV局での朝の情報番組のプロデューサーのチャンスが訪れますが、
担当する番組『デイブレイク』は競合する名番組に内容、結果ともに惨敗でスタッフのモチベーションも低く、
キャストも従来のマンネリ化した空気を打破し切れず、ベッキーは早速、改革の必要性を痛感します。

偶然、局内で出会った、往年の名キャスター、マイクを口説き落とすことを決意し、
彼とテレビ局の間で結んだ契約の隅から隅までを読み尽くし、何とかしてマイクをキャストすることに成功します。

モテ男をボーイフレンドとして、順風満帆な生活に思えたベッキーでしたが、
彼女の情熱とは裏腹に、担当番組の視聴率は更に低迷を極め、マイクは真面目に仕事に取り組んでくれず、
一緒にメインキャスターを務めるコリーンとの仲は一向に良くなりません。そんな最中、ベッキーは6週間で
『デイブレイク』が打ち切られることを知らされ、どんな手を使ってでも、視聴率を上げようと躍起になります。

サクセス・ストーリーなので、お約束と化したかのように、ご都合主義な部分も見え隠れしますが、
さすがは『ノッティングヒルの恋人』で成功させた実績を持つロジャー・ミッチェルなだけあって、
映画は嫌味にならない程度に、ご都合主義を使っているようで、強引な演出はできる限り抑えている。

映画に程よいテンポの良さがあり、コミカルさを失わないように配慮されているのも良く、
上手い具合にカット割りを使っていて、全体的なバランス感覚に優れた映画だと思う。

まぁ・・・そういう意味では、この手の映画として第一に目指すべきである、
「映画を観て、スカッとする」とか、「映画を観て、良い気分になる」という部分は達成できているのかな。
個人的には、もう少しコメディ・パートを強くしても良かったかなぁとは思いますが、
ナンダカンダでベッキーの発案で、番組のコーナーを少しずつ変えていき、お天気レポーターに
次から次へと過酷なチャレンジをさせるというエピソードには、楽しませてもらったから、悪くはない。

とは言え、朝の情報番組の視聴率を稼ぐという意味では、
ベッキーの番組の作り方は間違いではないのだろうが、報道番組の本分ではないのだろう。
確かにベッキーが作っていたのは、報道番組ではなく、バラエティ番組そのもの。
例えばマイクのようなステレオタイプのニュースキャスターにとっては、ありえない方向性だろう。

僕はこれはこれで、本作なりの皮肉だと思う。
現実にバラエティの要素を入れなければ、視聴率を稼げないという現実は、おそらくアメリカでもあるのだろう。
マイクはマイクで偏屈過ぎて、プライドが高過ぎて、極端で厄介な男だが(笑)、彼の持論も間違ってはいない。

「新しいものを生み出さなければならない」という標語はいつの世にも共通して言えることで、
特に世の中の変化に対応できなければ、一線からの退場を余儀なくされるというのは理解できるけど、
決して、「新しいものを生み出す=過去(現状)を否定する」ということではないと思うのですよね。

確かに「新しいものを生み出すために、まずは現状を否定する」ということはあります。
ただ、現状にしても過去にしても、何かしらの良さは必ずあるもので、正しい現状把握に基づけば、
どういった部分を残して、新しいものを生み出していけばいいのか?ということはハッキリするはずなんですよね。
これが「新しいものを生み出す=過去(現状)を否定する」になってしまうと、ただの改悪になるケースが多い。
問題解決の手法として、“手段”と“目的”を混同しないということは、凄く大切なことだと思いますねぇ。

この映画のコメディ・パートに欠如しているものは、“貯め”だと思う。
特に終盤、ベッキーが面接の途中で、マイクが番組の中で料理している姿に唖然とするシーンで、
その“貯め”の足りなさが露呈している。もっとベッキーが唖然とする表情を映すのに“貯め”があれば、
映画はもっと面白く見せられたはずで、観客の笑いを取ろうと思えば、もっと取れたはずなだけに勿体ない。

この映画でのロジャー・ミッチェルはおおむねバランス感覚に優れているのだが、
強いて言えば、コメディ・パートはもっと強くできたはずで、観客の笑いを明確に取りにくるのが少ない。
ひょっとしたら、彼は本作を恋愛映画として扱っているのか?と不思議に思えるほどで、
もし仮にそうだとしたら、ラストシーンがベッキーとマイクの会話で映画が終わるというのは、明らかに変だろう。
コメディ・パートの弱さは、唯一、この映画で大きく悔やまれる弱点であり、大きく損をしていると思う。

せっかくハリソン・フォードとダイアン・キートンのいがみ合いも悪くないだけに、
良い土台を集めておいて、こういう弱点を抱えてしまうのは、とても残念なことだと思うんですよね。

特に映画の前半はよく頑張って構成できていただけに、
終盤のコメディ・パートの力不足な感覚が、あまりにハッキリと浮き彫りになっている気がします。
正直言って、脚本の細部がどうなっていたかはよく分からないが、演出でどうとでもできた部分だと思う。

まぁ・・・観る前の予想よりも面白い映画ですと...より欲を言いたくなるんですよね(笑)。

(上映時間107分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ロジャー・ミッチェル
製作 J・J・エイブラムズ
    ブライアン・バーク
脚本 アライン・ブロッシュ・マッケンナ
撮影 アルヴィン・クーフラー
編集 ダン・ファレル
    ニック・ムーア
    スティーブン・ワイズバーグ
音楽 デビッド・アーノルド
出演 レイチェル・マクアダムス
    ハリソン・フォード
    ダイアン・キートン
    パトリック・ウィルソン
    ジェフ・ゴールドブラム
    ノア・ビーン
    ジャック・デビッドソン
    ジョン・パンコウ
    マット・マロイ