フィクサー(2007年アメリカ)

Micheal Clayton

渋い...いや、渋すぎる(笑)。

ニューヨークの法律事務所で勤務するマイケル・クレイトン。
彼は弁護士の本業から外れ、事務所の方針からもみ消し屋(フィクサー)として奉職している。
この事務所、大切なクライアントとして大手農薬会社Uノース社を抱えていて、
このUノース社は約30億ドルにも及ぶ集団訴訟を起こされていて、クレイトンが勤務する事務所にも弁護を依頼。
この訴訟を担当するのは、クレイトンと同じくフィクサーとして暗躍していたベテランのアーサー。

ところがヒアリングの席で突如として問題行動を起こしたアーサーに不安を抱いたUノース社は、
別に敏腕女性企業弁護士のカレンに訴訟を依頼し、クレイトンはアーサーの隔離を依頼されるって話し。

このアーサー、一体どんな問題行動を起こしたかっていうと、
原告側も同席するヒアリングの席で、突如として原告側代表の女性を名指しして、
「あぁお前のために、オレは全てを脱ぎ捨て、恥辱を受け入れる!」と言って全裸になってしまうという変態行為。

正直、これは黙認できんでしょう(笑)。
そりゃどんな悪どい商売やってようが、どんなに品行方正に商売やってようが、
こんな弁護士だったら、誰だって「オイオイ、何だコイツは!?」と不安にもなるでしょう(笑)。

それはともかく。
このアーサーが何故、こんな異常行動をとったかというと、
Uノース社を弁護し切れない...つまり、まともに民事訴訟を争ったら敗訴することを悟ったからです。
端的に言ってしまえば、Uノース社のネガティヴ・データを握ってしまったからなのです。
そこで彼は突如として、原告側に近づいて依頼主であるUノース社への背信行為に及びます。

「オレは狂っていない!」とアーサーは主張しますが、
職を辞してから背信行為に出るなら分かりますが、突如としてテーブルをひっくり返したというのは、
さすがに精神的に異常をきたしたと解釈されても仕方がないような気がします。
この映画の落ち度って、このアーサーの破綻した行動を無理矢理、正当化しようとしたことですね。

申し訳ないけど、もっと良い主張の仕方があったはずなのです。
それだもん、法律事務所はアーサーの行動をもみ消そうと、もう一人のフィクサーであるクレイトンを送るのです。

まぁアーサーを抑えようとするクレイトンですが、彼は彼で私生活に借金問題があり、
すぐにでも大金が必要だという事情があり、実はフィクサーではなく、元の弁護士稼業に戻りたがっている。
まるで言うことを聞こうとしないアーサーは逃走を図り、さすがに彼の手に負えなくなってしまいます。

映画の本題はここからで、
アーサーがネガティヴ・データを手にしたことに気づいたUノース社は、逃走したアーサーを消そうとします。
そして何故にアーサーがそこまで必死になるかに注目したクレイトンも、やがては騒動の核心に迫ります。
さぁそうなると大変です。当然、Uノース社が回した魔の手はクレイトンにも迫ることになります。

そこで絡んでくるのは、Uノース社が不安を感じ、新たに雇った女性弁護士カレンです。
彼女は何とかして大企業を相手にした訴訟を穏便に解決して、多額の報酬を得ることを目的に
邪魔者となりうる存在であるクレイトンに手を回すよう、恐ろしい指令を発します。

これらストーリーの全容が明らかになるのは、映画の後半に入ってからで、
映画の前半は正直、何を騒いでいるのかよく分からない。意図的に単純な構造にはなっていません。

本作は敢えて起伏を目立たなくして、悪く言えば単調に綴っているので、
映画の前半から単純明快な構成ではないことが賛否を呼び易い気がしますね。
これはかなり集中するのに根気がいる映画であることは否定できないし(笑)、
映画の方向性が中途半端な感じになってしまっているのが、どうしても気になりますね。

