ミッション:インポッシブル(1996年アメリカ)

Mission : Impossible

まぁ、少々、中途半端な仕上がりではあるのですが、決してつまらない作品ではないと思います。

往年の人気TVシリーズ『スパイ大作戦』で、本作を皮切りにトム・クルーズの代名詞とも言うべき、
人気シリーズとして何本も続編が製作されたのですが、この第1作は鬼才ブライアン・デ・パルマの監督作品でした。

ジョン・ボイト演じるフェルプス率いる諜報チームの若手スパイのイーサン・ハントを主人公に、
突如としてプラハでの任務に失敗し、フェルプスは銃殺され、フェルプスの妻クレアだけが生き残ってアジトに訪れ、
それ以外の仲間は全員が無残にも殺害され、作戦遂行にあたって裏切者がいることをイーサンは悟りますが、
実はこのフェルプスが企画した作戦自体が、CIA内の裏切者をあぶり出すための偽装工作であったことを知らされ、
生き残ったイーサンがCIAからは裏切者であるとマークされ、突如として追われる身となってしまう姿を描きます。

イーサンは窮地を脱するためにと、作戦でも焦点の当たっていたCIA工作員リスト(NOC)のデータを
裏切者が売ろうとしていた相手であるマックスと接触して、本当のNOCをCIA本部に潜入して自ら盗み出せば、
マックスが買い取るという確約を得て、イーサンらは綿密な作戦を練って、CIA本部に潜入することを決意します。

にわかに信じ難いことをやってのけるイーサンですから、文字通り不可能な作戦に挑むスパイなわけですね。
正直、本作はフェルプスをあらぬ扱いをするタブーに挑んだ内容でもあるので、往年のTVシリーズのファンにとっては
賛否が分かれるところだろうし、CIA本部に潜入したり、全速力で疾走するTGVに素手でつかまったりと、
かなり荒唐無稽なアクション・シーンが数多くあるあたりも、ヒリヒリするような諜報活動とは程遠いものになっている。

どちらかと言えば、バレるかバレないかのスリルを描くというよりも、イーサンの超人的なアクションから
やるかやられるかのスリルをド派手に描くというスタンスなので、リメークというよりも現代で言うところの
リブート(再起動)企画だったというわけですね。トム・クルーズ自身も、新しいイメージを作りたかったのでしょうね。

それらを考慮すると、もはや『スパイ大作戦』とは別物の映画として考えた方がいいような気がするし、
ハリウッドを代表するスーパースターであるトム・クルーズを目立たせるためのエンターテイメントと思った方がいい。

その辺は元々、職人肌なところがあったデ・パルマがメガホンを取っても見事なエンターテイメントになっている。
まぁ・・・デ・パルマらしさはないのですが、こういう仕事もできるんですね。チョット驚かされたのは否定できません。

とは言え、イーサンとクレアの関係が映画が始まった頃から既にアヤしいというか、
どう見てもイーサンの視線がクレアに特別な想いがあるのは明白なのですが、そこから何も進まないのは微妙だ。
フェルプスからも怪しまれていた面はあるのだろうけど、それにしても結局は2人に何も起こらないのは勿体ない。
せっかくのエマニュエル・ベアールがキャストされていただけに、彼女のプンプン漂う色気をもっと生かして欲しい。

2人の関係が進まないことは、映画の終盤になって利いてくるのですが、
クレア自身もイーサンに意図的に誘惑していた面はあると思うので、手段を選ばぬしたたかさがあっても良かった。
結局はコンゲーム(騙し合い)を描いた映画なわけですから、もっとイーサンを惑わす存在として強く描いて欲しかった。

CIA本部に潜入して、NOCのデータを盗み取るシーンは間違いなく本作のハイライトの一つです。
天井からジャン・レノにロープを握ってもらって、トム・クルーズが吊るされる姿は有名なシーンですけど、
確かに緊張感たっぷりでスパイっぽくて良いですね。真っ逆さまに吊るされて作業するなんて、自分には無理(笑)。

このシリーズは次第にスケールが大きく、ド派手な映像効果を伴うアクション映画になっていきますが、
TVシリーズとは別物の映画と考えた方が良いとは言え、それでも続編と比べるとまだスパイ映画っぽさはある方です。

イーサンお得意のマスクを使った変装も、続編ではかなり多用し過ぎていた印象もあって、
本作はまだそこまででもないですし、これくらいが丁度良い塩梅ですね。あんまり使い過ぎると、胡散臭いですから。
この辺の出し入れの上手さは、デ・パルマはしっかり持っていましたね。そういう意味では、この第1作がベストかも。

そして、TVシリーズの定番でもあったはずの“任務”をフェルプスに知らせるテープを聞き、
そのテープがすぐに発煙して証拠隠滅されるというくだりが、しっかりと映画の中で再現されているのも嬉しい。
ファンにとってはお約束のシーンなだけに、しっかり残して描いたあたりにデ・パルマのサービス精神を感じますね。
僕はまた、デ・パルマのことだから無理矢理、お得意のトリッキーな映像表現だとか、ヒッチコックを模倣した演出とか、
映画に合わない場違いなアプローチを挿し込んでくるのではないかと勝手に疑っていただけに、安心しました(笑)。

