ミッドナイト・ラン(1988年アメリカ)

Midnight Run

案外、この頃のデ・ニーロでここまで楽しそうにコミカルな役柄を演じているのは、
地味に珍しいのではないかと思うのですが、なんとも楽しそうで実に愉快なアクション・コメディだ。

監督は92年に『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』で高く評価されるマーチン・ブレストですが、
個人的には本作の方が好きだし、何よりデ・ニーロとチャールズ・グローディンのコンビが実に素晴らしい。

映画はかつてシカゴでマフィアの大物からの賄賂を拒否したことで職を追われた元警察官が、
別れた妻子をシカゴに残して、ロサンゼルスで賞金稼ぎとしてキワどい仕事を引き受けているウォルシュが
大金を報酬とする仕事を引き受ける。その仕事とは、シカゴのマフィアの会計士の通称“デューク”を探し出して、
ロサンゼルスに連れて来るという仕事で、アッサリ引き受けたウォルシュは実にアッサリと“デューク”が
ニューヨークにいることを突き止め、実にアッサリと“デューク”を接触し、身分を偽ってFBI捜査官の護送を装い、
ニューヨークからロサンゼルスまで航空機のファーストクラスで移動する姿から始まるロードムービーでもあります。

上映時間が2時間以上ある映画なんで、そうもアッサリとウォルシュの任務は完結しないわけで、
実は“デューク”のことを、マフィアのボスのマネーロンダリングなどを証言できる重要参考人として
FBIも狙っていたわけで、更にそのマフィアのボスも“デューク”に多額の資金を横領され多数の手下を送り込む。

挙句の果てに、ウォルシュに仕事を依頼した依頼主のエディは、
手こずるウォルシュを信用せず、ウォルシュのライバルでもある別な賞金稼ぎドーフラーにも“デューク”探しを依頼し、
長距離移動してでもドーフラーはドーフラーで、汚い手を使ってでも荒っぽくウォルシュから“デューク”を奪おうとする。

しかも、エディの店で働く男は、実はマフィアと内通していてウォルシュの情報を横流しし、
FBIの動きを察知し、“デューク”がヤバいことを証言する前に、マフィアも総動員で“デューク”を消そうとしていた・・・。

“デューク”は“デューク”でクセ者で、ウォルシュの思うように護送が先に進みません。
結構な珍道中と化して、鉄道を使ったと思えばバスになり、邪魔者が入っては車へと移動手段を変え、
トンデモない田舎に流れ着いたウォルシュと“デューク”は、今度はセスナ機で逃げようとするも、ロスは近づきません。

ウォルシュが護送するのをFBIもマフィアも邪魔するところに、そこにドーフラーも個人的な感情から、
ウォルシュの護送の邪魔に入ってくるので、三者三様の想いが全く交わることなく、お互いに拮抗します。
その衝突のドサクサでいつも逃げ出てくるウォルシュと“デューク”ですが、そんな2人の逃避行も終わりが近づきます。

ウォルシュは“デューク”の扱いに手を焼く感じでしたが、時に立場が逆転しても、
“デューク”の性格を掴むにつれて、ウォルシュなりに上手く扱うようになっていきます。現金がなく、何も出来なくなり、
“デューク”のアイデアが偽札捜査を装って、田舎町のダイナーで証拠として本物の現金を“預かる”あたりでは、
“デューク”の演技力に感心するかのような振る舞いで、その後、貨物列車に飛び乗るところでは一気に立場逆転、
先に貨車に飛び乗った“デューク”がウォルシュを助けずに扉を閉めたところで、実は・・・というシーンも面白い。
このシーンでは、デ・ニーロも素の姿であるかのように、実に楽しそうに嬉々として演じているのが妙に印象的だ。

マーチン・ブレストは寡作なディレクターで、84年の『ビバリーヒルズ・コップ』で監督デビューしながらも、
次が本作で数年に一本のペースでしか映画を撮らず、僕の中では結構不思議なタイプの監督なのですが、
これだけ詰め込んだ内容でありながらも、一つ一つがしっかりと整頓された構成になっていて、好感が持てる。
これは少々大袈裟な表現かもしれませんが、娯楽映画のお手本のような作品だ。もっと評価されても良かったですね。

映画のラスト、ウォルシュも英雄色を好むのかと思いきや、途端に模範的ではない姿を見せたり、
ウォルシュが嫌々ながらも別れた妻の家にお金を借りに行き、長く会っていなかった娘とバッタリ再会したりと、
妙にウォルシュの人間臭い部分をしっかりと描いているのも良い。お世辞にもウォルシュが正義漢とは言えないが・・・。

まぁ、でも・・・ウォルシュも警察官を追われた身で、賞金稼ぎになっているので、そんなもんでしょう(笑)。

いかついFBI捜査官モーズリーを演じたヤフェット・コットーも、この手の映画には必要なキャラ。
“デューク”を演じたチャールズ・グローディンは言うまでもなく、ウォルシュに仕事を斡旋すエディ演じる
ジョー・パントリアーノの胡散クサさ、デニス・ファリーナ演じるマフィアのボスのふてぶてしさなど、脇役がとにかく良い。
やっぱり、こうして脇役キャラクターがしっかりと描き込まれ、大切にされている映画はしっかりと安定感がありますね。

