マイケル(1996年アメリカ)

Michael

シカゴの新聞記者が、「自分の家に1ヵ月前から天使がいるから取材して欲しい」との投書に基づき、
アイオワ州の田舎町に訪れたものの、投書の主である冴えないモーテルの老女に紹介された天使とは、
腹が出て、如何にもビール腹で、タバコをプカプカ吸って、ダラしない身なりの中年のオッサンだった・・・。

女流監督ノーラ・エフロンが、どことなく87年のヴィム・ベンダースのヒット作『ベルリン・天使の詩』を
想起させるようなハートウォーミングなラブ・ファンタジーに仕上げた、そこそこ良い出来の秀作。

確かにジョン・トラボルタが天使という設定は、なんだか違和感がある設定なのですが、
まぁ・・・それでも映画の本編を観ると、そう悪くはないものだなと思わせられる。
見るからに天使ではないけど、ヴィジュアル的には白い大きな羽根が生えていて、それを隠さない。
ある意味で実に堂々とした、どこからどう見ても天使なのです。但し、体型は完全に中年のオッサンだけど。

あんだけ朝食のコーンフレークに砂糖を山盛りにかけて、更に“追い砂糖”すれば
そりゃ不健康な体型になりますよね。よそ見をしながら、分量を何も気にせず山盛りにする様子が圧巻です。

地味に豪華キャストなのも、なんだか嬉しい。
天使マイケルを追う新聞記者クインランに先日他界されたウィリアム・ハート、取材に同行するヒロイン的な
女性記者ドロシーにアンディ・マクダウェル、新聞社の編集長にボブ・ホスキンスと、脇をしっかり固めている。

これは作り手のバランス感覚の良さが、よく反映された作品でノーラ・エフロンの監督作品の出来としては、
ベストと言ってもいい出来の良さかと思います。謎の天使とのハートウォーミングなエピソードと、
最初はウマが合わなかったクインランと、女性記者ドロシーの距離感が徐々に縮まる様子を描く、塩梅が良い。

ノーラ・エフロンはニューヨーク・ポストの新聞記者から映画脚本家に転身しました。
ウォーターゲート事件をスクープしたカール・バーンスタインと結婚していた時期もあり、彼と離婚した後、
83年の『シルクウッド』の脚本が高く評価されて、92年の『ディス・イズ・マイ・ライフ』で監督デビュー。
本作を含めて、数本の監督作品を発表しましたが、残念ながら2012年に白血病で他界されました。

ジョン・トラボルタ演じる天使にしても、確かに観ていて如何にも天使という感じではなく、
ただの中年のオッサンですが、それでも過剰なまでに醜悪な描き方をしていないのは、良かったと思う。
得てして、こういう映画の場合はやり過ぎてしまうことがあるのですが、この辺は作り手の配慮を感じる。

演じるジョン・トラボルタも天使とは思えぬルックスとは言え、
やはり着こなしが良いのか、クインランと一緒にシカゴを目指して旅するシーンでは、どこか紳士的なシルエットだ。

こういうハートウォーミングな展開を、映画の雰囲気から作り込めるのは
ハリウッドの得意技ではあるけど、やっぱり上手い。何度観ても、この映画は悪い気にさせられない。
この映画で描かれる天使にしても、説教クサいところは一切なく、むしろ人間クサい(笑)。
甘い匂いを漂わせ、中年のオッサンならではのセクシーさがあるせいか、やたらと女性にモテる。
そんな俗っぽさがありながらも、やっぱり背中に羽根が生えた天使。映画の最後には、キチンとホロリとさせられる。

これは往年のハリウッドからの系譜とも言うべき、クリスマス映画の王道のセオリーを踏んでいるけど、
こういった映画を、あたかもいとも簡単に作り出しているように見えるところが粋だとでも言うべきか、なんともニクい。
ノーラ・エフロンに限らず、こういう映画を作るノウハウがハリウッドにはあるのでしょう。定番ですが、面白いみたいな。

映画を数多く観た方々や、こういったアメリカライクな部分がむしろ嫌いな人には
向かない映画かもしれませんが、僕はやっぱり、こういう映画に出会うとハリウッドの底力を感じる。
そりゃ勿論、本作の製作にも苦労しただろうけど、こういう映画をポンと作れてしまうところに凄みを感じます。

