ミス・ポター(2006年イギリス・アメリカ合作)

Miss Potter

『ピーターラビット』の原作者であるビアトリス・ポターの少女時代と、
絵本作家として売れ始める頃をクロスオーヴァーさせながら描く、ヒューマン・ドラマ。

正直に白状しますと、ほとんど期待はしていなかったのですが、
意外にもしっかりと作られた、及第点はクリアした作品という印象は受けましたね。

ただ、たいへん申し訳ないけど、描かれた題材の割りに、映画が随分と軽いのが気になりますね。
本来的にはこの映画、もっと重厚感を出すべきだと思いましたし、もう少し編集担当者の青年との恋愛を
入念に描いてラブ・ストーリーとしての基盤を固めた方が、映画としては賢明だったのではないかと思います。

とは言え、主演のレニー・ゼルウィガーはとても上手かったし、
重厚さという観点では物足りないとは言え、決して上辺だけの映画ではありません。
それなりにしっかりと描いているし、作り手にキチッとした意図があるように感じられます。

監督は『ベイブ』のクリス・ヌーナン、あまり規模の大きな映画は手がけていないようでしたから、
正直言って、彼のキャリアも含めて本作の企画は不安だったのですが、破綻の無い出来で
こういうソツの無い仕事をできるということは、ひじょうに大きなことだと思いますね。
これだけ出来るのですから、個人的にはもっと積極的に映画を撮ればいいのに・・・と思いますけどね。

映画は好意的に評価されたらしいのですが、
日本でも当然、劇場公開されたとは言え、あまり大きな話題とならなかったのは、少し残念ですね。
映画としてはキチッとしているだけに、個人的にはもっと話題になっても良かったような気がするのですが、
映画に派手さが無かったことと、ドラマティックな側面を強調できず、ストーリー上の起伏が明確に付かず、
大きく盛り上がったり、強く訴求するような締めくくりにできなかったのが、残念でしたね。

まぁ『ピーターラビット』は世界的な人気を誇る名作ですし、
日本でも子供たちに読み聞かせる本としての昔から知名度はあるし、
そこそこのファン層があるはずですから、もっと話題になっても良かった企画なんですけどね。

本国イギリスでは、ビアトリス・ポターをアメリカ人女優のレニー・ゼルウィガーが演じたこと自体に
不満だったそうなのですが(苦笑)、これは01年の『ブリジット・ジョーンズの日記』と同じパターンですね。
どうやら、『ブリジット・ジョーンズの日記』でも彼女はイギリスでブーイングを浴びたそうです。。。

ただ、敢えて彼女を擁護すると、ホントに彼女の芝居は悪くありません。
むしろ、もっと高く評価されていてもおかしくないぐらいに、好演だったと言っても過言ではありません。

そういう意味では俳優陣も豪華に使えた作品であり、
ビアトリスの担当者であり、彼女と恋に落ちる編集者をユアン・マクレガーが演じ、
ひじょうにアッサリとした扱いをしたり、脇役でエミリー・ワトソンを使ったりと、とにかく贅沢だ(笑)。
そういう意味で本作は、ひじょうに恵まれた企画だったと解釈しても、間違いではないと思いますけどね。
(やっぱり、それぐらい映画にとってキャスティングとは、とても重要なものだと思う・・・)

この贅沢なキャスティングが仇になったのか、
どちらかと言えば、クリス・ヌーナンはこのキャスティングの良さに依存してしまったかのようで、
もっと強い演出があれば、映画はもっと輝いたはずだと思うんですがねぇ。これは少し勿体ない部分があります。

この映画の姿勢の良かったところは、
悲しい出来事やツラい出来事があったとしても、一時的に悲観するものの、
そればかりでエピソードを終わらせずに、ビアトリスが常に前を向こうとしている部分を映していることですね。
それは映画のラストまでの展開にもよく表れておりますし、ポジティヴな印象を残したのは正解でしたね。
まぁこういう姿勢があったからこそ、映画を過剰に装飾することは避けられたのでしょうがね。

映画に軽い印象が残りましたから、適度な装飾があっても良かった気はするけど、
これはやり過ぎると映画が崩れてしまうし、弱過ぎるとあまり装飾する意味が無くなってしまうし、
正直、この出し入れはそうとうに難しく、クリス・ヌーナンには難儀な要求かもしれません。

唯一、このクリス・ヌーナンならではの演出があって、
ビアトリスは“ピーターラビット”を自分が書く本のキャラクターというだけではなく、
「友達」として扱っていたわけで、そのキャラクターをより動的なものとして描くために、
ビアトリスが話すと“ピーターラビット”が動く様子を、アニメーションによって表現したのが良かったですね。

これは『ベイブ』を撮ったクリス・ヌーナンだからこそ生まれたアイデアで、
また、それをごくごくナチュラルに映像として組み込めたというのが、結果的に凄く大きいですね。

それと、ビアトリスがやったことは典型的なナショナル・トラスト活動ですね。
19世紀終盤に“ナショナル・トラスト”という団体が、乱開発を抑止するために、
土地を買い上げて、環境保全や環境修復に努める運動なのですが、ビアトリスが生きた時代としては先駆的。

事実、どうやらビアトリスは“ナショナル・トラスト”に湖水地方の農場の管理を託したとのことで、
生前のビアトリスは開発業者から嫌味を言われるなど、中傷されたりもしていたようです。
こういう熱心な活動家であったことについては、映画の中で深く言及しなかったのも正解でしたね。
やはり映画のテーマがボケてしまうことを避けるには、実に賢明な判断だったと思います。

とまぁ・・・もっと重厚な出来になっていれば面白かったという欲目はあるものの、
純愛を描いた作品としてなら、そこそこ評価に値する作品と言っていいと思いますね。
『ピーターラビット』そのもののファンの方々には、オススメしたい一本。

(上映時間92分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 クリス・ヌーナン
製作 マイク・メダヴォイ
    デビッド・カーシュナー
    コーリー・シエネガ
    アーノルド・W・メッサー
    デビッド・スウェイツ
脚本 リチャード・マルトビーJr
撮影 アンドリュー・ダン
編集 ロビン・セイルズ
音楽 ナイジェル・ウェストレイク
出演 レニー・ゼルウィガー
    ユアン・マクレガー
    エミリー・ワトソン
    ビル・パターソン
    バーバラ・フリン
    マッティエロック・ギブス
    ロイド・オーウェン