ザ・ダイバー(2000年アメリカ)

Men Of Honor

これは原題にも出ていますが、
アメリカでよくあるタイプの「子供にオレの生きざまを見せないでいるなんて無意味だ!」的な映画ですね(笑)。

日本語で言うと、“誇り”という名詞がピッタリなのでしょうが、
どちらかと言うと、寡黙な民族性がある日本人であれば、むしろ「子供に働く姿を見せないことが美徳」であり、
どうしても憧れ志望するのであれば、「教えずとも、見て学べ」的な奥ゆかしき伝統が一般的かもしれません。

映画は黒人で初めて海軍の“マスター・ダイバー”になった黒人青年にスポットライトを当て、
教官だけではなく、仲間からも人種差別を露骨に受け、様々なしごきや不当な扱いを受けながらも、
人並み外れた努力により“マスター・ダイバー”になったものの、不慮の事故で片足切断という悲運に
見舞われても尚、義足でダイバー復帰を目指す姿を描いた力強いヒューマン・ドラマです。

正直、ジャンル的にはもう飽和状態のような題材なので、
僕の中ではどうしても観る目が厳しくなった感はありますが、それでも破綻なくキチッとした作りで安心した。
多少、作り込みが甘い部分があるにはあるのですが、決してそれらは致命的なものではありません。
一つ一つのエピソードも実に丁寧に描かれており、実直で素直な作り手の姿勢が感じられる作品です。
(まぁ・・・少々、頭でっかちになり、実直過ぎた感もあるけど...)

96年、『ザ・エージェント』で大方の予想を覆してオスカーを受賞した、
キューバ・グッディングJrがそんな努力家な主人公を演じているのですが、
あんまりブレイクできていない役者さんだけど、本作なんかを観るに、改めて良い役者だと思いますけどね。
まぁどちらかと言えば、コメディ・テイストがある作品の方が持ち前のコミカルさが出て、より映えるんだけど。

まぁデ・ニーロにあっては、これぐらい朝飯前って感じの芝居ではあるけど、
それでも前半にあったように、徹底した黒人嫌悪を剥き出しにして、主人公を虐げる姿や
ヤケ酒をあおって、自暴自棄に振る舞い、暴れ回る姿を演じたのは、説得力溢れる好演と言っていいでしょう。

ダイバー養成施設の入口で主人公が立ちつくしているところに、
オープンカーに乗ってパイプを口に咥え姿はまるで『タクシードライバー』のトラビスだ(笑)。
元々、デ・ニーロは『レイジング・ブル』のように外見から変身していくカメレオン俳優として有名で、
“デ・ニーロアプローチ”なんて言葉も生まれたぐらいですが、これはもう確信犯としか思えない(笑)。
あそこまでやったんなら、いっそのことモヒカンにして欲しかったが(笑)、あれは一種のファンサービス?(笑)

それと驚きなのは、デ・ニーロ演じる教官サンデーの若き妻を演じたのが、
本作製作当時、売れっ子女優になりつつあったシャーリーズ・セロン。出演時間は短いけど、
何が驚きって、撮影当時、彼女はまだ25歳だったことで、そんな若さで50年代の女性のファッションで
父親ほど年上の男の妻を演じて、独特なマダムっぽい空気を出せるなんて、ある意味、素晴らしい(笑)。

当時、シャーリーズ・セロンって片っ端から映画に出演していた記憶があるのですが、
ほとんどの出演作で出演時間が短くとも、例えカメオ出演であっても(笑)、存在感がありますね。
いや、こういう仕事がアッサリできるってのが、女優であることの証しって気もするんですよねぇ。

丁寧に描いてはいるのですが、欲を言えばラストがアッサリし過ぎたかなぁ。
もう1つ、何か“押し”があれば、もっと訴求するドラマになったであろうと思えるのが、勿体ないかな。
あまり過剰にやり過ぎると、映画があざとく見えてしまうのですが、本作の場合はもう少し“押し”ても
良かったような気がしますね。映画のラストがアッサリし過ぎているせいか、物足りないところもありますね。
正直に言いますと、本作に観客の心を突き動かすまでの力は無いように思います。

僕はこの映画の大きなキーだったのは、最初にコックとして乗船した船で
人種差別に基づいたルールを破って主人公が海で泳いだペナルティを課せられ、監禁されていたところ、
主人公の泳ぎの速さを認め、ダイバーが溺れたときにレスキューを行う要員として任命したことだと思いますね。
性格の悪そうな顔つきのパワーズ・ブース(←失礼!)がやって来るのですが、彼の権限で解放します。
えてして、人種差別とはひじょうに根深いものであるわけで、今も尚、残っていると言われます。
本作が実話からインスパイアされたストーリーであるのならば尚更ですが、主人公はここで解放されずに、
コックのままで終わっていれば、いくら人並み外れた努力があれど、チャンスを得ることはできなかったでしょう。

それを考えれば、アッサリと描かれてはおりますが、
この映画のひじょうに大きなターニング・ポイントであったことは言うまでもないと思いますね。

常識では考えられない努力をして“マスター・ダイバー”を目指す主人公を見続けて、
デ・ニーロ演じるサンデー教官も徐々に変わっていくのですが、それでもバーで潜水時間を張り合ったり、
意地でも自分の方がまだ優れていることを証明しようとする姿も、なんだか感慨深いですね。
それでも若さに勝てないのですが、最後の最後まで彼は彼なりに誇りを失わないのですよね。
だからこそ、サンデーはラストの聴聞会に向けて手を貸して、自分を降格させた上官を見返そうとします。

その聴聞会で主人公は130kgもあるダイバースーツ(...というか鎧)を着て、
12歩歩くように指示されるのですが、ここでサンデーがかける台詞が、また良いですね。
(「ダイバーなんて若くして死なない限り、英雄になれない。そんなのになりたいなんて奴の気が知れねぇ!」)

どうでもいい話しではありますが...
精神的に問題があるというレッテルを貼られてダイバー養成施設を送られたハル・ホルブルック演じる、
年老いた軍人が独裁的な施設運営をしていたのですが、これってどうして許されたのだろうか?

普通、レッテルを貼られた軍人なのであれば、第三者の監視下に置かれるだろうに・・・。

(上映時間128分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ジョージ・ティルマンJr
製作 ビル・バタラート
    ロバート・テイテル
脚本 スコット・マーシャル・スミス
撮影 アンソニー・B・リッチモンド
音楽 マーク・アイシャム
出演 ロバート・デ・ニーロ
    キューバ・グッディングJr
    シャーリーズ・セロン
    アーンジャニュー・エリス
    ハル・ホルブルック
    マイケル・ラパポート
    パワーズ・ブース
    デビッド・キース
    ジョシュア・レナード
    デビッド・コンラッド