ミッドナイト・エクスプレス(1978年アメリカ)

Midnight Express

敢えて、最初にことわっておきます。
映画としては、とても力がある。さすがはアラン・パーカー、秀でた輝きを放つ作品だ。

しかし、僕はこの映画で描かれたことを不条理だとは思わないし、
主人公ビリー・ヘイズの行動、発言も一概に支持できない。個人的感情としては許容し難いものを感じる。

確かに異国の地で不当にも重すぎる罪を被らされ、
あって無いような司法制度と、外交情勢の餌食になることは悲劇かもしれないが、
ビリー・ヘイズが何故、逮捕されてしまったのか?...結局、これが一番の問題であるとしか思えない。

本作の主人公ビリー・ヘイズはトルコをガールフレンドと旅した際に、
とある町のカフェにいたタクシー運転手から、つい出来心でハシシを2kg購入する。
アメリカへ密輸することにより、小遣い稼ぎになるとでも考えたのだろう。そう、深く考えることなしに・・・。

すると、緊張の帰路につく飛行場で抜き打ち検査にあい、
彼はガールフレンドの前で、警官隊にハシシ(大麻)所持で摘発されてしまい、逮捕拘束されます。

警察から麻薬の売人摘発に協力するように要請され、
早期の解放を条件に警察に協力しますが、チョットした隙を狙って彼は逃亡を図ります。
この行動に失望したアメリカ大使館の職員は彼を見捨て、結局捕まったビリーは投獄されます。

おりしもトルコ政府は対外的に麻薬撲滅を強くアピールするため、
麻薬犯罪の厳罰化、特に外国人による犯罪の撲滅を掲げ、ビリーは厳しい罰を科せられることが予想されました。

しかし、裁判所では終身刑を要求する検察側の期待を裏切り、
4年の懲役をビリーに言い渡しますが、すぐにでも帰国したいビリーと彼の家族は不服に感じます。
当初、4年で終わると思われたビリーの服役生活ですが、トルコの独特な司法制度により長期化し、
更に不衛生な刑務所での生活環境、そして刑務所内で横行するリンチにより、ビリーは次第に精神を病みます。

特に麻薬生産国と言われる国々の多くは、国内で発生した麻薬犯罪の罪が著しく重く、
過去に浅はかな日本人も逮捕され、麻薬所持の罪で終身刑や死刑に処された例がある。

まぁ知らなかったとは言え、もとはと言えば、ビリーの軽率かつ浅はかな行動のせい。
大麻所持がここまでの重罪扱いを受けるとは予想だにせず、軽々しく大麻の密輸を試みたビリーが
あまりに過酷な仕打ちを受けることは、ある意味で当然の結果と言っては、酷なのだろうか?

基本、この映画を観ても変わらぬ僕の意見だが、
“その国の水(法)に従う”のが当然で、ビリーはトルコで検挙されたわけだし、
オマケに司法取引を持ちかけられたにも関わらず、チョットした出来心から逃亡を試みたわけだから、
反省をしていないと解釈され、重罪に問われてしまうのは、僕の感覚から言えば、仕方ないところかな。

そういう意味で、僕はビリーに対して同情的になれないところがあったのは事実。
これって、この映画にとって実は大きくて、ビリーに同情的になれたら、もっと受け止め方は違っていたと思う。

正直、この内容ではトルコが怒ったのも無理はないと思う。

僕は映画はプロパガンダの道具として扱うべきではないと常に思っているが、
オリバー・ストーンが映画的に脚色した内容とは言え、アラン・パーカーの社会を煽るような作風のおかげで、
これは確かに社会的に影響力の強い映画に仕上がってしまったことは事実で、本作の上映をトルコ政府が
感化することはできないという判断は、道義的には理解できる。無事、カンヌ国際映画祭で上映されたが、
映画の内容が偏っていることは否定できないし、どうしても僕も冷静な目で観るのに、苦労させられます。

実際、この映画の内容に絡めて国際社会の場でトルコは痛切に非難され、
本作の上映からすぐに、アメリカとトルコは外交関係が芳しくなかったにも関わらず、
犯罪人引渡し条約を締結せざるをえない状況に追い込まれており、これは映画の好ましくない使われ方だ。