主演のジョン・トラボルタにしても、かつての『サダデー・ナイト・フィーバー』や『グリース』の頃のように
軽快に踊るわけではありませんけど、それでもそういった時代の栄華を感じて、彼の放つオーラを感じさせる。
そういった“見えない力”がこの映画の根底を支えているわけで、それを嫌味なく利用できる土台がある。
これはホントにスゴいことだと思うし、おそらくずっと他の国がこれをマネしようとしても、出来ないでしょうね。

アリゾナ州の田舎町の朴訥とした雰囲気も良い。
あまりそういった観点からは話題にはならなかったものの、これはある種のロード・ムービーです。
やはり旅する映画というのは、僕にとってはとても魅力的なもので、映画にドライヴ感を上手く与えています。

タイトルのマイケルは、発音によってはミカエル。そう、大天使ミカエル(神使ミハイル)というわけ。
ジャンヌ・ダルクに神の啓示を与えたとか、いろいろと歴史上、重要な人物とされていますけど、
ややもすると、映画はカトリックの歴史に言及するような宗教的な映画かと思うのですが、そうではありません。

クリスマスを題材にしたという点では、宗教色がないわけでもありませんが、
深く宗教に触れなかった点が、この映画の敷居を不必要に高くせずにライトな感覚で見れるようにしたのが良かった。

ただ、欲を言えばですが...この映画って、クインランに訪れた奇跡を描いたような作品で、
結局はマイケルに仲介してもらって、ドロシーとのロマンスを展開するというコンセプトなのですが、
それなら尚更、もっとクインランについてはしっかり描いて欲しかったし、劇中、どこかで彼のキャラクターについて
魅力的に描いて、彼の印象を良くして欲しかったですね。と言うのも、映画の冒頭ではデスクで上司とケンカするし、
どこか身勝手な振る舞いに見えてしまって、奇跡が舞い降りる人物としては、人間的魅力に欠けるように見えます。

これをアンディ・マクダウェルの歌だけで、二人の距離が縮まっていくというのも少々強引で
これもマイケルのマジックと言えばそれまでですが、要所・要所で少々強引な部分があるのが気になりましたね。

クインランを演じたのもウィリアム・ハートなので、地味な役者さんではありますが、
もっと見せ場を作れば、しっかりと演じて磨かれたはずで、きっと人間的にも魅力的に映ったはずだ。
性格的に難しいクインランを巧みに演じていただけに、もう少し彼の“転機”をしっかりと描いて欲しかった。
それをドロシーとの恋だけで説明するのは、さすがに強引過ぎると言うか、少々無理があったように思う。

それでも映画の出来は良いと思います。ナンダカンダで観終わった後、悪い気分にさせられないのは
ノーラ・エフロンの手腕のおかげ。シナリオ、キャスティングの良さはありますが、全体構成も良かったと思います。
劇場公開当時もあまりヒットせず、アッサリと劇場公開が終了してしまった記憶があって、なんだか勿体なかったです。

コミカルでありながらも、やり過ぎない塩梅で映画が崩れないように配慮されている。
逆にコメディに傾倒し過ぎないようでもあるのですが、映画は悪い意味で中途半端というわけでもない。
やっぱりこういうバランス感覚の良さが、本作のノーラ・エフロンの卓越した部分でして、もっと評価されて良いと思う。

それを裏付けるかのように、本作はかなり早い時期にDVD化されて、
ずっと日本では絶版状態だったため、レンタルショップにもラインナップされていなかったために、
長らく視聴困難な作品で、強いて言えば、中古のDVDソフトを探して回るしか方策が無かったのですよね。

ちなみにジョン・トラボルタは同じ時期に似たようなファンタジー映画として、
『フェノミナン』という作品に出演していましたが、個人的にはこっち(本作)の方が好きですね。
なんかやっぱり...ジョン・トラボルタには少しだけでいいから、自虐的なところがあった方が面白いと思う。

そういう意味でも、いつまでも大切にしておきたい一作ですね。

(上映時間105分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ノーラ・エフロン
製作 ショーン・ダニエル
   ノーラ・エフロン
   ジェームズ・ジャックス
脚本 ノーラ・エフロン
   デリア・エフロン
   ピート・デクスター
   ジム・クインラン
撮影 ジョン・リンドレー
音楽 ランディ・ニューマン
出演 ジョン・トラボルタ
   アンディ・マクダウェル
   ウィリアム・ハート
   ボブ・ホスキンス
   ロバート・パストレッリ
   ジーン・ステイプルトン
   テリー・ガー
   カーラ・グギーノ
   ジョーイ・ローレン・アダムス