デンジャラス・ビューティー(2001年アメリカ)

Miss Congeniality

謎の爆弾魔“シチズン”の犯行を追っているFBI捜査官のチームが、
次なる“シチズン”のターゲットが、アメリカ全土を代表するミス・コンテスト会場であることを知り、
男勝りの30代の女性捜査官をミスコンの出場者に仕立て上げて、犯行を阻止しようとするアクション・コメディ。

これは劇場公開当時、日本でもそこそこヒットしていた記憶があって、
後に第2作も作られて、サンドラ・ブロックの代表作の一つにもなりました。確かにこの映画は結構面白いです。

まぁ、実際のミスコン出場というのは、こんなもんじゃないだろうとは思う。
最近では痩せ過ぎモデルの問題が欧米では社会問題のようになって、むしろ痩せ型の女性は不利になっているようで
明らかに時代は変わりつつあるが、それでも未だにミスコン出場というのは尋常ではない努力を強いられるのだろう。

本作はサンドラ・ブロック自身が製作にも加わる力の入れようでしたが、
確かにサンドラ・ブロック演じるヒロインが、映画の冒頭では全く“そんな感じ”ではなく、
女性の色気とは無縁な生活を送っている様子を演じていますが、そんな彼女が州代表のミスコン出場者として
テレビに颯爽と登場する女性として、説得力ある変貌ぶりを見せている。コーチ役のマイケル・ケインもお見事な助演だ。

監督のドナルド・ペトリーも94年の『ラブリー・オールドメン』などのコメディ映画を中心に
経験を積んできたディレクターなせいか、本作は絶妙なバランス感覚を持って映画を構成できていて、
映画のテンポも良く、嫌味にならない程度のコメディといった塩梅で、映画の出来としてはとても良いと思います。

サンドラ・ブロックは好演ですが、個人的には実質的相手役となる
彼女の同僚の刑事マシューズを演じたベンジャミン・ブラットが今一つだったかなぁ。存在感をアピールし切れず、
結果的にサンドラ・ブロックに喰われてしまっているというか、目立つキャラクターになり得なかったという印象だ。

例えば、映画の冒頭でマシューズはマイケル・ケイン演じるビクターに“目をつけられて”いるのですが、
このエピソードでもっと引っ張って、コメディ映画としてもっと盛り上げるなどアピールが欲しかったところ。

映画の序盤にサンドラ・ブロック演じるグレイシーが通勤途中にサイレンを鳴らして車で
コーヒーショップに乗り込み、レジ待ちしている多くの人々をかき分けて、コーヒーを大量に買いに来るなど、
現実世界でやると大問題になりそうなことをギャグっぽく描いたり、誰をミスコンに出場させようかと
パソコンの合成を使って人選していたら、いつの間にかFBI捜査官が大勢集まって盛り上がった挙句、
上司の合成映像を作ってマシューズがワクワクしたりと、いろいろなギャグがあるにはあるのですが...

個人的にはミスコンの屋外ステージで、グレイシーが観客に怪しい男がいるのを発見して、
拳銃を手にしていると思い、待ち切れずに客席へダイブするというシーンを超えるギャグは無かったかな。
あのときのグレイシーの「タバコを吸うのをやめさせたかった」とテキトーな言い訳を真剣にするのが面白い。

また、ミスコン出場者が突如としてステージから観客に飛び掛かるという構図は確かに面白く、
現実にそんなことが起これば、そりゃニュースにもなりますよね(笑)。しかも言い訳がどこか活動家っぽいのですが、
ミスコンは特定の思想に偏った発言が嫌われがちなのですが、それを臆することなく発言したみたいになっている。
周囲から新しいタイプの出場者と認識されていたからこそ、仲間が慕って助けてくれるというのはあるのかもしれない。

その証拠に、グレイシーが「以前はミスコンを批判していたが、今は見方が変わった」とコメントしている。
見世物のようなミスコンの在り方には今も昔も批判はあるが、出場者の間では戦友のような感覚が生まれるのでしょう。

ミスコンの司会者を演じたキャンディス・バーゲンとウィリアム・シャトナーは上手かった。
キャンディス・バーゲンは良い年齢の重ね方をしているなぁと思った。過去にしがみつき美意識の高さを感じさせ、
エレガントさを保とうとしている姿がなんとも切ない。ただ、若いときの印象を大きく崩さず、良い年の重ね方をしている。

それから相手役の司会者を演じたウィリアム・シャトナーは立ち振る舞い、仕草を含めて、
実際にこういうミスコンの司会者っていそうだなぁと実感させられるほど、よく研究された役作りだったと思う。

