ミルク・マネー(1994年アメリカ)

Milk Money

映画の出来はそこまで悪くはないと思うんだけど・・・
どこか悪い意味での微妙さが残るな(笑)。それは何故かと考えたのですが・・・

やっぱり娼婦のVとして出演したメラニー・グリフィスの印象のせいなのかもしれません。

いや、確かに冷静に観ると、メラニー・グリフィスにはピッタリの役柄だったと思うんです。
撮影当時、30代半ばでブロンドでグラマラスなシルエットから、どことなく母性を感じるし、
こういった母性の感覚はおそらく20代の若手女優が演じたのでは、出ない域だろう。

まぁ・・・母性を感じさせるという意味で彼女は適役だったのだろうけど、
88年の『ワーキング・ガール』での彼女を考えると、もう少し年上の女優さんでも良かったかも。

映画は思春期を迎えた少年たちが、都会へ“冒険”に出た際に
強盗に目を付けられ地下駐車場で襲われてしまった現場に、偶然、その場に居合わせた
Vと名乗る娼婦に少年たちが助けられたことをキッカケに、少年たちの暮らす住宅街に
迷い込んだVが一人の少年の父親と恋に落ちてしまい、騒動となる様子を描いたハートウォーミング・コメディ。

監督は俳優出身で88年の『花嫁はエイリアン』が少しだけ話題となったリチャード・ベンジャミンで、
主にはコメディ映画をメイン・フィールドで活動しているディレクターですので、本作のような系統の映画は
お手の物といった感じで、本作も映画全体としてはまとまりがあって建設的な内容に仕上がっていますね。

ただ、映画の終盤の展開は賛否が分かれるぐらいユルい(笑)。
娼婦の報酬を取り仕切るウォルツァーからVが追われるという展開になるのですが、
このウォルツァーを演じるマルコム・マクダウェルもユルく演じているとは言え、もう少しストレスがあってもいい。

個人的には、このウォルツァーはもっと観客にストレスを与える存在であって欲しかった。
そうなっていないせいか、どうにも映画に緊張感が無くって、思わずハラハラさせられる内容になっていない。

まぁマルコム・マクダウェルが珍しく、楽しそうに演じている目新しさはあるのですが、
もっとヒロインのことをしつこく陰湿に追いかける要素があっても良かったし、特にスーパーマーケットでの
接近を描いたシーンはあっただけに、それだけで終わってしまったのが、とっても勿体ないように思った。
彼の存在をもっと観客にストレスを与える存在として描いて、映画にもっと起伏を付けた方が良かったですね。

もう一つ言えば、エド・ハリス演じる学校教師とVの恋愛がしっかり描けていない気がする。

これは本作にとって、とても重要な部分ではあるのですが、ギリギリで致命的な難点にはなっていない。
けれども、ここはしっかりやって欲しかった。そもそもエド・ハリスがVのことを教師と勘違いし続けることに
二人の会話はよくできていたけれども、どこか無理矢理な感覚を引っ張ったまま展開させてしまうし、
「娼婦という時点で交際することはできない!」とまで断言していたのに、すぐに許容するように態度を軟化させ、
すぐにVを慰めにかかるし、どこか人間らしい心の動きを描けていない気がして、手落ちな印象がありました。

地味に豪華なキャストを集めることに成功した企画ではあったのですが、
結果的に大人たちの描写がイマイチだったというのは、あまりに勿体ないことをしたと言わざるをえない。

とは言え、矛盾したようなことを言って申し訳ないのだが(笑)、
最終的に仕上がった映画の出来はそこまで悪いとは思わない。それは子役を生き生きと撮れたことで、
全体のバランスをとれたということがあるのかもしれません。この辺は作り手に優れた感覚があったのだろう。
大人たちの描写がイマイチな反面、子供たちの描き方はなかなか良くって、好感が持てる。

中学生になる頃って、如何に早熟であるかを競っているかのような年代ですが、
そういった年代の特徴をよく捉えた描写もあったりして、性教育の授業でヒロインを教壇に引っ張り出してまで、
宿題を発表をするエピソードはやり過ぎとしても、子供たちの日常を描いた点に於いては、優れていると言っていい。

子供たちの日常を描きながら、子供たちのチョットした成長の瞬間を暖かな眼差しで描いており、
リチャード・ベンジャミンなりの優しいビジョンに満ち溢れた画面になっていると言っても過言ではないだろう。
やはり、リチャード・ベンジャミンはシビアな視線で描くよりも、どこかウェルメイドな空気を持って描くのが上手い。

まぁ・・・Vがホテルの部屋に子供たちを連れ込むという発想にもビックリだけど(笑)、
映画の中盤以降で、彼女は母性を感じさせる存在として描くことで、全体のバランスをとろうとする意図は見える。

ただ、チョットした部分ではありますが、子供の恋愛はもっと丁寧に描いて欲しかったかな。
特にクライマックスのダンス・パーティで誰と踊るのか?ということが、一つのエピソードになるのですが、
このエピソードの納得性に欠けるような気がして、その決断に至るまでの心変わりをキチッと描いて欲しかった。
このダンス・パーティのシーンについては、映画のメインではないとは言え、大切にして欲しい部分でしたね。

そのせいか、このダンス・パーティで踊りを申し込むシーンがまるで“オマケ扱い”のように見えてならなかった。
ある種、子供たちの成長を描いた映画なはずなのですから、こういったシーンは大切なはずだと思うのです。

タイトルは「搾り取った金」という意味で、本作の中では多くそういったエピソードが描かれている。
そもそも少年たちが都会へ出て行った際もカンパして金を集めて、目的を達成しようとするし、
ヒロインが娼婦の元締めから追われるのも、彼女たちから搾り取って集めた金を取り返すためである。

考えられたタイトルだとは思うけど、個人的には「もっと他に良いタイトルがあっただろ・・・」とは思う(笑)。

残念ながら、あまりヒットした映画ではないですし、
今となってはすっかり忘れられてしまったような映画ではありますが、そこまで出来の悪い映画ではありません。

(上映時間109分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 リチャード・ベンジャミン
製作 キャスリン・ケネディ
    フランク・マーシャル
脚本 ジョン・マトソン
撮影 デビッド・ワトキン
音楽 マイケル・コンヴァーティノ
出演 メラニー・グリフィス
    エド・ハリス
    マイケル・パトリック・カーター
    マルコム・マクダウェル
    アン・ヘッシュ
    ケイシー・シマーシュコ
    フィリップ・ボスコ
    ブライアン・クリストファー

1994年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト脚本賞(ジョン・マトソン) ノミネート