マイケル・コリンズ(1996年アメリカ)

Michael Collins

うーん...狙いはよく分かるし、監督がニール・ジョーダンだから、
イギリスとはじめとしたアイルランドの歴史を描きたいとする気持ちはよく分かる。
けど・・・なんか惜しい映画だなぁ。もうチョット頑張れば、映画は変わっていただろうなぁ〜。。。

1916年、アイルランド独立のため乗り込んできたイギリス軍へ抵抗を続ける革命軍(イースター蜂起)。
指導者のデ・ヴァレラは逮捕され、自称“破壊部隊リーダー”のマイケルらも逮捕される。

独立機運が高まったアイルランドでは彼ら革命軍を支持する論調が強まり、
釈放されたデ・ヴァレラとマイケルは再び独立運動に身を投じる。
しかし軍事力では圧倒的に英国軍に劣る革命軍は、瞬く間に劣勢に転じ、英国と休戦協定を結ぶ。
アイルランド特使として英国を訪れたマイケルは、これ以上の戦禍は国民が耐えられないと考え、
アイルランドを自由国として、英国に忠誠を誓うことを原則とした「英愛条約」を結び、アイルランドに帰還する。
ところが、この条約内容に納得がいかないデ・ヴァレラら反対派はマイケルらに反発し、
国民議会との決裂を表明、反対派だけで軍事勢力を持ち、アイルランドは内戦状態に陥ってしまう・・・。

とまぁ・・・歴史的に考えれば、現在のアイルランドにとって大きなターニング・ポイントとなる経緯でした。

今も尚、IRA(アイルランド共和国軍)によるテロが世界的にも問題視されておりますが、
IRAのような組織が何故、成り立ったのかを知る上でも重要な映像資料と言ってもいいと思いますね。
本作公開当時、内容が大幅に脚色されており、事実と異なることがアイルランド国内で
大きな波紋を呼んだそうなのですが、それでも内戦が勃発する経緯は克明に描けていますし、
歴史が動くセオリーを理解するには最適な作品かと思います。

本作はニール・ジョーダンらしい、誠実なタッチで綴られており、
92年の『クライング・ゲーム』から彼がこだわるアイルランドの内情を発信したいとする意気込みが伝わります。

ただ、この映画を観ていて僕がひじょうに気になったのは、
ニール・ジューダンの実直さゆえ、映画の傾向として真面目過ぎることですね。
この異様なまでの堅苦しさは、僕にとっては阻害要因かな。
あまりに政治的過ぎるというか、ドラマ性よりも政治思想を優先されているような気がしましたね。

この映画で大きくクローズアップされるのは、
マイケルと彼の親友ハリーが、キティという女性を巡って三角関係に陥ることだ。
この辺の描写はとてもデリケートなものだったと推察されるのですが、ひじょうに巧妙に描けていますね。
また、キティを演じたジュリア・ロバーツがおそろしく地味な役どころだったのですが、
従来の彼女のイメージを大きく覆す好演と言ってもいいと思いますね。

どうでもいい話しなんですが、主演のリーアム・ニーソンとジュリア・ロバーツって、
89年の『サティスファクション』で共演したことがキッカケで、約1年間同棲生活を送っていたとか。
そんな過去があって、リーアム・ニーソンは当時、ナターシャ・リチャードソンと結婚して子供がいましたし、
ジュリア・ロバートは歌手ライル・ラベットと電撃結婚して、すぐに離婚した直後。

どういう成り行きで本作で共演することになったのだろうか?(←スゲェ気になってる)

資料が稀少で、あまり歴史的にも焦点の当たらないマイケルではありますが、
アイルランドでは未だに英雄視する論調が根強く残っており、言わば“伝説の偉人”である。

後にアイルランド共和国の大統領になるデ・ヴァレラも、
マイケルが内戦で命を落としてしまった事実を惜しみ、自身が反対派のリーダーであったことを後悔していたとか。
このコメントは映画のエンド・クレジット直前で載せられており、もしマイケルが生き延びて共和国の統治に
加わっていたら、アイルランドの歴史、そしてIRAのあり方などは大きく変わっていたかもしれません。

映画の前半は歴史の教科書のような流れで、
若干、興を削ぐ感じがあったことは否めないのですが、映画は終盤、グッと良くなる。
特に「故郷ではオレを殺せまい」と言い、デ・ヴァレラとのトップ会談に向かって、
立ち寄ったバーで一人の青年を通じてデ・ヴァレラと会談の交渉を行うシーンあたりからは
画面が引き締まって、映画の緊張感が一気に高まります。

敢えて煌びやかな色彩感覚を排して、蒼ざめたような映像感覚を出したクリス・メンゲスのカメラも良いですね。
戦闘シーンの撮影という意味ではそこまで突出した感じはありませんが、スリルの表現に関しては上手い。
カメラのルックも良くて、彼が撮影監督でなければ出せなかった域に到達していると思います。

ただ、いかんせん映画の生真面目さが悪い方向にも影響を及ぼしている気がします。
エピソードを羅列することに一生懸命になってしまい、シーンの多くが映画的ではないのが気になります。
それが解消されるのが映画の終盤というわけなのですが、言うまでもなく、遅過ぎた感が残りますね。

ところで映画の終盤でマイケルがデ・ヴァレラとのトップ会談開催の交渉に遣う青年。
彼が画面に登場した瞬間に映画が一気に引き締まった感があって、「この俳優って誰だっけ?」と思ってたら、
『ベルベット・ゴールドマイン』に主演したジョナサン・リース=マイヤーズだったんですね。
案外、この映画の中で最も大きく貢献しているのかもしれませんよ。

いや、冗談抜きでこの映画は彼に救われてますって。

(上映時間132分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ニール・ジョーダン
製作 スティーブン・ウーリー
脚本 ニール・ジョーダン
撮影 クリス・メンゲス
音楽 エリオット・ゴールデンサール
出演 リーアム・ニーソン
    エイダン・クイン
    アラン・リックマン
    ジュリア・ロバーツ
    スティーブン・レイ
    チャールズ・ダンス
    イアン・ハート
    ジョナサン・リース=マイヤーズ
    ブレンダン・グリーソン

1996年度アカデミー撮影賞(クリス・メンゲス) ノミネート
1996年度アカデミー音楽賞<オリジナルドラマ部門>(エリオット・ゴールデンサール) ノミネート
1996年度ロサンゼルス映画批評家協会賞撮影賞(クリス・メンゲス) 受賞
1996年度ベネチア国際映画祭金獅子賞 受賞
1996年度ベネチア国際映画祭主演男優賞(リーアム・ニーソン) 受賞