チョコレート(2001年アメリカ)

Monster's Ball

うん、これは力のある素晴らしい映画ですね。

人種差別主義のハンクが、黒人女性レティシアと恋に落ちる様子を描いた恋愛映画なのですが、
まぁ正直言って、好き嫌いがハッキリと分かれるタイプの映画でしょうね。でも、僕は力のある映画だと思います。

監督は本作がデビュー作でスイス出身のマーク・フォースターなのですが、
彼が本作の次に撮った04年の『ネバーランド』も観ましたけど、ホントに力のある映像作家だと思います。

具体的に何処が素晴らしいかって、言葉にすることは難しいですが、
映画の空気に統一感が感じられて、主義主張に一貫性があることに魅力を感じますね。
おそらくこのまま順調にキャリアを積めば、21世紀の大巨匠になれるでしょうね。

言うまでもなく、ハル・ベリーが初めてオスカーにノミネートされ、受賞した作品として日本でもヒットしましたが、
彼女だけでなくハンクを演じたビリー・ボブ・ソーントンの複雑な表現を見事に体現した芝居も大きいですね。
極端なことを言えば、ハル・ベリーだって彼に助けられていると思う。そういう意味で、彼は助演なのかも。

一見すると、この映画は人種差別主義を公言し、権威を振るう父親の手前、
心優しい息子と対立していたハンクが、息子に目の前で自殺され、
不慮の交通事故で息子を失った黒人女性レティシアと、唐突に肉体関係を結ぶ様子を描いた作品のように
見受けられますが、映画を最後まで気づかされるが、ひじょうに前向きな人生賛歌と言っていいと思う。

この映画にキーワードがあるとすれば、それは「寛容」である。

ハンクにしても、レティシアにしても同様なのですが、
お互いの信念や私情などに影響され、お互いに苛立ったり、受け入れづらさを感じる瞬間があります。
ところが本作は、そんな瞬間がいつの間にか消えてしまったり、違った感情に変化してしまいます。

相手を寛容的に受け止め、自分のエゴを押し通そうとはしません。
こういったスタイルは僕も見習わなければならないし、人生を前向きに捉えるお手本だと思う。
こうして考えていくと、本作の最も大きなテーマは「共生」なのかもしれませんね。
人種差別を止め、お互い対等な存在として、争うことなく暮らしていくことは大きなテーマと解釈できます。

こういった映画の表情の変化を、マーク・フォースターは実に自然に見せてくれますね。
僕は本作の価値って、こういうところにあると思いますけどね。勿論、ハル・ベリーの熱演も大きいのですが。

とは言え、ハル・ベリーのアカデミー賞受賞のスピーチは感動的でした。
おそらく彼女の境遇のこともあるでしょうし、本作の内容も影響を与えたことでしょう。
映画の都、ハリウッドも決して無縁とは言えなかった人種差別という大きな社会問題を扱っていますから、
彼女自身、今尚、数多く思うところがあった思い入れの強い作品だと思いますね。

正直に白状すれば、僕は彼女の授賞式でのスピーチは何度観ても、泣かされそうになります。
彼女は白人と黒人のハーフという生い立ちや、かつての人から暴力を受け、片耳の聴力を失ったなど、
私生活で多くの苦労をしてきただけに、本作の熱演での受賞はホントに嬉しかったですね。

この映画、レティシアが勤めるカフェにハンクが訪れるシーンがたまらなく良いですね。
夜遅くまで開店していながらも、閑散としている店内の空気を上手く画面に反映させている。

それでいながら一方、死刑執行シーンの戦慄を臨場感たっぷりに表現するなど、
時に異様な緊張感に満ち溢れたシーン演出があり、上手く緩急の付いた構成になっていると思いますね。
やっぱり、出演者の頑張りだけでなく、マーク・フォースターの力も大きかったと思いますね。

ハンクの父を演じたピーター・ボイルの存在も強烈でしたねぇ。
彼は体が弱り、もはや一人で生活することすら困難になっているのですが、
それでも相変わらずな性格で、黒人に対する差別を露骨に公言し、子供たちにも強権的態度をとる。
元々、刑務官で息子や孫も刑務官となったことから、子供たちは彼の強い支配下に置かれています。

そんな中でハンクを尋ねてきたレティシアが彼と鉢合わせになるシーンで、
レティシアが持ってきたハンクへのプレゼントであるカウボーイ・ハットを被って、
レティシアに蔑視発言を投げかける姿が、異様なまでに人間の悪意に満ちた凄いシーンでした。

成人映画に指定されているだけに、映画の中盤でかなり大胆な性描写があることは事実です。
しかしながら、全てをセックスで片付ける映画ではなく、最終的には純粋な愛にまとめる過程が実に良い。
確かにハンクとレティシアは衝動的に肉体関係を結んだけれども、ひょんなことにこれが2人の恋の始まり。
ドラマティックでも、ピュアでもないけれども、それでも決して強くはない人間のありのままの姿を描いています。

過剰に装飾するわけでも、下手にカッコつけるわけでも、奇をてらうわけでもない。
けれども、僕はこの映画から多くの感銘を受けましたし、ひじょうに力のある映画だと思います。

まぁ・・・ただ実に意味深長なラストが用意されているのは間違いありません。
オシャレな恋愛映画と思われて観ると、想像以上にヘヴィな内容で大きなギャップを感じてしまう気がします。
まぁ観終わって、悪い気分にさせられる類いの内容ではないのですがねぇ。。。

(上映時間112分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

日本公開時[R−18]

監督 マーク・フォースター
製作 リー・ダニエルズ
脚本 ミロ・アディカ
    ウィル・ロコス
撮影 ロベルト・シェイファー
出演 ビリー・ボブ・ソーントン
    ハル・ベリー
    ピーター・ボイル
    ヒース・レジャー
    ショーン・コムズ
    モス・デフ

2001年度アカデミー主演女優賞(ハル・ベリー) 受賞
2001年度アカデミーオリジナル脚本賞(ミロ・アディカ、ウィル・ロコス) ノミネート
2001年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞主演男優賞(ビリー・ボブ・ソーントン) 受賞
2001年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞主演女優賞(ハル・ベリー) 受賞
2001年度ベルリン国際映画祭主演女優賞(ハル・ベリー) 受賞
2001年度全米俳優組合賞主演女優賞(ハル・ベリー) 受賞
2001年度フロリダ映画批評家協会賞主演男優賞(ビリー・ボブ・ソーントン) 受賞