マックQ(1973年アメリカ)

McQ

相棒の刑事が殺され、警察の捜査態勢に疑問を抱いたベテランのハミ出し刑事が
警察に辞表を叩きつけ、私立探偵となってシアトルの街を所狭しと走り回るアクション映画。
往年の名スター、ジョン・ウェインの数少ない現代劇で珍しく刑事に扮している。

まぁ映画の冒頭こそは、どことなくアメリカン・ニューシネマの香りが感じられますが、
本編はよくあるタイプの一匹狼の男を描いた刑事アクションといった趣きだ。

映画の出来としては、平凡といったところだが、どことなくトンチンカンな演出があったりするのも一興だ。

まず、映画の売り物であった激しいカーチェイス・シーンも、
さすがに高齢だったジョン・ウェイン本人に運転させるわけにもいかないのは百も承知ですが、
それにしても思いっきりスタントマンが運転しているのが分かるという何とも、おおらかな映画だ(笑)。
せめてスタントマンにジョン・ウェインと同じ服を着せればいいのに、何とシャツの色が異なるという奇抜さ(笑)。

観るからに、こういった細かな部分には一切気を配らないとする作り手の開き直りが、気持ちいいぐらいだ(笑)。

それを考えれば、事件の真犯人の存在も良く言えば、予想外の展開なのですが、
悪く言えば、半ば思いつきで決められたような感じで、何だか腑に落ちない。

それから映画最大の見物であることは間違いない、クライマックスでの麻薬組織とのカーチェイス・シーンでも、
追いつ追われつの大チェイスを繰り広げながら、ジョン・ウェインがサイレンサーに接続した
1秒で32発もの弾丸を連射できるという機関銃を取り出して、マフィア映画ばりにブッ放して解決するという
当時、数多くの刑事映画の傑作が輩出されましたが、そういった他作品も真っ青の解決法だ。

極めつけは、ラストシーンでのジョン・ウェインの台詞で
まるで『ダーティハリー』のように正義の概念を問いなすようなラストシーンでありながらも
「あそこにバーがある。一杯飲んで、忘れよう」と行って、ホントにバーに入っていくという大胆さ。

どれもこれもジョン・スタージェスが激しいカーチェイスを撮りたいがために実現した映画であることを
如実に証明しているかのようだ(笑)。主演がジョン・ウェインになったのも、
既にジョン・ウェインの病が判明していた時代ですので、多くのファンに彼の健在ぶりをアピールするために
西部劇以外の映画でイメージを一新して若々しい姿を見せようと、彼の身内が勧めたような気がします。
なにせ、本作の製作総指揮がジョン・ウェインの息子、マイケルが担当していますから。

そんなアグレッシヴなチャレンジは、チョット失敗だったかな。。。
まぁ嫌いになれない類いの映画ではあるのですがね、ジョン・ウェインの存在云々以前の問題として、
映画の作りが粗雑過ぎて、他の点で色々と注文を付けたくなってしまうのです。

前述した、あの機関銃にしたって、チョット場違いな演出だなぁと感じられてしまうのが、正直な感想だ。

ジョン・スタージェスだって、『OK牧場の決斗』なんかを観れば分かりますが、
活劇を撮るにあたっては、何一つ不足のないディレクターだと思うんですよね。
つまり、もっと上手くやる方法はあったのではないかと思うのです。
もっとストレートなアプローチで良かったかなぁ、中途半端にニューシネマっぽく見せるのではなくって。

ジョン・ウェインにとっても、この仕事は決してイージーなものではなかっただろう。
もう、激しいアクションが不可能だったことは明らかだし、動きのあるシーンなんかでは
痛々しいまでに老体に鞭打って闘う彼の姿が印象的だ。

ただ、ニューシネマっぽい映画の冒頭の警察官が次々と射殺されていくシークエンスは妙にカッコいい。
エルマー・バーンスタインのファンキーなミュージック・スコアも上手くマッチしていて、
時代を感じさせる雰囲気でありながらも、タイトでカッコいい仕上がりになっています。
また、この一連のシークエンスに関しては、ハリー・ストラトリングJrのカメラも大きく貢献している。

映画の前半で港付近で逃走する暗殺者に銃を構える主人公を背後からとらえたショットは実にカッコいい。
この辺のセンスはカメラマンのビジョンが色濃く反映されている気がしますね。

おそらくこの映画は『ブリット』からカーチェイスのアイデアを、『ダーティハリー』から主人公のキャラクターを、
『フレンチ・コネクション』から麻薬組織絡みの犯罪という発想を、それぞれ頂戴したのでしょう(笑)。
考え過ぎかもしれませんが、こういった勘ぐりをしたくなってしまうほど、
一連の70年代刑事映画ブームの王道を次から次へと登場させてきます。

まぁ70年代の刑事映画を極めたいというマニアックな趣味をお持ちの方や、
ジョン・ウェインの熱狂的なファンの方なら、必見の作品と言えますが、個人的にはそれ以外の方は
あまり楽しめない出来の映画ではないかと思います。

ジョン・ウェインは75年、もう一本の現代劇『ブラニガン』に出演しますが、
76年に西部劇『ラスト・シューティスト』に出演して、その後、長い癌との闘病に終止符を打ち、この世を去ります。

『ラスト・シューティスト』はまるで往年のハリウッドの専売特許だった西部劇の息の根を
完全に止めるかのような作品でしたが、ひょっとしたらジョン・ウェインこそが、
往年のハリウッドという栄光にすがることを、最も嫌っていたのかもしれませんね。

だからこそ彼がこの映画に出演する気になったのかもしれません。

(上映時間111分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ジョン・スタージェス
製作 ジュールス・レヴィ
    アーサー・ガードナー
    ローレンス・ロマン
脚本 ローレンス・ロマン
撮影 ハリー・ストラトリングJr
音楽 エルマー・バーンスタイン
出演 ジョン・ウェイン
    エディ・アルバート
    ダイアナ・マルドア
    コリーン・デューハースト
    クルー・ギャラガー
    デビッド・ハドルストン