M:i:V(2006年アメリカ)

M:I:V

トム・クルーズの代名詞と化したTVシリーズ『スパイ大作戦』の映画化第3弾。

本作では、TV界で出世したJ・J・エイブラムスが監督を務めており、
世界的なメガヒットとなった第2作でジョン・ウーが、確信犯的にスローモーションを駆使して、
ド派手なアクションを繰り広げて純粋にエンターテイメントを追求するスタイルを踏襲し、
この第3作は作り手が開き直ったかのように、思いっ切りアクション・エンターテイメントを志向したようだ。

2時間を超える長さなのですが、相変わらずのトム・クルーズの体を張った、
アクション・シーンが連続する、鬼気迫るほどの見せ場の連続に上映時間がアッという間に過ぎる。

これだけの資金力があって、人材から適材適所に使いこなせて、
ド派手にエンターテイメントを追求できたのは、00年代ではトム・クルーズのチームが唯一でしょう。
やはりこの人、賛否両論はあれど、これを誤魔化し無しにやり切れるエネルギーが圧倒的ですらあると思います。

映画は主人公イーサン・ハントが看護士と結婚するというところから始まります。
これまでのシリーズを観てきた人なら、少々、気後れしてしまいそうな出だしではあるのですが、
映画のスイッチが入って、“走り”始めたら、映画のエンドロールまで一気にノンストップの全力疾走!

この辺はJ・J・エイブラムスも『アルマゲドン』の脚本などを書いていたとは言え、
本作が監督デビュー作だったわけで、その分だけ実に気合の入った良いシーン演出が連続する。
アクション・エンターテイメントを撮る素質があることをトム・クルーズが見抜いていたのか、
J・J・エイブラムスにチャンスを与えたトム・クルーズの眼力が、やはり素晴らしかったと言わざるをえない。

映画は軽いフラッシュ・バック形式を採っていて、
冒頭から悪役を演じるフィリップ・シーモア・ホフマンに追い詰められるイーサンが映るところから始まる。
いきなり緊張感いっぱいの窮地に、観客はグッと引き込まれるわけですが、この強引な始め方に感心した。
このテンションでデビュー作から、映画を始められるというのは、才覚の表れと言っていいと思います。
いろんな映画を研究していたのか、この冒頭で「おっ、コイツやるじゃん!」と上から目線で言いたくなりました(笑)。

但し、もはや『スパイ大作戦』であることは忘れた方が、映画を楽しめます。
少なくとも本作には、スパイとしての難しさや、ストイックな側面は全く描かれておらず、
どこまでもスタイリッシュで、スピード感満点のイーサンが描かれる、ただそれだけが“武器”なのです。
だからこそ、『スパイ大作戦』のファンの人は、全く別物の映画だと思って観ないと、損をします。

この辺は、トム・クルーズとポーラ・ワグナーが主導権を握った企画だっただけに、
もはやトム・クルーズのヴィジョン、そのままに映画が完成するわけですから、往年のファンを楽しませるというより、
トム・クルーズのファンが楽しめるように開き直った映画という見方をした方が、精神衛生的にも良いでしょう。

それと、フィリップ・シーモア・ホフマン演じる悪党が強いんだか、弱いんだか分からない。
少なくとも、腕っぷしはたいしたもので、スパイとして百戦錬磨であるはずのイーサンを一撃で吹っ飛ばすほどの
怪力の持ち主で、特にクライマックスの上海の家の中でイーサンと対決するシーンでは、大暴れだ。

しかし、そんな強かったはずなのに、実に呆気ないアッサリした“退場”をしてしまう。
やはりこの手の悪役は、もっとしつこくメイン・ストーリーに絡んでこないと、インパクトが残せない。
せっかくフィリップ・シーモア・ホフマンという、この頃は“旬な”俳優をキャスティングできたのですから、
もっと良い意味で彼のカリスマ性、存在感を映画の作り手は利用して欲しかったですね。

正直言って、この映画のフィリップ・シーモア・ホフマンの扱いは、凄く勿体ないと思いましたね。

そう、J・J・エイブラムスもこの映画で、唯一、大きなミステイクがあったとすれば、この悪役の描き方でしょう。
特にこの手のアクション映画で、その悪役の存在というのは重要で、本作はどこか印象が残らない。
それは作り手として、反省すべき点だと思います。悪役が巧みに描かれるからこそ、イーサンは映えるのです。

イーサンがいつの間にか、現場を離れて指導教官として働いていたという設定から
映画が始まるというのは、第2作から続けて観ていると、あまりのギャップに驚かされますが、
スパイ活動する中で、女性と恋に落ちるということはなく、いきなり看護師と結婚しているという前提も異例だ。

さすがにイーサンが、交通局に勤務する職員を装って、
看護師ジュリアと結婚するというのは、いささか力技で無理を感じる設定ではあるのですが(笑)、
まぁ・・・イーサンは一般的な生活にあこがれていたのでしょう。本作のイーサンは妙に所帯じみていましたねぇ。
そういう意味で、この映画はスタイリッシュにカッコいいイーサン・ハントが好きな人には、違和感があるかもしれません。

そんなイーサンが現場に戻る決意をしたのは、自分の教え子が犠牲になったこと。
私的な感情から、ここまで突き動かされるというのも、スパイ稼業としては異例中の異例でしょう。

そんなイーサンの人間臭い部分が、本作には良い意味で生かされている感じで、
もはや第1作のときにあったようなストイックで、要所でカッコいいスパイというイメージを完全に捨て去り、
第2作で確立した超人的なスパイという位置づけで、このシリーズを押し通す気満々といった感じです。
昨今のハリウッドには、こういう開き直りも必要で、それを堂々とできるのはトム・クルーズくらいだったのでしょうね。

クドいようですが、この映画に何を求めるかによって、評価が分かれると思います。

純然たるエンターテイメントと開き直って楽しみたい人にとっては、なかなか良い作品であり、
そんな楽しみ方こそ、J・J・エイブラムズとトム・クルーズの狙いであることは、ほぼ間違いないでしょう。
往年のTVシリーズ『スパイ大作戦』のようなイメージをもって、本作を観てしまうと、あまり楽しめないと思います。

僕は第2作の時点で支持しているせいか、本作は何ら違和感なくスッキリと楽しめました。

少々、このシリーズは“マスク”で変装するというのを使い過ぎているのが、
第2作までで凄く気になっていたのですが、この点は本作で若干、改善してきたようです(笑)。
本作にもあるにはあるのですが、“マスク”を使った変装は必要最小限ではあったかと思います。
(それどころか、フィリップ・シーモア・ホフマン演じる悪党の“マスク”を作るシーンを描いていたのには驚きましたが・・・)

尚、第4作以降の路線を決定づける意味でも、本作の位置づけはとても重要な作品でもあります。

(上映時間125分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 J・J・エイブラムズ
製作 トム・クルーズ
   ポーラ・ワグナー
原作 ブルース・ゲラー
脚本 J・J・エイブラムス
   アレックス・カーツマン
   ロベルト・オーチー
撮影 ダニエル・ミンデル
音楽 マイケル・ジアッキノ
出演 トム・クルーズ
   フィリップ・シーモア・ホフマン
   ビング・レイムス
   マギー・Q
   ジョナサン・リース=マイヤーズ
   ミシェル・モナハン
   ローレンス・フィッシュバーン
   ビリー・クラダップ
   ケリー・ラッセル
   サイモン・ペッグ