ミッション:インポッシブル(1996年アメリカ)

Mission : Impossible

往年の人気TVシリーズ『スパイ大作戦』の現代版リメーク。

トム・クルーズのプロダクションが誇る一大人気プロジェクトになりましたが、
第1作は思いのほか地味なタッチの内容で、昨今のシリーズのような派手さは無い。
監督はカルト的人気のあるブライアン・デ・パルマで、おそらく『スパイ大作戦』へのリスペクトからでしょう。

デ・パルマのファンからしても、この出来は不発だったと思いますが、
思いのほかデ・パルマの個性を消して、忠実にスパイ映画のセオリーを踏襲している。

映画はCIAの極秘部隊IMFで活動するベテラン諜報員ジム・フェルプスに
プラハの大使館に勤務する大使が、諜報員リストである「NOCリスト」を盗み、転売しようとするのを
防ぐように指示がくだり、彼が率いるチームに大使から「NOCリスト」を取り返すために、作戦を決行します。

ところが、作戦が何者かに筒抜けで、謎の刺客の襲撃にあったフェルプスから
「作戦は中止だ!」と指示がくだり、各メンバーが逃走した結果、生き残ったのは若手のイーサン・ハントでした。
本部の人間と接触したイーサンは、今回の作戦がIMF内の内通者をあぶり出すための作戦だったと告げられ、
自身に疑惑の目が向けられていることを悟ったイーサンが、真実の解明にチャレンジする様子を描きます。

本作の見どころは、何と言ってもクライマックスにある
ロンドンからパリへ向かうTGVをヘリコプターが追跡して、一緒にトンネルに入っていき、
イーサンが命からがらの攻防を繰り広げるシーンでしょう。劇場公開当時も大きな話題になっていました。

このシリーズの定番となるイーサンの超人的活躍の最たるもので、
現実的に考えると、ありえないシーン演出ではありますが、まだこの頃は可愛いレヴェルですね(笑)。

しかし、このストーリーはオールド・ファンからも賛否両論でした。
なんせフェルプスは『スパイ大作戦』では二代目リーダーとして、主役級の扱いであったために、
突如としてこういう扱いをすることに方向転換したことで、映画の方向性がまるで変わったように見えます。
まぁ・・・若手のイーサンをメインに描くことで、地味なアクション・シリーズから脱却させたかったのでしょうけどね。

「このテープは5秒後に自動的に消滅する」というメッセージテープがカッコ良いことで、
日本でもこのシリーズは大人気でしたが、フェルプスのようなベテランが主人公なら、
地味で玄人好みなスパイ映画として、純粋なリメークとして楽しめたのでしょうけど、
前述したようにイーサンを主人公にスイッチすることで、エンターテイメントに徹することにしたのでしょうね。

ただ、そのエンターテイメントに徹するという観点からは、チョット中途半端に感じる。
おそらくデ・パルマなりに『スパイ大作戦』を研究していて、凝った部分は多かったのだろうと思うんですよね。

映画として大きな見どころが、イーサンがCIAの拠点に忍び込んで、
天井から吊るされてリストをPCから盗むシーンと、ヘリコプターとチェイスしながらTGVがトンネルに突入する
クライマックスのアクション・シーン、この2つしか大きな見どころがないというのは、エンターテイメントとしては寂しい。

第2作以降、開き直ったようにサービス精神旺盛な内容になるように、
莫大な予算を投じた内容に転じたのは、この第1作の反省もあったのかもしれません。
おそらく『スパイ大作戦』の古くからのファンにとっては、この第1作のイメージが一番オリジナルに近いんでしょうけど、
言ってしまうと、じゃあこの第1作が『スパイ大作戦』に忠実に作られたものかと聞かれると、そうでも無いんですよね。

だから、この第1作は悪い意味で中途半端な映画とも感じ取れてしまうのですよね。
この辺はデ・パルマはどの位置づけで、本作を撮ったのかがよく分からないところが、なんとも悩ましい(笑)。

