モンスター(2003年アメリカ・ドイツ合作)

Monster

これは救いの無い映画ですが、まずまずの出来。

若干、女流監督パティ・ジェンキンスの私的な見解が入り過ぎている気もするけど、
シナリオも執筆し、初監督作品でこれだけ見応えのある作品に仕上げたのは、実に立派なこと。

これまでは、セクシーな魅力を活かして、次々と規模の大きな映画に出演して、
ハリウッドでもトップ女優になっていたシャーリーズ・セロンが、それまでのキャリアを無視したように、
撮影にあたって体重を13kgも増量させて、更に特殊メイクを施して、体当たりで挑んだ話題作で、
見事、オスカーを獲得するなど、並々ならぬ気合を入れて臨んだ作品として、今尚、鮮烈なインパクトを持っている。

13歳の頃から売春行為でお金を稼ぐことを覚え、
以来、娼婦としての生き方から脱却できないアイリーンが、とあるバーでレズビアンの女性と出会い、
彼女と話すうちに彼女を愛するようになってしまったがために、2人は行動を共にするようになり、
よりお金を稼ぐ必要に迫られたアイリーンが、いつもの調子で男を引っかけたところ、
この客がトンデモない奴だったことから、人生の歯車が狂っていき、破滅的な結末へと向かう姿を描いている。

映画としては、内容が内容なだけに賛否が分かれるところだとは思うのですが、
アイリーンが売春行為から卒業したくても、なかなか卒業できないジレンマを描いているのは、とても良い。

どうしても、一般的な見地から、偏見の目線を向けられ、
真っ当な人生を歩みたくとも、様々な障害に阻まれ、また、アイリーン自身も我慢できない性格で
威嚇的な態度をとってしまうことから、なかなか彼女が堅気の世界で生きることは上手くいきません。

これに関しては、彼女に同情なんてできないのですが、
当然のように予想される障害を、真正面から描いているのには感心しましたね。

ただ、僕はこの映画、どこかパティ・ジェンキンスの想いが強過ぎるというか、
アイリーンの行動や言動の描き方に、私的な意見を挟み過ぎている気がするのが、気になりましたねぇ・・・。

と言うのも、この映画を観ていて、どこか違和感を感じ続けていたのは、
アイリーンが過剰なまでな凶行に及ぶ理由に、彼女の不遇な境遇や、強姦被害を挙げていて、
まるで作り手が「彼女に同情の余地もあるでしょ?」と言わんばかりのように感じていたことですね。
いや、映画を最後まで観れば、それが作り手の本意ではないことは分かるのだけれども、
一つ一つのシーンのつなぎ方は、もっとよく考えて欲しかったし、大きく損をしているような気がするんですよね。

併せて言うなら、どこかインパクトを強く持たせようと、故意に居心地の悪いシーンを撮っているように見える。
特に気になったのは、映画の終盤にあった、善意で車を止めた男性が命乞いをするシーンを撮ったことで、
これはおそらくノンフィクションのシリアルキラーを描いた映画ですから、現実にあった出来事なのだろうけど、
このシーンがやたらと、これ見よがしに描いているような印象を僕は受けてしまい、ここは感心できなかった。

そう思ったのって、やはりアイリーンのキャラクターに納得性が無いからだと思うんですよね。
アイリーンの精神的な内面なんて、簡単に説明できる状態ではなかったのだろうけど、
体を売る相手として警察官は選ばないようにしたり、かなり計算高いところはあったはず。

最初の殺人にしても、過剰防衛ではあったと思うのですが、
相応の理由があったから犯した罪であって、それが2回目からはそうでなくなって、
まるで“処刑人”のように殺しを繰り返すという展開自体、しっかりと納得性を持って描けていない。
ところが、一転して前述した命乞いする男性相手には、とても厳しい選択を迫られるなんて、
どこか映画自体が行ったり来たりしている印象が拭えなくって、アイリーンの行動をその時々で正当化する、
要素を弁証しているような気がして、どうも映画にとって肝心なものが欠落していたような気がするんですよねぇ。

