007/ムーンレイカー(1979年イギリス)

Moonraker

まぁ噂に違わぬ、酷い出来の映画だが(笑)、
映画の冒頭のスカイダイビングから、ヴェネツィアでのボート・チェイスまでは結構、良いと思う。

っていうか、ひょっとしたら僕が今まで観た“007シリーズ”の中で、
本作の冒頭のスカイダイビング・シーンの迫力は、最も傑出したものと言っても過言じゃない気がします。

監督は前作に続いてルイス・ギルバートですが、
チョット良かった前作と比較すると、そりゃ本作に分が無いことは明らかですが(苦笑)、
それでも良く解釈すると、この冒頭のスカイダイビング・シーンで全てを出し尽くしたのかもしれません(笑)。

本作で敵役を演じたドラックスを演じたミシェル・ロンズデールにしても、
ボンド・ガールに配役されたベッドグッド将軍を演じたロイス・チャイルズもなんだかイマイチなんですが、
妙に印象に残ったのは『O嬢の物語』や『ヒッチハイク』で日本でも当時、そこそこの知名度があったはずの、
フランス人女優コリンヌ・クレリーで、ヘリコプターを操縦しながら抜群のプロポーションをアピールし、
ドラッグスの屋敷で彼が飼う猛犬に追われるシーンの緊張感は、本作の中でも出色の出来だったと思います。

まぁ映画は後半に入ると、すっかりダメになってしまう。
前半のスリリングさは、本来的にはクライマックスにないと、映画が盛り上がるはずもないのですが、
結局、ヴェネツィアでのシーンまでがピークで、これ以降はグッとテンションが落ちてしまう。

映画の終盤、30分はほとんどが宇宙空間でのシーンなので、
完全にSFの世界になるのですが、スタッフは当時の技術力を結集させたのはよく分かるけど、
レーザー銃の応酬で、宇宙ステーションを破壊したり、“船外活動”で銃撃戦したりと、
色々と破綻したアクション・シーンに注力した結果、“007シリーズ”の本来的な面白さを完全に失っている。

さながら『ピンクパンサー』シリーズのパクりであるかのように、
訳の分からん日本人(?)が剣道着で竹刀を持って、美術館内でボンドに襲いかかったり、
過去に何度も見せられたような、広々としたアマゾン川でのボート・チェイスを延々と見せたり、
とにかく今回のルイス・ギルバートには独創性が全く感じられず、ほとんどヤッツケ仕事のようになっている。

本作で4作目のボンドとなったロジャー・ムーアも、
本作あたりが一つの引き際でしたね。さすがに撮影当時、52歳だっただけに体がキツそうだ。

確かにショーン・コネリーも若くはなかったけれども、
もう少しアクションの一つ一つがスリムだったし、どこか余裕が感じられたのですが、
本作でのロジャー・ムーアにはさすがに体のキレが感じられないし、ゼイゼイとツラそうに見えてしまう。

そのせいか、映画のクライマックスで派手な格闘シーンは無かったのですが、
そのおかげでドラックスは悪役キャラクターとして映えないし、前作に引き続いての登場だった、
ジョーズを演じたリチャード・キールの方がずっと映画で目立っていたという皮肉な結果になってしまっている。

そう思って観てしまうと、この映画はあらゆるところで納得性も無い。
イアン・フレミングの原作は読んでいませんが、思わず「これってホントに原作通りなのか?」と言いたくなるぐらい。

前作から引き続いて、執拗にボンドに襲撃し、
どんな反撃を受けてもカムバックしてくる不死身さだったジョーズで、本作ではドラッグスの手下になって、
やはりボンドの命を狙ってくるのですが、偶然出会った女の子に恋をして、宇宙ステーションに乗り込むのですが、
最後にジョーズがとった行動自体も、あれだけのボンドの言葉だけで気持ちが動くというのは、説得力が無い。

せっかく冒頭のスカイダイビング・シーンでスーツ姿で落下するボンドと、
空中で必死にパラシュートを奪い合うという迫力を演出しただけに、こんな程度の扱いになってしまうのは
彼のキャラクターを殺してしまうかのようで、とても勿体ない。どうせやるなら、もっとしっかりと描いて欲しい。

それと、ルイス・ギルバートの悪い癖ですが、
つまらないギャグ路線に走り過ぎです。前作でもその傾向があるにはありましたが、
そこまで目立たず映画が壊れることはなかったのですが、本作では完全に映画の空気を壊していますね。

ヴェネツィアの狭い運河でのボート・チェイスが終わってから、
ボンドが乗船するボートがホバークラフトみたくなって、陸地に上がって市街地を走り始め、
観光客をはじめ、地元住民たちも唖然とするなんてシーンにしても、いくらなんでもやり過ぎだろう(笑)。

その他にも前述した、日本人が剣道着を着て竹刀で襲ってくるシーンにしても、
美術館で貴重な文化財なのか、ボンドが壺みたいなものを持って、相手を殴ろうとしたものの、
警報ブザーが鳴ったから元に戻したりと、さり気ないところギャグを盛り込んでくるのですが、
こういうギャグを映画全体でやり過ぎていて、ルイス・ギルバートは完全に映画を壊してしまっている。

元々、ロジャー・ムーア時代になってからの“007シリーズ”は
こういうギャグに走る傾向があるにはあったのですが、本作は特に酷い部類に入りますね(苦笑)。

そしてお約束のラストシーンにしても、
前作でのラストシーンをほぼ踏襲した内容なのですが、これが前作のラストを完全に凌駕している(笑)。
さすがに“無重力ラブシーン”とは、僕も予想だにしていませんでしたが、完全に観客の笑いをとりにきていますね。

まぁひょっとしたら、本作がシリーズではワーストの出来なのかもしれませんが、
個人的には冒頭のスカイダイビングだけは、シリーズ屈指のスリルと称賛に値すると思います。
そうなだけに、確かに映画自体を高く評価することはできないとは思いますが、全否定はできないんですよね。
但し、個人的には本作あたりからシリーズの迷走が明確になったことに、スタッフの結果責任は重いと思います。

とにかくいろんなことに片っ端から挑戦したけれども、
そのほとんどが事前のリサーチ不足から失敗を繰り返し、シリーズ本来の良さをもメチャクチャにしてしまい、
新規のファンも取り込めず、オールドなファンの気持ちをも離してしまったという意味では、罪深いですね(苦笑)。

そして、この映画がMを演じたバーナード・リーの遺作となってしまったことも残念でなりません。

(上映時間126分)

私の採点★★★☆☆☆☆☆☆☆〜3点

監督 ルイス・ギルバート
製作 アルバート・R・ブロッコリ
原作 イアン・フレミング
脚本 クリストファー・ウッド
撮影 ジャン・トゥルニエ
特撮 デレク・メディングス
音楽 ジョン・バリー
出演 ロジャー・ムーア
    ロイス・チャイルズ
    ミシェル・ロンズデール
    コリンヌ・クレリー
    リチャード・キール
    バーナード・リー
    デスモンド・リュウェリン
    ロイス・マクスウェル

1979年度アカデミー視覚効果賞 ノミネート