映画の中盤で、再審が実施され、4年間の懲役生活が無かったことにされたビリーが、
再審の場である法廷でトルコに対して悪態をつくシーン演出にあっては、どこか的外れな空気があって、
お世辞にも、良識的な映画とは言えない展開で、おそらくこれは賛否両論に至る内容だろう。

しかし、それでもさすがはアラン・パーカー。
こんなプロパガンダの道具になるような映画を撮ったにも関わらず、悔しいぐらいに良い映画の出来だ。

いつも社会的・政治的思想が強いのがアラン・パーカーの監督作品なので、
その主義主張の強さが好きになれない部分もあるのだが、映像作家としての力は確かなものだと思う。
上映時間は2時間だが、陰鬱で重苦しい空気が支配する中、たっぷりとビリーの過酷な日々を映すので、
映画自体の見応えは凄くあり、想像を絶する重たさと言っても過言ではなく、観る前に覚悟をした方がいい。

大袈裟な表現かもしれませんが、本作から『バーディ』、『ミシシッピー・バーニング』あたりまでの
アラン・パーカーは映画監督として神憑っていたような気すらしますね。その手腕は高いのは確かです。

何度観ても、ビリーがハシシを体中に巻き付けて、
トルコから現地警察の目をかいくぐって出国しようとするシークエンスでの
異常なまでの緊張感は凄まじく、ビリーが汗をかきまくっている姿も実に効果的でしたね。

電子音楽を主体とするジョルジオ・モロダーのミュージック・スコアも素晴らしく、
映画の緊張感を盛り上げることに余念がないですね。これはサスペンス映画のお手本と言っていい。
エンド・クレジットも、何とも言えない余韻が残るような感じで、映画の重たさが心に響きます。

というわけで、個人的には好きになれないタイプの映画ではありますが、
アラン・パーカーの確かな映像作家としての手腕のおかげで、映画は傑作と言っていい出来の良さ。
おそらくここまでしっかりとできた映画は、そう簡単に出来上がる代物ではないだろう。

しかし、クドいようだが、映画がこういう使い方をされることは好きになれない。
アラン・パーカーに熱意があったからこそ為し得た傑作ではあるのですが、
せっかくこれだけ力のある映画を撮れるのだから、その力をもっと違う方向に向けて欲しい。

あまり何度も観たくなるタイプの映画ではないが、社会派映画が好きな人には是非ともオススメしたい。

(上映時間120分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 アラン・パーカー
製作 アラン・マーシャル
原作 ビリー・ヘイズ
    ウィリアム・ホッファー
脚本 オリバー・ストーン
撮影 マイケル・セレシン
編集 ジェリー・ハンブリング
音楽 ジョルジオ・モロダー
出演 ブラッド・デービス
    アイリーン・ミラクル
    ランディ・クエイド
    ジョン・ハート
    ポール・スミス
    ボー・ホプキンス
    マイク・ケリン

1978年度アカデミー作品賞 ノミネート
1978年度アカデミー助演男優賞(ジョン・ハート) ノミネート
1978年度アカデミー監督賞(アラン・パーカー) ノミネート
1978年度アカデミー脚色賞(オリバー・ストーン) 受賞
1978年度アカデミー作曲賞(ジョルジオ・モロダー) 受賞
1978年度アカデミー編集賞(ジェリー・ハンブリング) ノミネート
1978年度イギリス・アカデミー賞助演男優賞(ジョン・ハート) 受賞
1978年度イギリス・アカデミー賞監督賞(アラン・パーカー) 受賞
1978年度イギリス・アカデミー賞編集賞(ジェリー・ハンブリング) 受賞
1978年度ロサンゼルス映画批評家協会賞音楽賞(ジョルジオ・モロダー) 受賞
1978年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ドラマ部門> 受賞
1978年度ゴールデン・グローブ賞助演男優賞(ジョン・ハート) 受賞
1978年度ゴールデン・グローブ賞脚本賞(オリバー・ストーン) 受賞
1978年度ゴールデン・グローブ賞音楽賞(ジョルジオ・モロダー) 受賞
1978年度ゴールデン・グローブ賞新人男優賞(ブラッド・デービス) 受賞
1978年度ゴールデン・グローブ賞新人女優賞(アイリーン・ミラクル) 受賞