但し、緊張感の盛り上げ方としては、極めて正攻法に地道な手法が採られており、
決して観客を煽るかのような手法であったり、奇をてらったりするわけではない。
トニー・ギルロイはあくまで自らの演出のみで押し通そうとしているので、その点は好感が持てますね。

ただ、今一つ映画の方向性が中途半端な感じになってしまった上、
演出上の起伏が除去されてしまったがゆえ、ラストのクレイトンとカレンの駆け引きも盛り上がらなかったなぁ。
実質的には悪くないラストシーンなのですが、盛り上がらず、良い後味も残らなかったのが残念。
それはこの映画にクライマックスに突入するぞという、暗黙の合図が感じられないからだ。
ですから、映画のラストがあまりに唐突にやって来たかのような感覚がどうしても拭えないのです。

もう少し訴求力のある、力強い緊張感ある映画かと思っていたのですが、
なんか意図的に地味に押し通そうとしたのが、逆に仇となってしまったような感じで妙な物足りなさが残る。

但し、ラストで50ドルを渡してニューヨークの市街地を適当に走るようタクシー運転手に告げ、
市街地を走るタクシーに乗るクレイトンを延々と映し続けたのは悪くない発想だったと思う。

従って、全てが全てダメな映画ではなく、良いシーンもあります。
けれども、映画の触れ込みなどから僕が勝手に期待を膨らませていたこともあってか、
予想していたほどの出来ではなくって、映画全体としても不満の残る内容でしたね。

(上映時間119分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 トニー・ギルロイ
製作 シドニー・ポラック
    ジェニファー・フォックス
    スティーブン・サミュエルズ
    ケリー・オレント
脚本 トニー・ギルロイ
撮影 ロバート・エルスウィット
編集 ジョン・ギルロイ
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演 ジョージ・クルーニー
    トム・ウィルキンソン
    ティルダ・スウィントン
    シドニー・ポラック
    マイケル・オキーフ
    デニス・オヘア
    ジュリー・ホワイト
    オースティン・ウィリアムズ
    ジェニファー・ファン・ダイク

2007年度アカデミー作品賞 ノミネート
2007年度アカデミー主演男優賞(ジョージ・クルーニー) ノミネート
2007年度アカデミー助演男優賞(トム・ウィルキンソン) ノミネート
2007年度アカデミー助演女優賞(ティルダ・スウィントン) 受賞
2007年度アカデミー監督賞(トニー・ギルロイ) ノミネート
2007年度アカデミーオリジナル脚本賞(トニー・ギルロイ) ノミネート
2007年度アカデミー作曲賞(ジェームズ・ニュートン・ハワード) ノミネート
2007年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞主演男優賞(ジョージ・クルーニー) 受賞
2007年度イギリス・アカデミー賞助演女優賞(ティルダ・スウィントン) 受賞
2007年度ワシントンDC映画批評家協会賞主演男優賞(ジョージ・クルーニー) 受賞
2007年度サンフランシスコ映画批評家協会賞主演男優賞(ジョージ・クルーニー) 受賞
2007年度デトロイト映画批評家協会賞主演男優賞(ジョージ・クルーニー) 受賞
2007年度デトロイト映画批評家協会賞助演女優賞(ティルダ・スウィントン) 受賞
2007年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞助演女優賞(ティルダ・スウィントン) 受賞
2007年度オクラホマ映画批評家協会賞主演男優賞(ジョージ・クルーニー) 受賞
2007年度カンザス・シティ映画批評家協会賞助演女優賞(ティルダ・スウィントン) 受賞
2007年度ノース・テキサス映画批評家協会賞助演女優賞(ティルダ・スウィントン) 受賞
2007年度バンクーバー映画批評家協会賞助演女優賞(ティルダ・スウィントン) 受賞
2007年度ロンドン映画批評家協会賞助演男優賞(トム・ウィルキンソン) 受賞