真夜中のサバナ(1997年アメリカ)

Midnight In The Garden Of Good And Evil

アメリカ南部の不思議な魅力に溢れた田舎町、サバナ。
この土地の富豪ウィリアムズに自身のパーティを取材して欲しいと依頼を受けた
ニューヨークの敏腕雑誌記者ジョンが垣間見た、サバナの知られざる姿を描いたミステリー。

映画の大きなキー・ポイントとなるのは、ウィリアムズの屋敷に出入りする薬物中毒の若者ビリーを
ウィリアムズが射殺してしまうことなのですが、とにかくサバナの空気に合わせるように映画がノロい。

まぁ映画の出来としてはそこそこの出来だとは思うが、
正直、何故に今更、イーストウッドが本作の企画に惚れ込んで、メガホンを取ったのかよく分からない。
全体的な尺は長過ぎる傾向にあるし、キャスティングも今一つしっくりいっていない。

ケビン・スペイシーがウィリアムズを演じるというのは、当たり前すぎる。
いっそのことジョン・キューザックとケビン・スペイシーの配役を逆にした方が、
映画的なマジックが起こった可能性がありましたね。少なくとも、本作に関してはウィリアムズという役柄は
とても重要な登場人物なわけで、映画の中で大きなキー・マンになるわけである。
ウィリアムズという富豪の大きな特徴は、いわゆる「成金」であるという点である。
それなら、もっと若い俳優にアブノーマルな雰囲気を出させた方が、ずっと映画は魅力的になっただろう。

そもそも本作でのイーストウッドの演出はチョット彼らしくない感じがする。
もっと筋の通ったタフなシーン演出が魅力的なのですが、本作のそれは何だか浮ついた感じだ。

その浮つきが本作の特徴だというのなら納得しましょう。
しかしながら、敢えてここまで浮つかせる意味が正直言って、全く分からないのですよね。
やはり映画の中では(チョット変わってるとは言え)法廷劇が展開されているし、
まるで『羅生門』のように右往左往するストーリー展開には、もっと緊迫感を持たすべきですね。

確かに今までイーストウッドの映画には無かった味わいを導入したという意味では良いかもしれない。
特にアメリカ南部の不思議な空気を演出するのに一役買った、“レディ・シャブリ”の存在は出色で、
こういうバイ・プレイヤーの存在はひじょうに大きいですね。かなりインパクト絶大ですが。

それから初めてスクリーンで観たイーストウッドの実娘アリソン・イーストウッド。
ジャズ・クラブで歌う花屋の娘マンディを演じていますが、なかなかの美人女優ですね。
ただ...やっぱりイーストウッドの娘ですね。何となくあの声が父親の印象を残しています。
ただもうチョット、アピールして欲しかったかな。なかか重要な役どころなのに、あまり前へ出てこない。
正直、これでは映画のヒロインとしては物足りないなぁ。だって、映画の華となって欲しい役どころなのですから。

僕は一般に長い傾向にある映画はズルいと、正直言って思っているのですが、
何故にズルいかって言うと、必要最小限の時間で見せて観客を如何に納得させるかが勝負なのに、
長い時間をかけて観客を説得するから、一般に短い映画の方が優秀に見えるから。
まぁそれを僕は長い映画のことをズルいと言っているのですが(←別に長いと愚劣というわけではありません)、
通常の長い映画というのは、説明的過ぎるぐらいにクドく描き、省略が少ない傾向にあるのですが、
信じられないことに本作の場合は、あからさまに必要ないと思える描写で、何度も“寄り道”をするのです。

ある意味で、本作のイーストウッドは映画の定説を超越している。
そんな“寄り道”をあたかも当然であるかのように、イーストウッドは堂々と描いています。

但し、やっぱり映画の出来として良くなっているかというと、それは疑問だ。
確かにこの映画は、ごくありふれた出来事を、サバナという不思議な魅力に溢れた町を舞台に描くことにより、
まるで歴史に残る大騒動であるかのように描いているのかもしれない。

そういう意味では映画を撮るテクニックとしては悪くないのですが、
寓話性を強調するのであれば、ミステリーの中身にも寓話性を持たせて欲しかったですね。
謎解きに関しては、そのほとんどがひじょうに現実的なので、この辺に一貫性を感じない。

まぁ着想点は良いとは思うんですがねぇ。たいしたことない話しを、
あたかも一大事であるかのように描いて、観客を納得させるのは、ひじょうに難しいですからね。
しかしその挑戦はイマイチ成功しているとは言い難い、そういう結果だと思うんです。

イーストウッドは原作を大きく改変しておりますので、原作本と内容は異なるようです。
ですので、たいへん失礼な言い方ではありますが、ストーリーを追うタイプの映画ではありません。
イーストウッドの実に彼らしい演出を観て、本能的に「オオッ!」と興奮できる人には十分に楽しめるでしょう。
しかしながら、僕はそこまで映画の出来は良くないと率直に感じました。

実際、イーストウッドにとって、この映画の場合はストーリーはどうでも良かったのではないかと思える。
何故なら、その証拠に僕には問題の夜、ウィリアムズとビリーの間に何が起こったのか、
イーストウッドには興味が無いように思えるから。それと同じで、陪審員に何故、あの人が選ばれるのかとか、
はたまたウィリアムズという人物の本音が何処にあるかなど、ほとんどどうでもいいことなのだろう。

これをシュールと言うかどうかは、本作に対する評価の分かれ目だろう。
しかし、こういうタイプの映画にイーストウッドが挑戦したこと自体は、素直に評価してあげるべきですね。

(上映時間154分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 クリント・イーストウッド
製作 クリント・イーストウッド
    アーノルド・スティーフェル
原作 ジョン・ベレント
脚本 ジョン・リー・ハンコック
撮影 ジャック・N・グリーン
美術 ヘンリー・バムステッド
音楽 レニー・ニー・ハウス
出演 ジョン・キューザック
    ケビン・スペイシー
    ジャック・トンプソン
    ジュード・ロウ
    アリソン・イーストウッド
    ジェフリー・ルイス
    イルマ・P・ホール