マーキュリー・ライジング(1998年アメリカ)

Mercury Rising

偶然、国家の機密に関するパスワードを解読した自閉症の少年が命を狙われ、
そんな彼を守るために命懸けの戦いを展開するFBI捜査官の姿を描いたサスペンス・アクション。

ブルース・ウィリス主演作としてはお決まりの、ドラマ性を加味したアクション映画で、
まぁ最低の出来などでは断じてありませんが、それでもやや物足りなさは残る内容かな。

監督のハロルド・ベッカーはこういった類いの映画を撮った経験がほとんど皆無な割りには健闘していますが、
やはり畑違いの仕事に四苦八苦したのではないだろうか。どうも話しの運びが上手くいっていない。
それだけでなく、アクション・シーンが総じて大味な仕上がりで、チョット映画の面白さが引き出せなかった感じ。

確かに僕の中で、ブルース・ウィリスが出ているアクション映画ともなれば、
必ずと言っていいほど『ダイ・ハード』の影が見え隠れしてしまって、比較してしまいがちなのですが、
それを差し引いても、この映画のアクション・シーンは物足りない。
サスペンスの盛り上げ方はまずまずだが、その後に続くべきアクション・シーンが物足りなくては、
どうしても映画そのものが物足りない印象で終わってしまうんですよね。それが残念でなりません。

冒頭、いきなりアクション・シーンから始まる発想は良いと思いますが、
あの一方的とも言える銃撃シーンの迫力に、後のシーンのアクション・シーンが完全に力負けしてしまっている。

自閉症の少年サイモンを演じたミコ・ヒューズはなかなかの力演で、この映画の中では異彩を放っている。
同じブルース・ウィリス主演作の子役と言えば、翌99年の『シックス・センス』で一世を風靡した
ハーレイ・ジョエル・オスメントがどうしても印象的なのですが、本作のミコ・ヒューズも劣らぬ個性の強さだ。
決してサイモン役は容易ではないはずなのですが、ほど良く抑制の利いた良い芝居だと思う。

但し、映画の話しの作り方はチョット甘いですね。
数多くの情報部員の命を守っているという“マーキュリー”の機密性を実験するために、
雑誌のパズル・ゲームとして掲載して、誰も解けないことを確認しようとするという発想が陳腐。
あまり映画そのものの出来に影響を与えたとまでは言いませんが、ストーリーの面白さが削がれてますね。

まぁ手段を選ばない敵が片っ端から関係者を味方につけ、脅していき、
主人公を追い詰めていくサスペンスの盛り上げ方はまずまずですが、いかんせんストーリーの甘さが目立つ。
やっぱりハロルド・ベッカーはもう少し落ち着いた演出をした方が合ってますね。
こういう派手なアクション・シーンが強いられる映画では、なかなかキビしいですねぇ。

自身の目的達成のためならば、人殺しもためらわない非情な政府高官を演じた
アレック・ボールドウィンはこういった規模の大きな作品の準主役では久しぶりに観ましたが、
それなりの芝居かな。個人的にはもう少しアクの強い感じでやって欲しかったなぁ。
安直な発想かもしれませんが、ゲイリー・オールドマンとかが演ると面白くなりそうだったのになぁ。。。

本作でのアレック・ボールドウィンはあまりに無難な感じがしましたね。
ワインセラーでのシーンをはじめとして、いかにも悪そうな雰囲気はあるのですが、
更に一歩踏み込んだ、カリスマ性のような強さが、この映画の彼からは感じられないのですよね。

確かに自閉症の少年との心のドラマを描くことも重要だとは思うけれども、
この手の映画としてはアクションをメインとした方が賢明だった気がしますねぇ。
チョット、サイモンとの心の交流を試みる主人公の姿を強調し過ぎた気がします。

たぶん、そういった人間的な役をブルース・ウィリスが希望したのでしょうけれども、
映画が次から次へと魔の手が迫ってくるスリルを表現し切れなかったのは、僕はこの点にあると思うんですよ。

もっと端的に、分かり易い構図の映画で良かったと思うし、
間髪入れずに次から次へとアクションが続く、アイデア満載の映画が観たかったですねぇ。
思えば『ダイ・ハード』なんかは、そういったコンセプトの映画だったと思うんですよね。
やはり中途半端にしかアクションを描けない作品ならば、一工夫が無いとキビしいですね。

残念ながらブルース・ウィリスは“脱アクション映画宣言”をしてしまいましたが、
やはり彼にはアクション・スターとしての風格が感じられるんですよね。それは本作を観ても明らかなのです。
決して芝居は下手ではないと思うのですが、本作の場合は彼の特性をもっと活かすべきだったと思います。

そんな勿体なさというか、物足りなさが、残念ながらこの映画全体を支配してしまっている。
故に、どうしても全体的な盛り上がりに欠けるのが象徴的でしたね。

まぁ無難な出来と言えば、それは間違ってはいないと思うのですが、作り方によっては、もっと面白くできたはずだ。

それは悪役キャラクターの造詣、ストーリーそのものの甘さ、アクション・シーンの弱さ、
話しの運びの悪さなどが、最後の最後まで足を引っ張り、映画がエキサイティングなものにならなかったわけで、
これらの点を改善するだけでも、僕はこの映画は大きく変わっていたと思いますね。

うーーーーん....勿体ない。。。

(上映時間111分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ハロルド・ベッカー
製作 ブライアン・グレイザー
    カレン・ケーラ
原作 ライン・ダグラス・ピアソン
脚本 ローレンス・コナー
    マーク・ローゼンタール
撮影 マイケル・セレシン
音楽 ジョン・バリー
出演 ブルース・ウィリス
    アレック・ボールドウィン
    ミコ・ヒューズ
    チ・マクブライド
    キム・ディケンズ
    ロバート・スタントン
    ピーター・ストーメア