ウィリアム・シャトナーって、どうしても人気TVシリーズ『スター・トレック』という印象しかなくって、
こういうコメディ映画ではあまり重要ではない役を回されることも多く、映画俳優としては不遇な感じもするのだが、
本作はよく研究された、実に良い仕事だったと思う。ビクターを演じたマイケル・ケインと双璧をなす存在感だ。

正直言って、映画で描かれる事件の真相のミステリーはたいした謎でもなく、
暗に途中から真相が分かるような描かれたをしているので、グレイシーの謎解きを楽しむタイプの映画ではない。
それよりも、全くミスコンとは無縁に見える女性が、外見・内面を如何に不自然なく出場者に見せるかが本作の要点。

僕も、ミスコンとは意味が違うけど...社会人になると、外見って大事だなぁと分かります。
よく「人は初対面で印象が決まる!」と言いますが、これはホントにそう思うし、自分自身も初対面で“決まって”いる。
そこで植え付けられた先入観にも似た初対面での印象は、徐々に変わることはあっても、いきなり劇的には変わらない。
それに、初対面で印象を良くして、2回目のアポを取らなければならない営業マンであれば、尚更のことだろう。
どちらかと言えば、内面はそれ意向、付き合いを深いものにしていくためには必要だと思う。これはこれでスゴく大事。

でも、初対面でいきなり内面をしっかりと把握するなんて、ほぼ無理ですからね。
となると、初対面の外見から得られる情報で作られる印象って、スゴく大事だし相手の印象はそれで決まる。
だから清潔に誠実に、と無難なことを教育されるのですが、外見を“作り上げる”というのもスゴく大変な話しですしね。

実際、グレースの場合はビクターが各分野の腕利きのスタッフを集めまくって、
まるで突貫工事のように集中的にグレースの外見を見違えるくらい変えたのですから、そりゃもう・・・凄腕のスタッフだ。

どこら辺が邦題にある“デンジャラス・ビューティー”なのかは、僕にはよく分かりませんでしたが、
それでもヨレヨレのシャツを着て、鼻を鳴らしながら笑い、食べ物をいたるところに付けたまま食事するグレイシーを
ミスコンの出場者に仕立て上げるのは、並大抵の労力を要するものではない。本作はその過程を楽しむ映画ですね。

欲を言えば、クライマックスの攻防でグレイシーが王冠を奪いに来るというような
ギャグっぽい演出は考え直して欲しかった。ここで笑いをとりたくなる気持ちも分かるのですが、
僕は感覚的に映画全体のバランスを整えるためには、このラストはコメディっぽく描かない方が引き締まったと思う。
だって、最後くらいはピリッと引き締めた方が、映画の印象は良くなるし、緩急がついてギャグもより生きてくる。

この頃のサンドラ・ブロックはマネーメイキング・スターの仲間入りを果たした感じで、
ハリウッドでも指折りのトップ女優になりつつありましたが、それは本作の大ヒットが決定的なものにしたと思う。
それまでは、どうしても『スピード』のヒロインというイメージが強くって、コミカルな演技を求められる作品とか
無いわけでもなかったけど、数は多くなかったですからねぇ。実力派としての評価を望んでいたのかもしれないが、
やっぱりこういう代名詞的な作品を残していくことが、俳優さんにとってはスゴく大事なことになってくるのでしょう。

ただ、前述したマシューズ刑事役のベンジャミン・ブラットがなぁ〜。
ジュリア・ロバーツとの交際&破局の件の影響で印象が良くなかったのもあるけど、ブレイクできませんでしたね。
それが影響したのか否かは分かりませんが、本作の第2弾にもベンジャミン・ブラットは不参加でした。

あまり深いことを考えずに、サクッと楽しむ分にはとっても良い出来の映画だと思う。
やっぱりこの手の映画は、ハリウッドのプロダクションはホントに上手いと思う。ある程度、ノウハウがあるのでしょう。

ちなみに本作の脚本にも参加しているマーク・ローレンスですが、
翌年に『トゥー・ウィークス・ノーティスで』というサンドラ・ブロック主演の映画で監督デビューを果たしました。

(上映時間110分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ドナルド・ペトリー
製作 サンドラ・ブロック
脚本 マーク・ローレンス
    ケイティ・フォード
    カリン・ルーカス
撮影 ラズロ・コヴァックス
音楽 エド・シェアマー
出演 サンドラ・ブロック
    ベンジャミン・ブラット
    マイケル・ケイン
    ウィリアム・シャトナー
    キャンディス・バーゲン
    アーニー・ハドソン