マネーモンスター(2016年アメリカ)

Money Monster

主演のジョージ・クルーニーが番組の演出で、
妙な踊りを繰り返すのが、やたらと脳裏に焼き付く、変な映画ではあるのですが・・・
現代のオンラインでの株式取引が当たり前の時代になり、そんな時代に求められ登場した、
株の売り買いをショーアップ化させて煽るTV番組での、一つの事件を描いたサスペンス映画。

僕は知らなかったけれども・・・、これって女優ジョディ・フォスターの監督作品だったんですね。

正直言って、どこか物足りなさが残る出来の映画ではあるのだけれども、
これは及第点以上のレヴェルの作品ではあると思います。ただ、「まだやれる余地はあった」かと・・・。

これって、ジョージ・クルーニーも映画監督やプロデューサーとして活躍しており、
そういう志向がある映画人なだけに、おそらく映画監督としての道を模索している、
ジョディ・フォスターを支援したいという気持ちがあるのではないでしょうか。製作兼任で主演を務めています。

映画は、株式取引に関する情報をショーアップ化させた演出を基に構成するTV番組の
ホストであるゲイツが、テレビの生放送中に爆弾を持参した青年にスタジオを占拠され、
ゲイツ自身が人質に取られながら、テレビで生放送しながら犯人の主張を届けて、
とあるIT企業の株価が大暴落した原因を追究する様子を、スリリングに描いています。

ゲイツは確かに株の達人とも言うべき手腕があり、その情報の出し方も含めて、
番組スタッフが一目置く存在であったものの、あまりに独特な手法にスタッフも手を焼いていました。

まぁ・・・この映画で登場する犯人も、自分のお金を使って投資するか否かは、
あくまで個人責任なはずなのに、その失敗を押し付けるかのように、TV番組スタジオに乗り込んで、
番組ホストに爆弾で脅迫するなんて、あまりに理不尽な事件ではあるのですが、一方でいくら視聴率稼ぎとは言え、
視聴者に強烈なインパクトを与えるためにと、投資情報を断言的に言って、視聴者の購買心理を刺激するなど、
如何にも賛否両論がありそうな、“キワもの”とも言える番組ホストなんですね、このゲイツという男は。

この映画でジョディ・フォスターが上手かったのは、
テレビ番組を乗っ取って、色々なやり取りを繰り広げる脅迫犯とゲイツの2人を、
どこか突き放したかのように描くことで、見方によってはドキュメンタリー・タッチに近い手法をとったことですね。

少し言い過ぎかもしれませんが、75年の『狼たちの午後』を思い出させるような内容であり、
これは『グッドナイト&グッドラック』を撮ったジョージ・クルーニーからしても、興味深い内容だったのでしょうね。
現代社会に於けるメディアの役割、そしてあるべき立ち位置について鋭く言及した映画と言えるかもしれません。

が、個人的には物足りなさという観点で言うと、
僕はTVスタジオの描写だけで、映画を完結させて欲しかったですね。その方が、もっとスマートでした。
限定された空間で展開される映画でありながらも、十分に動きのある映画にはなっていましたので、
映画のクライマックスで、スタジオを飛び出して事件の解決をみるというのは、少し安直に感じられてしまいました。

個人取引以外は、大抵がアルゴリズム取引になっている現代社会に於いて、
開発されたアルゴリズムのバグという言い訳はあまりにお粗末ですが、ある意味での金融テロとして、
本作で描かれたような株価操作によって、不当な利益を企業経営者が得るということは、起こり得ることだと思う。

そういう意味では、テレビジャックされるかはともかくとしても、
株価暴落によるショックで、大損こいた投資家の恨みをかって、大事件を起こすというのは
現実に起こり得ることであり、本作自体はリーマン・ショックに想を得たものなのかもしれませんね。
ジョディ・フォスターが撮りたかったことは、いろいろとあったのだろうけど、問題提起性ある企画だったとは思いますね。

但し、どこか物足りなさが残る所以となったのは、クライマックスの描き方が飛躍し過ぎて、
訴求力のないラストに帰結してしまったことと、ゲイツの唯一の理解者であった女性プロデューサーを
演じたジュリア・ロバーツの存在感を上手く使えなかったことで、脇役キャラクターを魅力的に描けなかったですね。

観ていて、ずっと感じていたことなのですが...
彼女が思った以上に、ゲイツと立てこもり犯の攻防に入り込んでこないので、どうも存在感が薄い。
極端なことを言ってしまえば、別にいなくても成立し得る存在と化していることが、とても勿体なく感じましたね。
ましてや、ジュリア・ロバーツをキャスティングできたというのに、「この扱いは、チョットないなぁ」というくらい。

映画自体は上映時間も95分とコンパクトにまとまっており、
作り手が描きたいことを上手く凝縮して描けているので良いのですが、個人的にはもう少し、
サイド・ストーリー的なものを充実させて、脇役キャラクターを磨いて欲しかったなぁというのが、正直な感想ですね。

とは言え、株の取り引きはどのようなことがあっても自己責任だと思う。
その判断ミスを、責任転嫁するように爆弾搭載ジャケットを持ち込んで、テレビジャックするなんて論外。
確かに悪質商法のように騙されたという感情はあるのでしょうが、株の取り引きについては
この犯人の主張を正当化していたら、株では損した人は全て情報提供元(ソース)の責任にできるという
構図が成り立ってしまうようで、全く次元の異なる話しになってしまうような気がしてなりません。

でも、だからこそマスメディア側は気を付けなければならない。
それをキッカケにして、多額の投資をする可能性があるからで、ショーアップ化することを目的に
殊更にゼロリスクやハイリターンの可能性が高いことを示唆することは、自重すべきということはあると思う。
本作でジョディ・フォスターも、ゲイツの姿にアンチテーゼ的なニュアンスを見い出しているように見えます。

この方向性にあっては、ジョージ・クルーニーも共鳴するものがあるのでしょう。
どうやら、ジョディ・フォスターがジョージ・クルーニーをキャスティングすることを熱望していたようですが、
ジョージ・クルーニーのリベラルな主義主張という観点からも、共感するところがあったからこそ、実現した企画でしょう。

ネット取引が主流になり、個人投資家が入り易くなったことと、
機関投資家のアルゴリズム取引がメジャーになった現代だからこそ、成り立つストーリーですが、
犯罪に対するマスメディアの立ち位置を訴求するという意味でも、メッセージ性ある作品と言えるでしょう。

ただ、返す返すも、ジョージ・クルーニーの妙な踊りは...チョット異様だったかな(苦笑)。

(上映時間95分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

日本公開時[PG−12]

監督 ジョディ・フォスター
製作 ダニエル・ダビッキ
   ララ・アラメディン
   ジョージ・クルーニー
原案 アラン・ディ・フィオーレ
   ジム・カウフ
脚本 ジェイミー・リンデン
   アラン・ディ・フィオーレ
   ジム・カウフ
撮影 マシュー・リバティーク
編集 マット・チェシー
音楽 ドミニク・ルイス
出演 ジョージ・クルーニー
   ジュリア・ロバーツ
   ジャック・オコンネル
   ドミニク・ウェスト
   カトリーナ・バルフ
   ジャンカルロ・エスポジート