とは言え、主演のシャーリーズ・セロンは言うまでもなく、
アイリーンが恋するセルビーを演じたクリスティーナ・リッチも、もの凄く良い。

映画の冒頭で、何を目的に場末のバーに来たのか、よく分からないが、
どことなく孤独で寂びそうで、アイリーンにキツいことを言われても気丈に振る舞う姿なんて、
女性でなく男性であっても、彼女に同情的に接したくなる、とても女性的な側面が上手く表現できている。
(セルビーは最初からレズビアンという設定なので、こういう言い方になってしまうけど・・・)

やがて、アイリーンと恋愛関係になるにつれて、
最初はアイリーンに対する憧れもあって、アイリーンに依存する形で付き合うセルビーでしたが、
そう時間がかからずにやはり自我を出し始めて、見知らぬ女性とバーで知り合ったのがキッカケで、
アイリーンを連れてやって来た遊園地で、セルビーとアイリーンの関係が変わったことを象徴させたのも上手い。

アイリーンはセルビーが知らない女性たちと談笑する姿を見て、
嫉妬心から来る不満げな表情をのぞかせたことは間違いなく、この辺は恋愛映画のセオリーかもしれない。

ちなみに実在のアイリーンは、1989年から1990年にかけて、
客として接した男性7人を殺害した罪で、約12年間服役し、2002年に死刑に処されました。
あくまで、関係者の証言でしかありませんが、89年頃から実在のアイリーンは精神的に病みかけており、
常軌を逸した言動・行動に走り、外出先では数々の人々と口論になり、トラブルになっていたそうです。

最初に強姦の前科があった男性を客としてとり、
彼女の証言では、強姦されそうになったために、この男を殺害したらしい。
これをキッカケに彼女の殺人衝動は止まらず、立て続けに6人の男性を殺害した嫌疑がかけられました。

逮捕後のアイリーンは、当初の供述内容を覆すなど、
不安定な言動に陥り、晩年はいち早く死刑を執行するよう自暴自棄になったかのような発言をし、
過去の罪を事実として認め、もしも釈放されたら、再び殺人を犯すと思うともコメントしていたそうだ。
ですから、実在のアイリーンの内面はかなり混沌としていて、常識的な説明などできなかったでしょう。

しかし、ここは敢えて映画的に脚色しても良かったと思うんだよなぁ・・・。
勿論、ノンフィクションの映画化ですから、あまり大きく改変する必要はないと思うのですが、
実在のアイリーンの実像に迫るというのは、映画の枠組みの中では、かなり難しい作業だったと僕は思います。。。

(上映時間108分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

日本公開時[R−15]

監督 パティ・ジェンキンス
製作 マーク・ダモン
    ドナルド・カシュナー
    クラーク・ピーターソン
    シャーリーズ・セロン
    ブラッド・ワイマン
脚本 パティ・ジェンキンス
撮影 スティーブン・バーンスタイン
音楽 BT
出演 シャーリーズ・セロン
    クリスティーナ・リッチ
    ブルース・ダーン
    スコット・ウィルソン
    プルーイット・テイラー・ヴィンス
    リー・ターゲセン
    アニー・コーレイ

2003年度アカデミー賞主演女優賞(シャーリーズ・セロン) 受賞
2003年度全米俳優組合賞主演女優賞(シャーリーズ・セロン) 受賞
2003年度全米映画批評家協会賞主演女優賞(シャーリーズ・セロン) 受賞
2003年度サンフランシスコ映画批評家協会賞主演女優賞(シャーリーズ・セロン) 受賞
2003年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞主演女優賞(シャーリーズ・セロン) 受賞
2003年度ラスベガス映画批評家協会賞主演女優賞(シャーリーズ・セロン) 受賞
2003年度シカゴ映画批評家協会賞主演女優賞(シャーリーズ・セロン) 受賞
2003年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞主演女優賞(シャーリーズ・セロン) 受賞
2003年度バンクーバー映画批評家協会賞主演女優賞(シャーリーズ・セロン) 受賞
2003年度ベルリン国際映画祭主演女優賞(シャーリーズ・セロン) 受賞
2003年度ゴールデン・グローブ賞主演女優賞<ドラマ部門>(シャーリーズ・セロン) 受賞
2003年度インディペンデント・スピリット賞主演女優賞(シャーリーズ・セロン) 受賞
2003年度インディペンデント・スピリット賞新人作品賞 受賞
2003年度インディペンデント・スピリット賞新人脚本賞(パティ・ジェンキンス) ノミネート