こういう部分をしっかりと充実させられたあたり、この頃のマーチン・ブレストは冴え渡っていましたねぇ。
00年代に入ってからも積極的に映画を撮らず、03年の『ジーリ』の大失敗以降は映画を撮っていません。
(『ジーリ』はハッキリ言って、ベン・アフレックとジェニファー・ロペスの公私混同企画でしたしね・・・)

これだけ娯楽映画のお手本のような作品を撮れるのだから、もっと積極的に映画を撮って欲しかったなぁ。

しかし、それにしても...“デューク”があんなお人好しでもマフィアのボスの金を着服するなんて、
とてつもなく危険なことをやるとは、想像もつかない。この映画では、「飛行機が苦手」とウソをついていたくらいで、
それ以外は“デューク”が平凡な小市民みたいな感じで描かれているので、そんな大胆なことをする片鱗が見えない。
欲を言えば、ここはもうチョット描いても良かったかもしれない。普通の人間だったら、やろうと思わないことなので。

本作に関わる裏話で、当初はウォルシュが護送する対象である“デューク”が、
プロダクションの一方的な考えから、女性キャラクターで歌手としても活躍するシェールが予定されていたらしい。
もし、彼女が“デューク”と同じ役割の女性として描かれていたら、映画は全く違った印象になっていたでしょうね。

まぁ、80年代はこういうバディ・ムービーが流行りましたからね。82年の『48時間』でウォルター・ヒルが
ニック・ノルティとエディ・マーフィのコンビを刑事映画として成立させたあたりから、こぞって凸凹コンビをメインに
紆余曲折を経ながら、なんとか活躍して事件を解決する姿をコミカルに描くバディ・ムービーが多かったですね。
本作もその一つだけど、ソリッドに演じるデ・ニーロに対するチャールズ・グローディンの貢献度はデカいと思う。

マーチン・ブレストは『ビバリーヒルズ・コップ』でエディ・マーフィを起用していましたから、
本作でもエディ・マーフィのような個性の強いコメディアンを出演させる選択肢もあったと思うのですが、
チャールズ・グローディンのようなさり気なく出来る芸達者な役者をキャスティングさせたのは、大正解でしたね。

ちなみウォルシュの護送を徹底して邪魔するかのように、同じ賞金稼ぎのドーフラーという存在が描かれますが、
このドーフラーはいつも少し可哀想な扱いを受けている。腕っぷしは強いのでしょうが、ウォルシュには敵わないのか、
大事なところでウォルシュにやられてしまい、ドーフラー自身はミッションを達成できないというオチがついてしまう。

同じように印象深いキャラクターとしてヤフェット・コットー演じるモーズリー捜査官がいる。
彼もまた、ウォルシュが“デューク”と接触する前から、“デューク”に近づくなと警告していたわけですが、
モーズリー自身が気付かないうちにウォルシュにFBIの手帳をウォルシュに奪われてしまうという大失態を犯します。

モーズリーにしてもドーフラーにしても、とても大事に描かれているのが好印象ですね。
彼らはウォルシュと“デューク”をマフィアから守っているかのように、皮肉にも空回りする姿がなんとも面白い。

惜しいのは、クライマックスの空港でのシーン。セラーノが接触してきて、“デューク”を取り返したにしろ、
FBIやドーフラーまで登場して大円卓のようなラストなんだけれども、最後はなんだか平凡な解決でした。
個人的には最後もコミカルに〆てくれた方が、映画の印象が決定づけられたと思うのですが、最後はマジメに〆る。
マーチン・ブレストもこういうところを見ると、少々生真面目なところがあるディレクターなのかなと思っちゃいます。

しかし、全体的にはまとまりがあって、80年代の映画の良い部分が凝縮された作品ではないかと思います。
あまり気張らずに楽しむことができる作品だし、何より主演2人のコンビが抜群に素晴らしいのは特筆に値する。

映画のラストシーンでは、“デューク”から思わぬプレゼントをもらうウォルシュでしたが、
「来世で会おう!」と告げた後、両替を断わられたタクシーを諦めて、「しゃあない。歩いて帰るか」と呟くのが良い。
これはこれで“デューク”を護送する際に、飛行機・鉄道・車などの乗り物を駆使しても尚、苦労したことへの皮肉かな。

どこまでも自然体なデ・ニーロを観られるというのも、また良いですねぇ。

(上映時間126分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 マーチン・ブレスト
製作 マーチン・ブレスト
脚本 ジョージ・ギャロ
撮影 ドナルド・ソーリン
編集 クリス・レベンソン
   マイケル・トロニック
   ビリー・ウェバー
音楽 ダニー・エルフマン
出演 ロバート・デ・ニーロ
   チャールズ・グローディン
   ヤフェット・コットー
   ジョン・アシュトン
   デニス・ファリーナ
   ジョー・パントリアーノ
   ロイン・スミス
   フィリップ・ベイカー・ホール