それから、トム・クルーズは今も若々しいルックスですが、
あらためて本作を観ると、やっぱりこの頃は若いですね(笑)。当たり前ですけど・・・。
ヒロイン的役割を果たす女優さんが弱く、せっかくエマニュエル・ベアールをキャスティングできたのに
勿体ないなぁと感じる反面、その分だけトム・クルーズが全面に出ている作品ですので、彼のファンなら満足でしょう。

無理にトム・クルーズとエマニュエル・ベアールとのロマンスを描かかなかったあたりは、
オリジナルの『スパイ大作戦』を尊重していることの裏返しで好感が持てるが、それでもエマニュエル・ベアールは
個人的にはもっと映画の中で観たかった(笑)。思いのほか持ち場が少なくて、彼女に関しては物足りなかったなぁ。

個人的には、この映画で最も印象に残ったのは、“マックス”を演じたヴァネッサ・レッドグレーブ。
彼女は60〜70年代に活躍した名女優ですが、本作で初対面のイーサンと対峙する場面では、
ベテラン女優としての貫禄を感じさせる、圧倒するオーラ全開で強いインパクトを残しています。

どうせなら、この“マックス”がもっと全面に出てくる内容にしても良かったのではないかと思えるほどで、
さすがに派手なアクション・シーンは無理にしても、彼女が久しぶりに際立つ存在感でなんだか嬉しい。

ちなみに第2作以降では、イーサンがマスクを駆使して他人に成りすます手法が
やたらと多用されてしまったがために、映画が安っぽく見えてしまっていたのですが、本作はまだ丁度良い。
何でもかんでもマスクで表現されてしまうと、悪い意味で“何でも有り”になってしまい、私は好きじゃないですね。

この映画の成功から、トム・クルーズは製作者としての地位を確立したと思いますね。
僕は元々、トム・クルーズは上手い役者だったと思っているのですが、ただただ若さだけを売りにするスターではなく、
映画監督とまではいかずとも、プロデューサーとしての活動の場を広げていきたかったのでしょうねぇ。
自ら出演する映画で、製作を兼務することで名実ともにマネーメイキング・スターになっていきました。
そういう意味でも、本作は単なるシリーズ第1作という以上の意味合いがあったのではないかと思います。

そうなってくると、本作のデ・パルマは“雇われ監督”っぽいニュアンスになってきますが、
如何にもデ・パルマらしい長回しなどの実験的手法は無いけれども、決して“雇われ監督”だったわけではない。
当時のデ・パルマはやはり、オリジナルの『スパイ大作戦』をかなり研究して、参考にしていたようです。

本作の撮影が終わった途端に、トム・クルーズがデ・パルマに
続編の企画を話していて、デ・パルマに監督の打診をしていたようですが、当時、断わったことが語られています。

この決断が正しかったか否かは、よく分かりませんが...
少なくとも第2作をデ・パルマが監督しなかったことから、本シリーズがよりエンターテイメント性高く、
ド派手なアクション・シーンを売り物にしていく壮大なシリーズになっていくベクトルへ舵をきるキッカケとなりました。
(悲しいかな、デ・パルマは00年代に入るとハリウッドにいられなくなってしまいました・・・)

本作はアクション映画を期待する人からすると物足りないだろうし、
デ・パルマの技巧的側面を期待する人からすると、まるで見当外れな映画で嫌われるでしょう。
そういう中途半端な仕上がりになってしまいましたが、実は意外なほどに真っ当なスパイ映画なんですけどね。

(上映時間110分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ブライアン・デ・パルマ
製作 トム・クルーズ
   ポーラ・ワグナー
脚本 デビッド・コープ
   ロバート・タウン
   スティーブン・ザイリアン
撮影 スティーブン・H・ブラム
音楽 ダニー・エルフマン
出演 トム・クルーズ
   ジョン・ボイト
   エマニュエル・ベアール
   ヘンリー・ツェーニー
   ジャン・レノ
   ビング・レイムス
   クリスティン・スコット・トーマス
   ヴァネッサ・レッドグレーブ
   エミリオ・エステベス
   インゲボルガ・ダグネイト

1996年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト脚本賞(デビッド・コープ、ロバート・タウン、スティーブン・ザイリアン) ノミネート