映画は、とある大使にスパイ疑惑がかかっていて、その大使がNOCのデータを盗み取そうとしているのを
防ぐためにフェルプスのチームに任務を与えられ、大使が出席するパーティーにチームも変装して侵入し、
大使がNOCのデータを盗る前にデータを保護しようと画策しますが、この任務は実は筒抜けでチームのメンバーは
次々と殺害されてしまい、生き残ったイーサンがFBI本部側から内通者として疑われるという展開なのですが、
正直、この任務自体はそこまで特別なものではない。イーサンの超人的な活躍はここから始まる逃走劇ですね。

イーサンが本物のNOCデータを奪い取って、武器商人マックスに販売を持ちかけるという計画に対して、
協力者が現れるのですが、裏社会で有名なハッカーであるビング・レイムス演じるルーサーをスカウトします。
このルーサーは続編でも登場してくるので、結構、重要な脇役キャラクターで随所に活躍の場が与えられます。

もう一人、クレアが紹介するパイロットであるジャン・レノ演じるクリーガーの胡散臭さが、また良いですね。
CIA本部に潜入して、天井から吊り下がるイーサンを押さえる役目もクリーガーが担うのですが、
通気ダクトを走るネズミにビックリしたり、クシャミしたりして予想外の動きをさせられ、イーサンは驚かされます。

結局、このクリーガーが映画の終盤でポイントとなって、物語が大きく動き始めるのですが、
個人的にはクリーガーの存在はこの手の映画に必要不可欠で、彼の存在は良いアクセントになっている。

まぁ、この第1作から世界的にも大ヒットし、シリーズ化されるほどの人気作となりましたが、
監督がデ・パルマということもあって、デ・パルマのファンは“そういう”期待をしがちなのかもしれませんが、
正直言って、本作は過去最もデ・パルマっぽくない監督作品と言っていいです。そういうカラーが見られないことに
不満があるという人には、あまりオススメできない作品です。特徴的なカメラワークも長回しも無いですしね。

とは言え、デ・パルマもこういうことがソツなく器用に出来るんだなぁと、変な意味で感心してしまいました。
(まぁ・・・半ば“雇われ監督”だったのかもしれないけど・・・)

実は第2作以降もトム・クルーズらからデ・パルマに続編の監督についてオファーがあったそうですが、
当時のデ・パルマはお断りしています。まぁ、トム・クルーズが志向するシリーズの方向性とデ・パルマのスタンスは
合っていない気もするので、この決断は賢明だったのかもしれないですね。第2作以降を観ると、尚更そう思います。

映画の出来としては及第点レヴェルだとは思いますが、どことなく中途半端な部分は目立ってしまう。
どうせエンターテイメントに徹するなら、最初っからド派手にCG使いまくりでアクションを展開すればいいのにとも
思ったんだけど、それはクライマックスのTGVがヘリを牽引するようにトンネルの中に引っ張り込んで、
猛スピードのTGVの壁面に素手でつかまってイーサンが奮闘するという荒唐無稽なアクションまで、ほぼ封印。

でも、スパイ映画っぽく、バレるかバレないかのスリルはほとんど描かれることなく、
まだ100%エンターテイメントに振り切れない作り手の苦悩を感じちゃって、どこか中途半端に映ってしまう。
ハリウッド製の優秀なエンターテイメントだとは思うけど、それでもやるならもっと振り切れちゃった方が面白かったはず。

しかし、“007シリーズ”のように小道具がポイントとなる映画であることは理解するけど、
いちいちイーサンがこれ見よがしに爆弾に変わるガムを、「レッドラァァァイィト!」、「グリーンラァァァイィト!」と
カメラに向かってアピールするように見せつけるシーンとかは、ほとんどギャグのようにしか思えなかった。

ところで、これもまたトム・クルーズの人徳の象徴でもあるのかもしれませんが、
映画の序盤に描かれる、フェルプスのチームがパーティーに潜入するシーンで、フェルプスのチームが
主要キャストは勿論のこと、クリスティン・スコット・トーマス、エミリオ・エステベスとスゴい豪華なのにも注目ですね。
彼らがまるでチョイ役であるかのように扱われてしまうなんて、スゴい贅沢というか、勿体ないというか...。

エレベーターを遠隔操作されて、エレベーターの天井で潰されるのかと思いきや、
エレベーターのカゴのブレーキなのか、鋭い爪が出てきて、ブチャッと刺さるなんてシーンもギャグみたい・・・。

(上映時間110分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ブライアン・デ・パルマ
製作 トム・クルーズ
   ポーラ・ワグナー
脚本 デビッド・コープ
   ロバート・タウン
   スティーブン・ザイリアン
撮影 スティーブン・H・ブラム
音楽 ダニー・エルフマン
出演 トム・クルーズ
   ジョン・ボイト
   エマニュエル・ベアール
   ヘンリー・ツェーニー
   ジャン・レノ
   ビング・レイムス
   クリスティン・スコット・トーマス
   ヴァネッサ・レッドグレーブ
   エミリオ・エステベス
   インゲボルガ・ダグネイト

1996年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト脚本賞(デビッド・コープ、ロバート・タウン、スティーブン・ザイリアン) ノミネート