透明人間(1992年アメリカ)

Memoirs Of An Invisible Man

あまりメジャーな作品ではないが、これはなかなか面白い。

鬼才ジョン・カーペンターが描く、不慮の事故により透明人間とされてしまった、
ビジネスマンの苦悩と、彼を政治的に利用するため、なんとかして捕獲しようとする、
政府関係者の攻防を描いたサスペンスフルなSFコメディで、当時の技術力が結集した作品だ。

この作品のDVDの映像特典で収録されていたのですが、
本作製作当時、ILMの視覚効果技術的にも過渡期を迎えていた頃の作品らしく、
従来の手法と新しい手法が混在した作品らしい。しかし、これは見事なCGで特筆に値すると思う。

特に透明人間になった主人公が、色々と試して自分が透明人間であることを確かめるのですが、
タバコを吸ってみたり、チューインガムを噛んだり、中華料理を食べたりと、内臓の動きが見えるのですが、
それらの映像表現が実にリアルでビックリさせられる。しかも、鏡越しに自分の胃の動きを見た主人公が、
思わず気分が悪くなって嘔吐するのですが、それもまるでバリウムの映像のように表現するのが秀逸だ。

そこまで規模の大きな企画ではなかったようにも思うのですが、
今回のジョン・カーペンターはB級路線に徹することなく、とても気合が入った良い演出を見せている。

確かに追跡劇となると、「もう少し緊張感を出せるのに・・・」と欲目にもかられるが、
主人公が追跡者の本部に侵入するなど、シチュエーションで盛り上げる工夫をしており、
映画を盛り上げようと試行錯誤している痕跡がうかがえて、観ていて嬉しくなっちゃう作品なんですね。

上映時間的にもコンパクトにまとめられており、ひじょうに観易い。
上映時間98分という、実に経済的な時間で描きたいことがコンパクトにまとまっており、
他の映像作家にとっても、お手本となるべき作品と言っても、過言ではないのではないでしょうか。

主演のチェビー・チェイスも、この手のコメディ映画には数多く出演しており、
彼の芝居は手慣れたものですが、ヒロインにダリル・ハンナとはいささかビックリさせられる。

ダリル・ハンナって、ルックス的には派手な印象を受けるんだけど、
意外に恋愛映画のヒロインを選択するよりも、本作のようなコメディ映画のヒロインを好んで選ぶんですよね。
かつて『スプラッシュ』の人魚役でブレイクしただけあって、こういった作品に対する思い入れが強いんでしょうかね。
87年の『愛しのロクサーヌ』のヒロインも悪くなく、この手の映画でよく映える女優さんなのかもしれません。
(そういえばダリル・ハンナ、最近は彼女の映画界での活躍を見ないなぁ・・・)

まぁ・・・ただ...あまり細かいところにツッコミを入れられると、ツラい映画です。
透明人間化する理屈も素人の僕でも首をかしげるレヴェルだし、研究施設の杜撰さもお話しにならない。

ですから、この辺に関しては寛容的に観れなければ、映画は楽しめませんね。
こういった細部までは気を配らない、と言うか...気を配れないのもジョン・カーペンターらしく、
そういう意味では、やはり頑張ってもジョン・カーペンターって、B級な映画監督なのかもしれません(笑)。

まぁ、いつもジョン・カーペンターの監督作品って、
「もう少し作り込めば、面白い映画になりそう・・・」と思わせられるのですが、
この決定打の無さというのが、もはや彼の特徴になってしまっていて、彼はこれぐらいでいいのかもしれません。
もはや世界中にジョン・カーペンターのファンってたくさんいますから、逆に完璧に作り込むと彼らしくないのかも。

その中では本作、やはり頑張った方ではないでしょうかねぇ・・・。
サム・ニール演じる政府関係者が、ほぼ独断で主人公を追跡するなんて設定も、
考えれば無茶な話しなのですが、そういった無茶な設定も、何食わぬ感じで乗り切ってしまう。
こういった細部は、もはやジョン・カーペンターの興味の対象ではないのかもしれません(笑)。

欲を言えば、ジョン・カーペンターの映画って、いつも毒があるのですが...
本作はそんな毒っ気を封印してしまっていることで、僕は映画の最後までそれを期待していました(笑)。
ヒロインが妊娠していることを示唆するラストだったわけですから、エンド・クレジットの最中でも、
主人公とヒロインの子供について言及してくれれば、おそらく彼の毒っ気が炸裂させられたのでしょうけどねぇ・・・。
(まぁ、常識的な観点から言えば・・・それは悪趣味な発想なのだろうけど・・・)

また、主演のチェビー・チェイスも良い味出してますね。
独身貴族を気取っているようですが、孤独には耐えられない寂しがり屋。
サスペンスなパートでも、コミカルなパートでも器用にこなせるので、適役だったと言えますね。

この映画は一応、リメークらしいのですが、かなり中身はアレンジされているらしい。
本作で特に興味深く、かつての映画で描かれてこなかった側面として、透明人間の苦悩がある。

どういうことかと言うと、不慮の事故で透明人間となったことによって、
彼自身も語っているのですが、意外に不都合なことが多いことに驚かされる。

自分自身が透明なので、自分自身を視認することができず、
服を着るのも一苦労で、透明化してしまった服となると、一度、脱いでしまうとどこにあるのかよく分からない。
おまけに周囲の人々から自分が視認できないことによって、あらゆる人がぶつかってくるし、
人ゴミには間違いなく行くことができなくなる。おまけに車に跳ねられる危険も多く、油断も隙もあったもんじゃない。

これまで透明人間をテーマにした映画って、何本かありましたけど、
透明人間になったことを悪用するとか、透明人間になった利点を生かすというテーマが多かったのですが、
本作の発想はその逆で、「現実に透明人間になったら、こんなに不都合なことがあるんだよ」と主張するかのよう。

今であれば、“モーション・キャプチャ”の技術も更に進化していますから、
本作よりも更に上手い映像処理が簡単に実現するのでしょうけれども、これはこれで上手いと思います。
映画に於ける視覚効果技術の変遷を見れるようで、ILMの仕事に興味ある人には、是非ともオススメしたいですね。

あまり過度な期待をかけずに観て頂ければ、そこそこ楽しめる隠れた秀作ですね。

(上映時間98分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ジョン・カーペンター
製作 ブルース・ボドナー
    ダン・コルスラッド
原作 H・F・セイント
脚本 ロバート・コレクター
    デーナー・オルセン
    ウィリアム・ゴールドマン
撮影 ウィリアム・A・フレイカー
音楽 シャーリー・ウォーカー
出演 チェビー・チェイス
    ダリル・ハンナ
    サム・ニール
    マイケル・マッキーン
    スティーブン・トボロウスキー
    ジム・ノートン
    パトリシア・ヒートン