ミッション・トゥ・マーズ(2000年アメリカ)

Mission To Mars

サスペンス映画をメインに活躍していたデ・パルマが突如として、
火星を舞台にしたSF映画を撮ったということで、当時は大きな話題となった作品。

しかし、これは当時から散々、映画ファンから批判されたことが、よく分かる内容ですわ(笑)。

いやいや、これはデ・パルマのフィルモグラフィーから言っても、
映画史から観ても、類い稀な珍品と言っても過言ではないぐらい、ある意味でブッ飛んだ映画。
当時、日本では『アルマゲドン』の空前の大ヒットで、こういうSF映画が大流行りの時期だったので、
明らかに映画会社もそういった潮流に乗ろうとしているのが、見え見えの戦略だったことを記憶しているのですが、
本作はそういった主流とは一線を画す内容であって、多くの方々に理解されなかった理由がよく分かります(笑)。

まぁ映画の出来としても、さすがにデ・パルマらしさも希薄になり、
別にいつものトリッキーな映像を期待していたわけではないし、彼がSF映画に挑戦した選択も悪いわけではない。
(噂では本作のデ・パルマは実質的に“雇われ監督”の状態であったらしいけど・・・)

正直、内容的には「よくラジー賞を独占しなかったなぁ・・・」と感心させられるぐらいです。

映画は火星探索というミッションを与えられ、火星探索の実務に当たっていた4人のクルーが、
突然の何らかのパワーが働いたことで甚大な被害を受け、1人だけが生き残り、その事実を知った、
宇宙ステーションに待機していた仲間が、生き残ったクルーの救出作戦に出る姿を描いています。

ストーリーだけを読むと、かなり動的な映画という印象を受けるだろうし、
どちらかと言えば、サスペンスフルなSFアクションにもできそうな題材なのだけれども、
映画は前半のドラマ部分に始まり、救出のミッションへと変わるエピソードにしても、スピード感が皆無。
その割りには、映画の中盤では突如として劇的に動き始め、その一つ一つが支離滅裂という状態・・・。

おそらくデ・パルマは映画の前半は、83年にフィリップ・カウフマンが撮った『ライトスタッフ』あたりを、
映画の後半では『遊星からの物体X』あたりを参考に、映画を撮ったのではないかと思えるのですが、
どうにもその全てが空回りしてしまったかのような映画になってしまい、何もかもがメチャクチャになってしまいました。

特にラストはあまりにブッ飛んだ終わり方でデ・パルマらしからぬ暴走ぶりにビックリしました。
まぁ・・・デ・パルマが書いたシナリオではないから、ストーリーに対する思い入れは無かったのかもしれません。
正直言って、デ・パルマらしからぬ高尚なラストで、なかなか共感を得難いラストのように思いますね。

今となっては、デ・パルマが迷走した映画であるかのように思えますが、
やはり彼が何を狙って本作を撮ったのか、その意図が見えないので教えて欲しいですね。

映画の中盤で、ドン・チードル演じる黒人宇宙飛行士が火星で救助が必要な状態になって、
いざ4人で助けに行って、宇宙船内の植物が育っている光景に呆気に取られていたら、
ゲイリー・シニーズの後ろにドン・チードルが近づいてきたのを、まるでホラー映画であるかのように描くのですが、
このシーンにしても、デ・パルマが何を意図して、こういう演出を施したのかサッパリよく分からない。

これが後になって、意図が明かされるわけでもなく、
全く意味の無い、作り手が効果を考えていない、あまりに雑な演出で観ている、こっちが呆気に取られてしまった。

本作の前にデ・パルマは『スネーク・アイズ』を撮っていて、あれはあれで良くない出来でしたが、
本作と比較すると『スネーク・アイズ』は冒頭の驚異的な長回しだけでも見応えはあったし、
まだ見どころと、映画としての醍醐味はあったと思うし、まだデ・パルマらしさがあったように思いますね。

まぁ、本作にも冒頭に無駄とも思える長回しがあるのですが、
この映画で最も印象に残ったのは、無重力を表現する方向感覚を失わせるようなグルグル回る、
宇宙船内の映像表現をするシーンで、ああいったトリッキーな表現はデ・パルマならではのように感じました。

ただ、これだけというのは寂しい。
別にデ・パルマがSF映画にチャレンジすることはいいと思うけど、彼なりの野心が感じられない。
だからこそ、本作は高い評価を得られなかったし、何か余計なことを考えてしまったラストという感じがする。
こういう言い方は凄く申し訳ないけど、やっぱりデ・パルマは高尚な解釈を要する映画は向かないと思うんですよね。
どこかチョットした、ボタンのかけ違いで映画が大きく崩れてしまったかのようで、なんだかとても勿体ない。

そもそも「どうしてデ・パルマがこの仕事を引き受けたのか?」という疑問が残るし、
本作を通してデ・パルマがやりたかったことはあったはずなのに、それが見えないのが不可解。
これは企画の段階からそうなのですが、色々な部分で間違いが積み重なった作品という感じがしてしまいます。
(あまり言いたくはないけど...やっぱり私はデ・パルマ以外に適任者がいたはず・・・と思います)

言い過ぎかもしれませんが、ひょっとするとデ・パルマなりに『2001年の宇宙の旅』を目指したのかもしれません。

どうせなら、個人的にはミステリー性をもっと強調した映画にして欲しかったかなぁ。
その方がデ・パルマの持ち味や個性を活かせる映画になったと思うし、よくマッチした可能性があると思う。
どうも、CGの使い方からしてもデ・パルマの映像センスと融合できない感じで、独り歩きしているような感じで、
デ・パルマ自身もそうなのですが、プロダクションも何を狙った企画だったのか、不明瞭になってしまっている。

ティム・ロビンスの使い方にしても、チョット勿体ない。ここもデ・パルマらしくはなかったですね。

ただ、ここまで言っておいて、突然、こういう言い方をするのもナンですが・・・
おそらくハマる人にはハマる映画なのだろうと思う。ラストの突き抜け方なんかにしても、
異星人とのコンタクトにロマンを感じる人には共感しうる終わり方になっているのだろうし、
既知の世界よりも未知の世界に希望を感じる人には素晴らしくフィットする終わり方なのではないでしょうか。

但し、結果的にデ・パルマがハリウッドで大きな企画を任されなくなったキッカケと
なってしまった作品だということで、デ・パルマにとっては悪い意味でのターニング・ポイントとなってしまいました。

元々、コアなファンが多い映像作家ですので、なんとかなるもんなのですが、
確かに00年代に入ってからは活躍の場が減ったようで、徐々に低迷していってしまったのが残念ですね。

(上映時間113分)

私の採点★★☆☆☆☆☆☆☆☆〜2点

監督 ブライアン・デ・パルマ
製作 トム・ジェイコブソン
脚本 ジム・トーマス
    グレアム・ヨスト
    ジョン・C・トーマス
撮影 スティーブン・H・ブラム
音楽 エンニオ・モリコーネ
出演 ゲイリー・シニーズ
    ティム・ロビンス
    ドン・チードル
    コニー・ニールセン
    ジェリー・オコンネル
    アーミン・ミューラー=スタール
    キム・デラニー

2000年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト監督賞(ブライアン・デ・パルマ) ノミネート